2017年8月26日土曜日

悲観大国ニッポン 4

 生まれや育った環境、文化、宗教が異なる外国人は、日本人とは違った視点で日本を客観的に見ることができる。その見方は、正しいか否かは別にしてわれわれの考えるヒントにはなる。
 この観点から二人の外国人の相反する日本感の根拠について検証してみよう。

 ・ジャック・アタリ
 日本は並はずれた技術力で80年代に世界の中心都市になるチャンスがあったにもかかわらずそれを逃した。
 それは官僚が特権維持にこだわり外国人を受け入れて中心都市になるにふさわしい普遍化の使命を担わず内にひきこもったからである。
 これがジャック・アタリの日本に対する見方の核心部分である。
 80年代当時日本が世界の中心都市になろうという野望をもっていたかは疑問であるが、経済的に日の出の勢いにあり、外国からもそのように評価されていた。
 外国人受け入れは、歴史的にみても世界の中心都市になるためには必要条件かもしれない。
 だがその意思がなければあえてすることもないだろう。『ジャパンアズナンバーワン』でも指摘されているように日本の成功は日本的なやり方にあり、と日本自身が自負していたのだから。
 ジャック・アタリはグローバリズムや緊縮財政について利点は述べてもそれがもたらす弊害については過小評価している。
 欧州は行き過ぎたグローバリズムと緊縮財政のために現状は彼の思惑通りにはなっていない。
 アジアについては日本と異なり韓国は中国との関係が良好として過大評価しているが現状は説明するまでもない。
 日本のグローバルな人材の受け入れは先進国では最も遅れているかもしれないが、この分野で進んでいる欧州の混乱を見るかぎり、行き過ぎた人材のグローバル化には疑問が残る。
 このようにいくつか疑問点があるにしても、ジャック・アタリの自由についての歴史的見識は高く評価されているようだ。
 この点、日本に対しては否定的であるが、それは個性とか自由について日本と欧米との間には抜き難い認識の差があるからであろう。

 ・イェスパー・コール
 知的財産 
 研究開発費のGDPに占める割合が米独より多いので、日本は将来にわたり楽観していいという。が、問題はその内容である。
 80年代に日本企業の強みは長期的視野に立った経営にあるといわれた。
 ところが昨今の知的財産の活用については、それは当て嵌まらないようだ。
 かってソニーの知財部門のトップを務めた中村嘉秀氏はいう。
 「経営者は長期的事業戦略や競争には気が回らない。開発、事業、知財の三位一体こそ競争力の源泉である。・・・ 世界を見渡せばApple,Google,Amazon,Microsoft,Qualcomm,Intelなど知財戦略がそっくり事業戦略になっている。
 日本でもかっては、ソニーのプレイステーションやCD事業、任天堂のファミコン、日本ビクターのVHS事業なども同じだった。」(馬場練成『発明通信社【潮流No73】』)
 研究開発費の多さだけで手放しで楽観的にはなれない。

 人口問題
 生産年齢人口の減少→労働力不足→供給不足、はこれを否定的に捉えるのではなくむしろ一人ひとりの価値および生産性を引き上げるチャンスと見るべきであると主張している。 この見解は現在の供給過剰・需要不足に起因するデフレ時代には言い得て妙である。
 労働力不足を安易に移民により補うことの危うさは欧州の混迷をみれば明らかだ。

 日本に楽観的なイェスパー・コール氏であるが、彼は2008年当時、日本に悲観的であった。その根拠について自ら述べている。

 「私も色々と日本の審議会に参加しました。それはすごい。検討は深いところまでやって、国際的な比較もします。 非常に面白く、勉強になる。勉強で終わらずにプランまでは出す。しかし、決定能力はゼロに近い。(中略)
 日本がいずれ二等国に転落するというレポートはすでにいろいろ出ています。その最大の原因は意思決定ができないということです。」
(イェスパー・コール『日本はすでに世界の関心からはずれている』2008年6月言論NPO)

 当時と比べ政治の決定力が格段によくなったとも思えないが彼が楽観に転じたのは、資産運用も手がけるエコノミストらしい変わり身の速さなのだろうか。

 このように楽観も悲観もその根拠となるものに、外国特に先進国と比べて際立ってニッポンが悲観的にならなければならない理由が見出せない。
 双方とも人口問題を主要な根拠の一つに挙げているが、そのこと自体決定的な根拠に欠ける証でもある。
 ニッポン人は諸外国に比べ社会システムに不信感をもっておらず、平和だと思っているにもかかわらず、将来に対して最も不安を抱えているのは日本人であるという事実は受け止めなければなりません、と調査会社の社長が言うように、これは事実なのだからそうなった原因がなければならない。
 なにもニッポン人は趣味で悲観的になったわけではなかろう。中には悲観好きの人がいるかもしれない。どこにも物好きはいる。
 問題は、好事家ではない大多数のニッポン人がなぜ悲観的になったか、真の原因がどこにあるかである。

