2019年7月29日月曜日

衰退する日本 4

 日本がデフレに陥り20年以上もの長きにわたり低迷した原因は何か。
 それが国外の要因でないことは明らかだ。日本以外の主要国は日本ほど低迷していないからである。
 地震や風水害など自然災害のせいでもないだろう。それらは一過性にすぎないから。
 国民が以前ほど勤勉でなくなったからなのだろうか。それも違う。デフレは需要不足、供給過多によって生じた経済現象であるからである。
 残るものとしては国内、それも人災しか考えられない。問われるのは国家の舵取りである。国家財政の緊縮路線と骨太の方針で決定された構造改革である。

 まず緊縮路線から
 わが国の政策を事実上決定しているのは政治家でも国民でもなく選挙の洗礼を受けていない官僚である。
 立法府の国会に法案を起草するのは国会議員であるが事実上これを作成しているのが官僚であることは広く知られている。33本もの議員立法を成立させた田中角栄は例外中の例外だ。
 日本がデフレから脱却できない原因は何か。わかりやすくいえばそれは国家財政を家計と同一視しているからであろう。
 支出は収入の範囲内でなければならない。消費税増税とPB(プライマリーバランス)目標の設定はその一環である。特にPBはデフレから抜け出せない元凶である。いづれも日本を衰退させた中核の政策であり財務省所管である。
 人は小さなウソは見抜けても大きなウソは見抜けない。同じく、小さな誤りには気づいても大きな誤りには気づかないようだ。
 国家財政を家計と同一視する政策は戦後最大の失政であり不幸にもそれが今なお継続していることである。

 第二次安倍内閣誕生から6年間内閣官房参与としてアベノミクスにかかわってきた藤井聡氏は政府の内側から見ていた人だけが知る財務官僚の実態を分かりやすく描写している。

 「PB目標が閣議決定されてしまえば、いかにそれを覆すことが法的に可能であるとはいえ、それを行えば財務省は凄まじく反発することになる。
 『財布』を握る財務省が『つむじを曲げる』ようなことがあれば、政権運営の円滑性が損なわれてしまう。
 あらゆる政策の実行には『予算』が必要であり、その予算執行において財務省がサボタージュすれば政策は何も進まなくなるからだ。
 しかも財務省はほかの省庁と違い、徴税権(税金を徴収する権限)や査察権(税金の不正を検査する権限)があり、一旦怒らせればどういう『報復』をされるか分からない、という恐怖心を一人ひとりの政治家、あるいは、学者や言論人たちに与えることができる。
 だから、筆者はしばしば、いわゆる政府要人たちの口から、『財務省と闘うには、選挙とかなんだとか、そういう相当荒っぽいことをやらないと、勝てないんだよね。一回怒らしちゃうと、何されるか、ホント分かんないんだよ』というような台詞を何度も聞いたことがある。」
(藤井聡著小学館新書『令和日本・再生計画』)

 かって天子の側近で権勢を誇った中国の宦官(かんがん)もさもありなんと思わせる財務官僚の振舞いである。
 財務官僚にとって消費税増税とPB目標は利権の温床でありあらゆるものに優先する。
 緊縮財政は財務省の省是といっても過言ではなくこのためにたとえわが国が衰退の一途をたどろうとも国民が塗炭の苦しみを味わおうともおかまいなし。国益など二の次三の次である。
 この異常事態は予算編成権と徴税権という強大な権限が財務省へ集中している当然の帰結であろう。
 「権力は腐敗する、絶対的権力は絶対的に腐敗する」(ジョン・アクトン)これを憂い一部の識者は欧米のように財務省の予算編成権と徴税権を分離すべしと主張するも公式の議論の俎上にさえ上らなかった。実現は程遠い。
 国民の目はそんなことより吉本騒動に向けられている、このほうがはるかに面白いからだろう。
 だがこのまま放置していいはずがない。消費税増税によりやがて不況に突入し給与が下がり将来の年金も怪しくなればいくら温和な国民でも何かがおかしいと気づき目覚めるときがくるであろう。
 それまではいくら叫んでも無駄かもしれない。この意味において皮肉にも消費税増税が国民の意識を目覚めさせる契機となるかもしれない。そう期待するほかない。

