2013年4月29日月曜日

道州制考 1

 自民、公明両党が道州制基本法案を今国会に提出する構えをみせている。都道府県を廃し、10程度の道や州に再編すると言う内容で、与野党の殆どが賛成している。
 内閣官房の道州制ビジョン懇談会の中間報告とりまとめ資料で道州制を導入することのメリットとして次の点があげられている。

① 政治や行政が身近なものになることで受益と負担の関係が明確化し、効率の低い政治行
政の要求が抑制される。
② 政策の意思決定過程の透明化が進み、住民参加が容易になる、
③ 東京一極集中が是正され、多様性のある国土と生活が構築される、
④ 地域の実情や特性を踏まえた迅速で効果的な政策展開が可能となる、
⑤ 国の縦割り機構による重複行政がなくなり、補助制度による無駄遣いや陳情合戦の非効率が改革される、
⑥ 十分な規模と権限を持った道州による地域経営がなされることで、広域の経済文化圏が確立される、
⑦ 国の役割を国家本来の機能に集中させることで、国家戦略や危機管理に強
い中央政府が確立される、といったメリットがある。

 その一方で、以下の懸念や課題も指摘されている。

① 国の「上からの調整機能」が失われるために、地域間の格差がかえって拡大する。
② 道州に十分な人材や能力が伴わず、国の関与が続く結果となる。
③ 規模が大きくなることで住民との距離が広がり、住民自治が形骸化してしまう。
④ 道州間の企業や富裕層誘致の競争が激化し、生活者の目線から遊離してしまう。
⑤ 都道府県単位で育った業界や文化の団体が困る。
⑥ 都道府県単位で代表を出している行事等ができなくなる。

 しかし、これらの課題は道州制の制度設計を適切に行うことで乗り越えることが可能である。
 さらに、道州が実際に施策を展開する際に、こうした課題に対して十分に配慮することで、課題が克服され、むしろ大きな成果を挙げることができるものと考えられる。
 ただし、地域主権型道州制のもとにおいては、地域経営における自己責任が重くなるのは確実である。それに向けた、首長、議員、公務員はもとより住民の覚悟が求められる。
(内閣官房 H20年3月24日道州制ビジョン懇談会中間報告から)

 なお、同懇談会の中間報告で、現状の問題点として中央集権体制を槍玉にあげている。

 「日本経済が一定レベルに達する一方、人類の文明がそれぞれの満足を求めるものとなり、国境が稀薄となるグローバル化が進展している現在、日本の中央集権体制は有効性を失い、国民生活のさまざまな側面において数多くの弊害を発生させている。 国際社会におけるわが国は、多くの分野で一時の勢いをなくし、最も得意とする経済ですら、「もはや一流の国とはいえない」状態に陥っている。
 いま日本が行なわなければならないのは、明治以来の「古い国のかたち」である中央集権体制を解体し、今日に適応した「新しい国のかたち」をつくることにほかならない。」

 今や、日本の衰退の原因は、中央集権体制にありと自信たっぷりに断言している。
 この中間報告がのべているように、中央集権体制が日本衰退の原因であれば、道州制導入は喫緊の課題である。
 明治の草創期には、外敵の脅威に対抗するためにも急いで中央集権体制にし国内の力を結集しなければならなかった。
 それ以来、長い間の中央集権体制も、確かに制度疲労を来たしているかもしれない。
 が、このことが直ちに地方分権に結びつくかどうか、中央集権体制のもととなった廃藩置県の背景を探り、また最近のグローバル化の潮流を見極めなければならない。
 道州制は、狂欄を既倒に廻らす切り札になるのか否か、軽々と判断するには過分な事案である。