2017年8月21日月曜日

悲観大国ニッポン 3

 次に楽観的な日本論について
 高度経済成長期には時代を反映した日本楽観論が受け入れられた。その一人にアメリカの社会学者エズラ・ヴォーゲルがいる。彼が1979年に上梓した『ジャパン・アズ・ナンバーワン』は、日本の高度経済成長の要因を分析した代表的な日本楽観論の一つである。
 1970年代から80年代にかけては生産年齢人口が多い人口ボーナスといわれる時代であった。
 だが現在の低成長時代の近未来予測としては人口ボーナスは前提にできない。日本の生産年齢人口の減少は内外の識者が一様に指摘するところである。この人口減少が今や日本悲観論の主要な根拠の一つとなっている。
 それでは今の日本楽観論はなにがベースになっているかといえば皮肉なことにこの人口減少もその一つになっていることである。つまり人口減少は悲観・楽観双方の主張の根拠となっているのである。
 ドイツ人エコノミストのイェスパー・コール氏は日本楽観論を展開しているが人口減少をその要因の一つとして挙げている。
 彼はエコノミストらしくデータを駆使して日本の悲観論は根拠がなくそれは単なる日本人の悲観好きにすぎないという。
 その主張の裏づけをいくつも挙げているがとくに彼が強調しているのが知的財産と人口問題である。

 ・知的財産
 公的機関と民間企業を合わせた研究開発費対GDP比率を日米独で比較すれば2014年の時点では米独が2%台後半に対し日本は3%台後半である。
 日本はものづくり大国といわれるが、競争力の源泉となる研究開発によって生み出される知的財産分野でも大国である。
 研究開発費投資がそのまま特許取得・商品化につながるわけではないが資本主義に不可欠なイノベーションの可能性という点で日本はリードしている。

 「日本は資源の乏しい国です。生産人口が減少する時代に入って、労働力という意味での人的資源も今後は不足していくでしょう。
 しかし、日本には資源不足を補って余りある知財という資源がある。これを活かすことでふたたび世界をリードできるはずです。」(イェスパー・コール著プレジデント社『本当は世界がうらやむ最強の日本経済』)

 ・人口問題
 人口減少、特に若年労働力人口が減少するのは深刻であるが、需要と供給の原則から労働者一人ひとりの価値は上がる。労働者の価値が上がれば自ずから雇用の問題の解決につながる。
 日本の失業率は欧米に比べて低い。日本3.11%、米4.85%、独4.16%である。(2016年IMF統計ベース)
 日本に限って失業の問題など存在しないかのようにに見える。
 だがそれは見せかけにすぎない。近年アングロサクソン流の新自由主義、市場原理主義、グローバル資本主義が推進された結果、正規社員から賃金が安い非正規社員へと置き換えられ失業率こそ悪化しないものの雇用の質が悪化してしまったからである。

 「いかに非正規を正社員化して、賃金を高めていくか。それが日本の抱える課題でした。少子化によって人口が減るのは、おもに若年層です。
 これから2020年東京オリンピック&パラリンピックまで、66歳以上の日本人は毎年43万4000人ずつ増えていきます。
 一方、企業のマネジメントの中核をなす36歳以上55歳未満は毎年17万2000人ずつ減少します。
 現場を担う25歳から35歳の人に至っては、毎年23万1000人ずつ減っていきます。
 つまり働かなくなる人が増えて、働く人が減ります。働く人が減れば、人手不足になりますよね。
 人手不足とは人の供給不足ですから、一人あたりの価値は高まります。
 企業は人を確保するためにこれまで以上の高条件を提示しなくてはいけません。その結果、魅力のない非正規のオファーは減り、かわりに正社員のオファーが増えていきます。
 つまり人口、とくに生産人口が減れば、需給のバランスという自然の摂理によって、勝手に非正規社員の正社員化が進むのです。」

