2014年6月2日月曜日

「目覚めた獅子」中国 5

 中国の高成長は、天安門事件以降の1991年にはじまった。
 中国は豊富で低廉な人件費を武器に改革開放政策のもと外資を呼び入れ、アメリカ、ヨーロッパ、日本へ集中豪雨のごとく製品を輸出し、これらの国々には中国製品で溢れかえった。
 が、2008年のリーマンショックを契機に先進国の購買力に陰りがでるや、中国は世界に先駆けて4兆元投資による景気持ち上げ策を強行し、それまでの輸出主導から一転して投資へと景気のエンジンを切り変えた。
 2008年以降毎年20%以上のペースで投資を伸ばしたことは既に述べた。
 行き過ぎた投資による経済成長も当然のごとく壁に突き当たった。輸出と投資による成長も限界にきて、2012年あたりから中国の成長に暗雲が漂った。
 そして習近平政権になってからはじめての2013年11月 三中全会でこれまでの投資による経済成長は限界にきているとの懸念が表明され、規制緩和、権限委譲、三次産業の振興等による経済成長に舵が大きく切り替えられた。
 中国の成長の行方は三中全会で決定された事項の成否にかかっているといってもいい。その経済政策は下記のごとくかってないほど大胆で、革新的、意欲的である。
三中全会で示した経済分野の改革方針(三井物産戦略研究所八ッ井琢磨氏資料)
土地制度
   ・都市と農村の統一的な建設用地市場を構築
   ・農村集団経営の建設用地の譲渡、賃貸を許可
   ・農業請負経営権の抵当、担保の権利を認める
金  融
   ・人民元レートの市場化メカニズムの改善
   ・金利市場化、資本取引自由化の実現の加速
   ・預金保険制度、破綻処理制度の整備
戸籍制度
   ・小都市への移住制限を全面的に開放
   ・常住人口全てに都市基本公共サービスを提供
   ・都市部の農民を社会保障体系に組み入れ
国有企業
   ・国有企業の投資事業に非国有企業の出資を許可
   ・国有独占業種で行政・企業機能を分離
   ・公有制は主体的地位、非公有制も支持
人口政策 社会保障
   ・夫婦の一方が一人っ子なら 2 人目出産許可
   ・段階的な定年退職年齢の引き上げを検討
   ・国有企業の国庫納付拡大、社会保障財源に
税 財 政
   ・増値税改革の推進、不動産税の立法作業加速
   ・地方税体系の改善
   ・中央と地方の収入区分を調整
価格政策
   ・水、エネルギー、交通、通信などで価格改革
   ・市場で価格形成できるものは市場に任せる
   ・農産物の価格形成メカニズムを改善
対外開放
   ・金融、教育などサービス分野で投資規制緩和
   ・上海自由貿易区を通じた改革の深化
   ・周辺地区を基礎とした FTA 戦略の加速

 経済成長の勢いを最大限に生かすには市場に権限を委譲しイノベーションを強化しなければならない。そのためには企業が市場の主役を担わなければならない。
 中国は国有企業が圧倒的に優位である。
 三中全会決定では自由な競争、法治の徹底をうたっているが、国有企業と集団所有企業のいわゆる公有企業が主導的地位であることが明記されている。
 共産党政権による政策決定の限界がここに垣間見れる。
 公有企業優先でイノベーションを進める。ただでさえ非効率な公有企業がイノベーションを押し進める。
 そんなことでイノベーションが易々とできるくらいなら経済学200年の歴史はなんであったのかということになる。
 10年前に比べ改革の文言がより多く盛り込まれていることは習近平政権の意気込みが感じられるが、習近平政権は政治的には少数民族弾圧、メディア統制、毛沢東礼賛など保守的政策に傾いている。
 政左経右ともいわれる中国の前途を見極めるのは難しい。

「 『政左経右』は果たして成り立つのだろうか?『誰も逆らえない専制君主が正しい政策を効率よく推し進める』ーしかし、世界の歴史は『そうは問屋が卸さない』ことを物語っている。
 三中全会が強調する『市場経済』の理念も突きつめていくと、『開明的な専制君主』とは本質的な衝突がある。
      (中略)
 習近平主席は三中全会決定で『背水の陣』を敷いた。

 この改革が停滞するようなら、我々は中国が真正の経済危機に陥ることを想定に織り込まなければならなくなる。
 だからこの『習近平改革』の成功を祈りたいというと、日本では『親中派め!』 と悪口を言われそうだが、ここは冷静に考えてほしい。
 いま中国共産党が力を失えば、世界第2位の経済大国にして、複数核弾頭を搭載した大陸間弾道弾(MIRV)を擁する国がアンコントロールになる。
 それは隣国日本に、世界にどういう影響を及ぼすか。いまの共産党体制が崩壊しても、中国という国がなくなる訳ではない。
 後を継いで政権を担うのは、どういうグループになるのか。そのグループがいまの共産党よりマシである保証はまったくないのである。
 後継政権は体制崩壊後の困難を山ほど抱えるだろう。未熟な政権がその困難に直面したとき、対外的にフレンドリーな態度をとる可能性は、むしろ低いと思っておいた方がよい。
 嫌いな中国や共産党の崩壊を願うのは『熊さん八っつぁん』の感覚である。」
 (文春新書 津上俊哉著『中国停滞の核心』)

 今や中国抜きで世界の政治や経済は語れない。中国の20年超にわたる高度成長によって先進諸国は経済的に互恵関係を築けたことは紛れもない事実である。

 が、忘れてならないことは、人民とは一線を画し共産党政権の存立があらゆるものに優先するという思想が三中全会決定の底流をなしていることである。
 言論統制、少数民族弾圧、、遅々として進まない格差是正と環境汚染対策等の中国の現実から判断すれば、中国は共産党官僚を宗主とする新種の植民地ともいえる。
 共産中国といかに付き合うべきか? 
 植民地政権や独裁政権との付き合い方の例は枚挙に暇がないというのがその答えである。

 が、これで中国との付き合い方が分かったなどと思うのは浅薄の謗りを免れない。
 それはあくまでも中国に対する日本や西欧の基準を尺度にした理解に過ぎない。
 中国の歴史や中国人の行動様式抜きの理解など、ほんの上っ面に過ぎず、とても中国を理解したなどと言えない。
 中国を真に理解するためには、中国の歴史や中国人の心に深く溶け込んでいる行動様式を理解することが不可欠である。

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