2013年4月22日月曜日

規制緩和

 あるスローガンを掲げ、それに向かってまっしぐらに駆けるとなると余程の環境が整はないとうまくいかない。
 ところが政府の産業力競争会議の議事ではメンバーの選定によるところ大と思われるが”規制改革なくして成長戦略なし” ”規制改革は成長戦略の一丁目一番地だ”などと自説を展開して止まない人がいる。
 アベノミクスの第一の矢 大胆な金融政策は成功裡に滑り出したし、第二の矢 機動的な財政政策も大いに期待できる。
 が、第三の矢 民間投資を喚起する成長戦略には危惧の念を抱く。下手をすると、この第三の矢の矛先は国民自身に向かってくるかもしれない。
 自由貿易とか規制緩和とかに反対すると、抵抗勢力とか古い体質とか言はれかねない風潮もしくは空気がこの日本にはある。
 アベノミクスの三本の矢は日本経済を取り戻すためのものであるから、この目的に適わなければ成案から排除すべきである。
 規制緩和には功罪があり、功ばかり目を向け、罪に目を瞑ることは片手落ちだ。
 成功例としてすぐ思いつくのが電気通信事業である。これによりインターネットの通信料が劇的に安くなり普及が進んだ。
 失敗例としては、しばしばとりあげられるが、タクシーの規制緩和である。
 この緩和でタクシー業界が過当競争となり、瞬く間に阿鼻叫喚の業界と化した。
 前者では規制緩和が環境と合致し、後者は環境が整っていなかったことが原因である。
 そこで規制緩和するには規制緩和できる条件とは何かを俎上にのせて検討する。これがまっ先にやらなければならない作業である。
 規制するには、それなりの条件があった筈であり、この条件が解かれれば需給バランスを考慮し規制緩和すべきだろう。
 この作業抜きでいきなり、成長には規制緩和が一丁目一番だなとというのは、カルト教の教祖が俺に黙ってついてこいというようなものだ。
 規制緩和の条件または環境とはなにか。規制の原因は、市場競争に任せたままでは、独占による供給抑制と価格吊り上げ、安全性、公共性が損なわれるなどのデメリットが生ずることを排除することである。
 したがって規制緩和は、これらの要因がなくなったときに初めて有効となる。
 規制緩和の判断の基準は、需要が供給を上回っている状態、公共性、安全性が担保される条件などでなければならない。
 これらの条件を無視した議論は、デフレ下でデフレを促進し、成長戦略にとって、むしろ有害でさえある。
 ところが、いつもながら、産業力競争会議の有力メンバー竹中慶大教授の説得力には舌を巻く。

 「ノーベル経済学者のクルーグマンとも議論したが、需要と供給は片方の問題ではない、需要は供給に影響されるし、供給は需要に影響される。
 したがって両方上がっていくようにしなければいけない。
供給を上回って需要ば増えることはできない。したがって成長の上限は供給できまる。いままで成長の上限が抑えられていた。
 私にしても将来自分の所得が増えないとおもうからお金を使う気になれない。
 将来所得が増えないと思うのは潜在成長率が低いとおもうからである。
 供給が増えれば、ほっといても需要が増えるとはいはない。
 しかし供給が頭打ちになっている限り、需要は増えない。一時的に政府が需要を増やすことはできる。しかし継続的に需要を増やすためには、供給、稼ぐ力を増やすしかない。
 銀行の貸し出しが増えないのは、需要がないことと、貸し渋っていることが原因である。
 新しく事業を興そうという人に聞くと、一杯やりたいことはあるが規制があってやれないという返事が必ず返ってくる。
 これが需要が伸びない理由の一つである。
             (H24年自民党創生「日本」7月総会)

 同教授の説に従えば、この20年間続いたデフレの原因は規制があって思うように供給が伸びなかったからということになる。
 ご本人はわが意を得たりの自説かもしれない。
 白を黒といい含める技と言う意味では妙に得心が行くが、成長戦略が支離滅裂になりはしないかという懸念ばかりが残る。
 例えは適切でないかもしれないが、古今東西、戦争が勃発すれば、当事国又は周辺国は例外なく需要が急増しデフレから脱却している。
 太平洋戦争の米国、朝鮮特需の日本など、需要牽引によるデフレ脱却の歴然たる証拠ではないか。
 アベノミクス第三の矢はどこに向かっていくのかいよいよ目が離せなくなった。