 「非正規が減って正社員化が進めば何が起きるか。まず賃金が上がります。
 正社員の賃金のうち約35%がボーナスです。もし同一労働同一賃金で正社員と非正規社員の月給が同じだとしたら、正社員はボーナスに加え、社会保険の恩恵もプラスされますので、年収ベースで50%近く高いという計算になります。 
 この前提で正社員の割合が1%高くなれば、日本の国民所得は0.7%上がります。仮に正社員率が10%上がれば国民所得は7%アップ、正社員率が15%上がれば国民所得は約10%アップです。
 私は非正規率が40%から25%に下がると予想しているので、国民の所得はトータルで10%アップですね。」

 「所得が増えて生活が安定すれば、これまで経済的事情で結婚や出産をあきらめていた人たちが積極性を取り戻します。
 そうなれば出生率も改善します。政府が婚活支援をするより、このほうがずっと効果があります。
 少子化は日本にメリットをもたらしますが、急激な少子化は社会的な混乱を招きやすい。
 出生率が上向けば、そのデメリットが緩和されて、より好ましい形で人口減少が進んでいきます。
 人口減少がもたらす正社員化は、まさしく日本のあらゆる問題を解決してくれるのです。」(前掲書)

 いくら労働力の質が改善されたとしても絶対的な労働人口が減少すればGDPがマイナス成長になるのではと心配されるがそれは生産性向上でカバーできる言う。
 1998年に日本の労働力人口がピークを迎えたが、GDP成長率は199年以降、低成長あるいは時折マイナスを記録するものの、平均的にはプラスで推移している。これは生産性向上の証である。
 イェスパー・コール氏は、数少ない楽観的な日本人以上に楽観的である。

2017年8月14日月曜日

悲観大国ニッポン 2

 自分の顔は鏡を通してしか見ることができない。ところがわれわれは自分の思考や行動パターンになると鏡の役目など思いもつかないで自分自身を熟知しているかのごとく考えかつ振舞いがちである。
 だが熟知していると思っているのは錯覚にすぎないのではないか。自分自身を知るのは難しい。同じ失敗を繰り返す人が多いのがその証左である。
 失敗を繰り返す人はおおにして周囲の忠告に耳をかさず客観的に自分を見ようとしない。
 このことは国家や民族についても言える。外国人の日本論はわれわれが気づかないことを教えてくれることがある。
 そこで視点を変えて外国人の日本論をとりあげこれを検証してみよう。

 まず、フランスの思想家ジャック・アタリの日本論について

 ”欧州の知性”とか”欧州の頭脳”と形容されるほどこの高名な思想家は彼の代表的な著作で日本の近未来について悲観的な見方をしている。

 「日本は世界でも有数の経済力を維持し続けるが、人口の高齢化に歯止めがかからず、国の相対的価値は低下し続ける。
 1000万人以上の移民を受け入れるか、出生率を再び上昇させなければ、すでに減少しつつある人口は、さらに減少し続ける。
 日本がロボットやナノテクノロジーをはじめとする将来的なテクノロジーに関して抜きん出ているとしても、個人の自由を日本の主要な価値観にすることはできないであろう。
 また、日本を取り巻く状況は、ますます複雑化する。例えば、北朝鮮の軍事問題、韓国製品の台頭、中国の直接投資の拡大などである。
 こうした状況に対し、日本はさらに自衛的・保護主義的路線をとり、核兵器を含めた軍備を増強させながら、必ず軍事的な解決手段に頼るようになる。
 こうした戦略は、経済的に多大なコストがかかる。2025年、日本の経済力は、世界第5位ですらないかもしれない。」(ジャック・アタリ著林昌宏訳作品者『21世紀の歴史』)

 ジャック・アタリが指摘するのは人口減、個人の自由の制限および国防費増の3点でありこれらにつき少し敷衍し問題点を明らかにしよう。
 ・ 人口減問題
 国立社会保障・人口問題研究所(平成29年推計)の日本の将来推計人口によれば、2015年の国勢調査で1億2709万であった人口が、2040年に1億1092人、2053年に9924万人、2065年に8808万人になると推計している。
 世界の人口が爆発的に増加すると予測されているのにこの日本の人口減予測は突出している。
 日本はこれまで移民を受け入れてこなかったがこの政策を撤回しないかぎり長期衰退は避けられないという。
 ー人口減は日本衰退の予兆として内外から指摘されている。

 ・ 個人の自由
 ユダヤーギリシャの理想は自由こそが究極の目的であり、また道徳規範の遵守ともなり、生存条件でさえあることを明確にした。
 ところが個人の自由は日本の主要な価値観ではない。それゆえ外国から有能な人材を集めることが出来ない。
 ー個人の自由・個人主義が徹底していないところに優秀な人材は集まらない。