2013年4月15日月曜日

TPP 4

 TPPで一番利益を得るのはだれか。それはおそらく1%のアメリカの企業家であろう。
 交渉次第ではあるが日本の大企業も利益に預かることができるかもしれない。
 TPPの利益はアメリカ政府のためでなく、アメリカ国民のためでもない、ひとり少数の企業家のためのものである。
 交渉を成功裡に進めるためには、どうしても秘密主義にならざるを得ない。
 細部を白日のもとに晒したら残りの99%が反対するからである。
 アメリカ企業の影響力は大きい。銃乱射事件が頻発しても、未だに銃規制されていない。
 大統領自ら率先して規制に取り組んでいるにも係わらず未だ実現されていない。我々の理解を超える。
 この、アメリカの企業家、政府、国民の関係は頭に叩き込んでおかないと、TPPを理解することはまず難しい。
 このようなTPPに日本が参加したらどうなるか。間違いなく日本の国のかたちが変わるだろう。少なくとも今よりアメリカ化するだろう。
 日本は、資本主義国でありながら平等を実現している稀有な国として諸外国から認められ、国民もそれを誇りにしてきた。
 少なくとも格差拡大を是とする考えはなかった。平均的な新入社員と社長の給料は、せいぜい1対10である。
 これに比しアメリカのそれはリーマンショック直前になんと1対1700であった。
 日本でも最近格差の問題が取り上げられているが、アメリカの格差は度外れだ。ウオール街で起こった、99%のためのデモは必然だし、今後も繰り返し起こるだろう。
 新自由主義の代表的な理論、富は必ず上から下へ流れるという トリクルダウン理論は、発展途上国や小国には有効でも、日米など先進国には必ずしも有効ではない。
 富は使用されてはじめて、この理論が成り立つが、富を所有するだけで配分にまわさなければこの理論はなりたたない。
 昨今の日本企業の異常な内部留保の積み増し(2010年度末大企業だけで266兆円)はこのことを如実に物語っている。
 4/12安部首相は、日本のTPP交渉参加に向けた日米間の事前協議が決着したと発表した。
 4/12付のマランティス米国通商代表代行の書簡で今後のTPPの行方がおおよそ見当がつく。

 「両国政府は,TPP交渉と並行して,保険,透明性/貿易円滑化,投資,知的財産権,規格・基準,政府調達,競争政策,急送便及び衛生植物検疫措置の分野における複数の鍵となる非関税措置に取り組むことを決定しました。
これらの非関税措置に関する交渉は,日本がTPP交渉に参加した時点で開始されます。
 両国政府は,これらの非関税措置については,両国間でのTPP交渉の妥結までに取り組むことを確認するとともに,これらの非関税措置について達成される成果が,具体的かつ意味のあるものとなること,また,これらの成果が,法的拘束力を有する協定,書簡の交換,新たな又は改正された法令その他相互に合意する手段を通じて,両国についてTPP協定が発効する時点で実施されることを確認します。
 米国は,自動車分野の貿易に関して長期にわたる懸念を継続して表明してきました。
 それらの懸念及びそれらの懸念にどのように取り組むことができるかについて議論を行った後,両国政府は,TPP交渉と並行して自動車貿易に関する交渉を行うことを決定しました。
 交渉は,添付されているTORに従い,日本がTPP交渉に参加した時点で開始されます。
 さらに,2013年2月22日の「日米の共同声明」に基づき,両国政府は,TPPの市場アクセス交渉を行う中で,自動車に係る米国の関税がTPP交渉における最も長い段階的な引下げ期間によって撤廃され,かつ,最大限に後ろ倒しされること,及び,この扱いは米韓FTAにおいて自動車に係る米国の関税について規定されている扱いを実質的に上回るものとなることを確認します。」

 かねて懸念されていた日本の交渉力であるが、これが現実のものになりつつある。
 譲歩に譲歩を重ねている。日本サイドで唯一メリットと思われた自動車については、米韓FTAよりさらにアメリカに譲歩している。 我々は米韓FTAで韓国に同情していたが、これでは同情すべきは日本ということになる。
 この書簡で、TPPの順守に法的拘束力をもたせるようTPP協定が発効する時点までに法令などを作成するなどと、特に非関税障壁について詳しくのべている。このあたりにアメリカの意図を窺い知ることができる。
 この事前協議の成果で安部首相が強調するTPP参加による安全保障のメリットについて考えてみたい。
 TPP参加による安全保障上のメリットは大きい。高橋洋一氏がいうように、仮にISD条項により訴えられたとしても、安全保障上のメリットからすれば些細なことであり、中国と尖閣諸島紛争勃発の可能性を考えれば、これが経済に与える悪影響は計り知れず、TPPから受ける被害は物の数ではないかもしれない。
 が、日本がTPPに参加しなければこれらの保障は担保されないのだろうか。
 日米安全保障条約は日本のためだけではなく、覇権国アメリカのためでもある筈だ。
 以前アメリカがOECDにISD条項を入れようと提案したときフランスを始めとした先進各国が猛反対し実現しなかった。
 先進国同士のISD条項締結が危険であることを認識していたからである。
 特に、米国相手のISDによる訴訟が如何に危険であるかは、カナダとメキシコとのISDによる訴訟結果をみれば歴然としている。 米企業とカナダ政府は28勝0敗、米企業とメキシコ政府は19勝0敗である。
 両国企業から訴えられた米国政府は19勝0敗と、米企業及び米政府はISDによる訴訟で一度も負けたことがない。
 ISD条項は国の主権に係わる。国の主権が侵害されれば、国家存立の意義さえ失いかねない。
 同じ先進国として、日本がなぜ拒否できないのか。
 自民党が掲げたTPP交渉参加の判断基準第5項(国の主権を損なうようなISD条項は合意しない)はどうなるのか。
 西郷隆盛に倣っていいたい「ISD条項につき、今般政府に尋問の筋これあり」と。
 安全保障のために、国のシステムまで変えかねないTPPにあえて参加するというが、その犠牲はあまりにも大きい。格差拡大、貧困、治安の悪化がその先に透けて見える。
 TPPで一番問題なのは、農業問題とか、関税撤廃の問題もさるこながら、非関税障壁とか称して、アメリカが自国のルールに置き換えようとすることである。
 我々は、世界の多くの紛争地域で、貧困から逃れるために、兵士に志願する人々を見てきた。なにも、アジア、アフリカの発展途上国だけでなく、超大国のアメリカにおいてさえそうである。
 貧困から逃れられるとあらば、人々は躊躇なく戦場へと向かう(ルポ 貧困大陸アメリカ)。
 そこには戦争の崇高な大儀の欠片もない。これが偽らざる現実ではないか。
 安全保障は国の基本であるが、保障され、守らるべき国民生活がゆがんでしまっては、本末転倒となる。
 最近は政府、マスコミの宣伝効果もあり、やや賛成派が勢いを増しているが、このように、TPP参加によって損なわれるものが多いことが広く国民に浸透することを期待して止まない。
 日本人は水と安全はタダで手に入れることができるといわれたくらい安全な社会を築いてきた。
 少数の富裕層と大多数の貧困層からなる社会に今までと同じような安全が担保されるだろうか。
 国民はそのような社会を望むのだろうか。
 鄧小平が唱えた、先に豊かになれるものから豊かになり、取り残された人を助けよという、中国流トリクルダウン理論”先富論”によって改革開放路線をすすめた中国においても、今や格差拡大は深刻な社会問題となっている。
 TPPに参加すれば、今すぐにではなくとも徐々に格差拡大社会に向かうだろう。
 TPP自体がそのように制度設計されているからである。
 そのような日本を一体誰が見たいと思うだろうか。