 ・国防費の負担増
 中国、韓国、北朝鮮との関係は和解しなければならないが、話し合いでの解決は容易ではない。
 軍事的なオプションが必ず求められるであろう。その場合多大な費用負担を伴う。
 ー国防費の負担増はその他の縮減を伴い国力低下になる。

 ジャック・アタリは日本に対し悲観的である。日本はかって世界の中心になるチャンスがあったのに国を開放せず移民を受け入れなかったことなどのためそれを逃した。
 近未来には世界の中心になる資格などなくむしろ凋落の一途をたどるだろう。

 2011年1月中央大学における講演で21世紀の世界のシナリオで日本について少子化以外の要因も挙げて悲観的に言及している。

 「第1段階はアメリカの相対的凋落だと言った。ヨーロッパは連邦化が進み上昇するが、日本は沈むだろう。
 日本は国家債務が多すぎ、少子化に有効な手が打てず、政府は勇気ある増税策を取れないから、危機から脱するのは難しい。
 しかしナノテクノロジー、バイオテクノロジー、ニューロサイエンス、情報技術といった、教育や医療に有効な技術的ポテンシャルを日本は持っている。その強みを生かせるかどうかだ。」

 未来に希望がないわけではないが、日本の命運は半ば尽きたと言わんばかりの日本論である。

2017年8月7日月曜日

悲観大国ニッポン 1

 調査会社エデルマン・インテリジェンスが2016年10月13日から11月16日にかけ28カ国で実施した国民の自国に対する信頼度調査で、日本は最下位であった。
 プレスリリースでは具体的に他国と比較した内容について述べ結論として日本は将来に希望をもてない悲観大国であると断じている。
 
 「日本の知識層における信頼度は回復しましたが、『自分と家族の経済的な見通しについて、5年後の状況が良くなっている』と答えた日本人回答者は、知識層31%、一般層17%で(グローバル平均:知識層62%、一般層:49%)、昨年に引き続き調査対象28カ国中最下位の結果となりました。
 さらには、『全体として、国は正しい方向に向かっている』と思っている日本人は全回答者の33%しかおらず(グローバル平均:50%)、英国(50%)や米国(51%)と比較しても、日本人はより将来に対して悲観的な国民であることが伺えます。
 また、『子供たちは、私より良い人生を送れるだろう』と思っている日本人回答者は29%で、英国の43%、米国の58%と比較しても、またグローバル平均の55%と比較しても、日本人は将来に対して希望を抱いていない国民であり、引き続き「悲観大国」であることが明らかになりました。」
(エデルマン・ジャパン(株)2017年2月7日プレスリリース『日本は悲観大国を脱することができるのか?』)

 この調査結果についてはエデルマン・ジャパン社長ロス・ローブリーもコメントしている。

 「相対的に見ると、日本人は現在、他の諸外国に比べれば、そこまで社会システムに不信感を持っておらず、様々な社会問題に対しても、不安や恐れのレベルはそれほど高くないように思われます。
 日本の知識層の自国に対する信頼度が大幅に上昇したのも、ブレグジットやトランプ現象に比べれば、日本は平和だと思った結果なのかもしれません。
 しかし、日本における信頼の格差(注:知識層と一般層の格差)が調査史上初めて明らかになり、また、将来に対して最も不安を抱えているのは日本人であるという事実は受け止めなければなりません。」

 日本人は悲観的である。悲観論が好きとも言われる。日本に生活の拠点を移してから約30年経つというドイツ人エコノミストのイェスパー・コール氏は自著『本当は世界がうらやむ最強の日本経済』で、「日本の文化や生活スタイルにだいぶ馴染んだつもりです。ただ、いまでも理解しがたいことが一つあります。日本人はどうしてこんなに悲観論がすきなのか!」と不思議がっている。
 日本人は貯蓄好き、保険好きともいわれる。これは将来に対し不安を抱いているからだろう。ラテン系の人たちのように楽観的でないことはたしかだ。
 悲観主義は日本の文化なのかもしれない。日本人は自分や家族あるいは身内については自慢しないし、そういうことははしたないことだと教わっている。
 自慢する人がたまにいてもそういう人はなんとなく違和感をもたれる。
 ものごとを悲観的に話すほうが知的と受けとられる。テレビのコメンテータは深刻な面持ちで悲観論を展開すれば高額なギャラを受け取ることが出来る。その背景に視聴者の悲観論好きがあるからである。
 なぜ日本人はこうまで悲観的なのか、一度立ち止まって考えてみたい。