2013年4月8日月曜日

TPP 3

 TPPは秘密に包まれ、かすかにリークされた情報からだけであるが、農業の問題だけでなく国民生活全般に及ぶと考えなければならない。
 ”投資”という項目が入っているからである。投資は国民生活の全ての分野に関係する。
 TPPに賛成の論陣を張っているマスコミでさえ例外ではありえない。
 現時点で判明している情報をもとにTPPに賛否を表明している代表的と思われる論客の主張を見てみよう。
 まず、TPPに賛成の嘉悦大学教授 高橋洋一氏の主張

 「まず、自由貿易の恩恵、これは経済学の歴史200年で最も確実な理論だ。TPPに参加すれば、10年間経過して調整が終了した後に、年間3兆円のGDP増加があって、それがズーと続く。
 (つまり最初の10年間は累計で3兆円だが、その後は毎年3兆円のGDP増となるということ)
 もちろん国内生産者のデメリットがあるからこそ、自由貿易には反対運動がある。
 消費者からのメリットの一部を、経済被害を受ける国内生産者に所得移転(所得補償)してもまだ余りが出る。だからこそ、自由貿易を進めていける。
 次に、ISD条項 TPPに参加しISD条項が適用になった場合、日本政府が訴えられる可能性が高まるのかどうか考えてみよう。
 まず基本的な事実として、これまで日本は25以上の国と投資協定を結んでおり、それらの中にISD条項はほとんどすでに入っている。
 アメリカの協定はないが、アメリカ企業は日本の協定先国経由でこれまでも日本を訴えることが可能だった。
 つまり、アメリカ企業はTPPなしでも日本を訴えることができた。 また、カナダやメキシコはISD条項で訴えられた国として反対論者が例に挙げている。
 ところが、カナダもメキシコもTPPに参加している。ISD条項の内容が酷くてメリットより訴訟リスクが高いのであればTPPに参加などしないだろう。
 最後に、安全保障上のメリットだが、これは先の日米首脳会談でTPP交渉参加と集団的自衛権がセットになっていることからも、日米軸で対中、対北朝鮮の覇権ブロックに有効だ。
 TPPは、国際政治から見れば日米同盟で共通価値観を形成するのに役立ち、同時に対中での防波堤にもなる。
 しかも国際経済では自由貿易のメリットを日本が享受できるので、一石二鳥だ。
 ISD条項でアメリカ企業に日本が訴えられる可能性はあまりないと思うが、もしそうなっても、安全保障上のメリットを考えれば、些細な話だ。
 中国との間で、万が一尖閣諸島紛争でも勃発すれば、その場合の日本経済への悪影響は計り知れない。
 民主国家同士で、経済同盟などで共通の価値観をもち、経済的関係が深ければ、まず軍事紛争は起こらない。
 国際政治上の同盟国間での貿易紛争など、民主的平和の代償と思えばたいした話でない。」

 さすが、小泉・竹中政権当時の政策ブレーンであっただけに、根拠が理路整然としており、反論の余地もない。
 特に安全保障の問題は日本の死活に係わるだけに説得力がある。
 ただ、メキシコとカナダ参加の件では、両国はすでにNAFTA(北米自由貿易協定)でISD条項で訴えられているので、両国のTPP参加とISD条項存在の関連性は希薄と言はざるを得ない。
 日本が25以上の国と投資協定を結び、これらの国経由でアメリカが日本を訴えることができたのに訴えなかったので日本にとってTPP不参加とISD条項の存在の論拠にはならないという主張は矛盾している。

 次に、TPPに反対の急先鋒である、通商産業省の中野剛志氏の反対の根拠

 「第一に、TPPは農業が盛んな東北の被災地の復興の妨げになる。TPPに参加して農業経営が厳しくなるかもしれないと思ったら、被災した農家の人々は気力を失う。
 第二に、TPPは参加国のGDPの割合から、実質的に日米貿易協定なので、アジア太平洋の新興国の成長を取り込むことなどできない。しかも輸出倍増を掲げるアメリカが最も輸出先として期待しているのは日本だ。
 第三に、日本はTPPに参加しないと世界の潮流から取り残されるとか、鎖国になるとかいった懸念があるがそれは間違い。
 日本の貿易は、既に開かれており、アメリカ、韓国、EUの平均関税率比較で、日本の関税率は、韓国、アメリカより低く、農産品では韓国、EUより低い。
 しかも、日本は食糧の自給率が低いので農業市場は十分に開放されている。これ以上農産品輸入を増やしたら、食料の自給率とデフレ下でのデフレ促進の問題が発生する。
 第四に、TPPは、農業だけではない。現在、TPPの交渉は農業以外にも、金融、投資、労働規制、衛生・環境、知的財産権、政府調達など、あわせて24もの分野がある。
 TPPは、日本の食料だけではなく、銀行、保険、雇用、食の安全、環境規制、医療サービスなど、国民生活のありとあらゆるものを、変えてしまいかねない。
 特に、アメリカは、日本の保険制度をアメリカの保険会社に有利なように変えることを求めてきている。保険制度、自動車の安全基準や環境規則など国民の健康や安全に係わることもアメリカ企業に有利になるように変えさせられるおそれがある。米韓FTAでは、これら憂慮されていたことが現実となっている。
 最後に、まずは、TPPの交渉に参加してみて、どうしても譲れない部分があるなら、交渉から離脱すればよいという意見がある。 これは現実的でない
 特にTPPは、実質的に日米協定、したがって、もし日本がいったん交渉に参加しながら、途中で抜けたら、アメリカは裏切られたかっこうになり、日米関係は非常に悪化する。アメリカ以外の国々からも信頼を失う。
 TPPの交渉にいったん参加したら、どんなにルールが不利になろうと離脱することはできなくなってしまう。
 1911年小村寿太郎が、不平等条約を改正し、関税自主権を回復したが、TPPで、これを放棄しようとしている。
 特にISD条項は、自国の法律が及ばない主権の放棄に他ならない。」

 中野氏の論法にならえば、安部首相は、既にTPP交渉参加表明をしたので、もう引き返せないかもしれない。
 TPPを促進している通商産業省に在籍していながら、あえて、大胆にTPPに異をとなえる勇気は多とすべきだ。
 日本に、もし誇るべきものがありとせば、いかなる組織においても立場を超えかかる勇気ある人がいることは、そのうちの一つに数えられるだろう。
 ただ、食料の自給率の問題はとりあげているが、高橋洋一氏がいうTPPと安全保障の問題には触れていない。
 賛成、反対に係わらず、何れも解りやすい論旨である。彼らの主張は、それぞれ賛成、反対の意見をほぼ集約している。
 我々は、これをどう判断したらいいのか。熟慮を重ね、観点を変え、改めて考えてみたい。


2013年4月1日月曜日

TPP 2

 TPPは、2006年にシンガポール、ブルネイ、チリ、ニュージーランドの4カ国で発効し、その後アメリカなど5カ国が交渉に参加した経済連携協定である。
 例えは悪いが、第一次大戦後のドイツで、アドルフ・ヒトラーが僅か7人の政治結社に参加したのを連想させる。
 ヒトラーはその後、軍事で欧州を席巻したが、アメリカもTPPに参加し、関税撤廃の嵐で太平洋を取り巻く諸国を席巻しつつある。
 日本が参加すれば、なおさらその感が強い。もっともヒトラーは政治結社参加時は、単なる退役一伍長に過ぎず、アメリカのようにはじめから席巻することを約束された存在ではなかった。
 アメリカのオバマ政権の重要政策の一つに輸出倍増があるが、TPPはこのアメリカの施策の一つに組み入れられ、日本の参加を期待しているのは間違いないだろう。
 戦後アメリカは、日本に様々な要求を投げかけ、日本の歴代政権はこれに答えてきた。
 日米構造協議、年次改革要望書、そして現在の日米経済調和対話と名前は変わったが実態は変わっていない。
 建前は、日米夫々の要望を出し合う協議の場だが、実質は一方的であったことは成果が示すところである。
 日米経済調和対話UNITED STATES-JAPAN ECONOMIC HARMONIZATION INITITAIVE)は様々な分野に及んでいる。折にふれ取り上げられる農業問題だが、これに矮小化すべきような事柄ではない。

http://japanese.japan.usembassy.gov/j/p/tpj-20110304-70.html

 大きな流れでみれば、TPPは、この日米二国間協議の延長戦上にあると思って差し支えないだろう。
 アメリカの意図がTPPを輸出倍増計画の一つに組み入れられているにしても、その他の意図はないのだろうか。アメリカの意思決定はどのような背景から成り立っているのだろうか。
 日本もそうだが、アメリカでも政権が変わっても変わらない基本的な国の方針というものがある。
 日本では、その役割を、ゆるやかではあるが官僚が担って来た。
 アメリカはどうか。アメリカには、官僚ではない組織がその役割を担ってきた。
 外交問題評議会、ビルダーバーグ会議、日米欧三極委員会などがそれであろう。
 歴史家アーサー・シュレジンジャーは、特に外交問題評議会(Council on Foreign Relations)を指して、アメリカの支配階級の中枢部のための隠れ蓑組織と評した。
 事実これらの組織は、会合の内容が一切公表されず、秘密のままである。この組織の凄さは、メンバーにアメリカの支配階級の殆どを網羅しており、その中には有名なメディアの経営者も含まれる。
 これらのメンバーは、民主党政権だろうが、共和党政権だろうが、政権が変わっても変わることはない。
 1991年三極委員会でのデヴィッド・ロックフェラーのスピーチがそれを裏付けている。

 「ほぼ40年にわたって ワシントンポスト ニューヨークタイムズタイムマガジン そしてその他偉大なる出版社の取締役が我々のミーティングに参加してくれ、公表しないで、静かにしくれていたことに感謝している。
 それらの年月の間 もし我々が世間の注目の明るい光の中に出ていたなら 我々の計画を発展させることは不可能だったろう。
 しかし世界は今さらに洗練されて、世界政府に向けて行進する準備は整っている。
 その超国家的な知的エリートと国際銀行家の支配力は 確かに過去の世紀の国家が自分で決めていたやり方より望ましいものだ」

 三極委員会や外交問題評議会を伏線としてTPPを見てみよう。
 デヴィッド・ロックフェラーとは逆の立場でTPPをみる米市民団体パブリック・シチズンのロリ・ウオラックの指摘は、三極委員会でのデヴィッド・ロックフェラーのスピーチと、見事に裏返しとなっている。
 同女史は言う、TPP全26章のうち貿易関連は2章のみで、その他は企業に特権を与えるもの。TPPは秘密につつまれ、TPPを監督する立場の上院貿易委員長さえも草案にアクセスできない、トロイの木馬である。
 TPPは、三極委員会でデビッド・ロックフェラーが述べたように、秘密にしてこそ成功できるもので、白日のもとに晒されたら失敗する。いはばドラキュラである。
 事実TPP担当のカーク通商代表は、なぜ交渉経過を秘密にするのかと聞かれ、FTAA交渉は公開したら暗礁に乗り上げたからと回答している。
 TPPは秘密裡に進められる上に、一度固まったら全員が同意しないと変更できないセメントのようなもの。
 同女史はこのように述べ、TPPの目的は、1%の企業家の利益のためであり、米国民やその他の国民のためのものではないと断じている。
 デヴィッド・ロックフェラーとロリ・ウオラック両者の意見から、どうやらTPPを理解する上でのキーワードは、”1%”と”秘密主義”であるようだ。
 我々は、アメリカは、自由で開かれた民主主義国家であり、秘密主義など、共産主義国家の専売特許で、アメリカとは関係ない、などと考えているとしたら、とんだ考え違いをしていたことになる。
 ともかく日本政府は、このような経済協定交渉に参加する意思表示の手を挙げた。
 正式参加できるか否か、予断は許さないが、国益の見地から当否につき、引き続き考えてみたい。