2019年7月22日月曜日

衰退する日本 3

 税金は法人税、所得税を問わず国民のおカネを吸い上げる働きがある。
 なんのために吸い上げるか。政府は社会保障費などの財源のためであると説明するが本当にそうなのだろうか。
 政府は法人や個人と異なり通貨発行権がある。財源をすべて国民から吸い上げた税金で賄わなければならないという説明には無理がある。財源の一部の説明をあたかも全てであるかのように説明する。
 税について国家と国民のコミュニケーションはないに等しい。

 民主党政権(2009~2012)のとき期待に反し国民の失望は大きかったが自民党政権に代わっても経済が好転したとは言い難い。名目GDP推移から安倍政権の実績は民主党以下であることが分かる。


IMFデータ(World Economic Outlook Database)ガベージニュース描画
↑ 主要国名目GDP(2019年時点の上位10か国(米ドルベース)、IMF予想含む、兆米ドル)
主要国名目GDP(2019年時点の上位10か国、IMF予想含む兆米ドルベース


 重要な指標である実質賃金が安倍政権になって激しく落ち込んでいることが見て取れる。

月間給与前年度比増減率(事業規模5人以上)
厚生労働省発表H19.5.19




 
 民主党政権(H21~24)は「コンクリートから人へ」で公共事業費を削減した。グラフに示すように安倍政権は「コンクリートから人へ」をそのまま踏襲している。
 われわれは安倍政権になって民主党政権時以上に公共事業関係費が増えた印象をもつかもしれないが実態はかくの如くである。
                          
財務省資料 平成28年12月「公共事業費 推移 2019」の画像検索結果
 
 アベノミクスの評価のポイントとなる名目GDPは伸び悩み、実質賃金は下降したままである。日本は衰退の道を歩みはじめている。
 緊縮財政で予算は限られる。公共事業関係費の落ち込みはほんの一例にすぎない。
 緊縮財政が日本の成長を阻害する。給与は上がらず、景気は低迷したまま。原因があるはずだ。
 参議院議員選挙は与党が消費税増税を選挙公約に掲げたにもかかわらず無風におわった。国民の目はいまだ前方に立ち込める暗雲に向けられていない。

2019年7月15日月曜日

衰退する日本 2

 カネも名誉も命もいらぬ、ただひたすらお国のため。一片の私心もない西郷の生き方は日本人の心の琴線に触れる。
 昭和初期、不況で巷には失業者があふれ農村は疲弊しきっていた。飢えを凌ぐための娘の身売り話はこの頃のことである。一方政財界の上層部は贅に酔いしれ腐敗しきっていた。
 この窮状に青年将校は決起し要人をつぎつぎに殺した。人びとは喝采した、青年たちの動機に一点の曇りもなく純真であったからである。
 日本人は結果より人の心根、動機を問題にしがちである。動機がよければたいがいのことは許される。
 だが動機がよければすべてが許されることになれば社会秩序は保たれない。
 少なくとも民主主義はなりたたない。民主主義に手続きは不可欠でそれを欠けば民主主義ではなくなる。
 アメリカ独立戦争のキッカケとなったボストン茶会事件がそのことを教えてくれる事例の一つである。

 18世紀の北米植民地で、イギリスは、本国のイギリス議会に代表を持たなかったにもかかわらず北米植民地のイギリス人に対し課税した。
 この課税はリーゾナブルであったが植民地のイギリス人に一切相談なく行われた。
 植民地人もイギリス人である。この課税は権利の侵犯であるとして植民地人は怒った。
 代表を有する植民地議会からの課税ではなく代表を有しない英本国議会からの課税であったからである。
 「代表なきところに課税なし」のスローガンのもと植民地のイギリス人は自主課税を貫いた。自らの税は自ら決める、これこそ民主主義の事始めである。
 課税の意味、課税とは何か、民主主義を理解するためにはこのことをしっかりと腑に落とし込んでおかなくてはならない。
 民主主義は国家と国民のコミュニケーションでありそこに手続きは欠かせない。
 丸山真男は民主主義は民主化のプロセスとしてのみ存在する永久革命であるといった。

 「およそ民主主義を完全に体現したような制度というものは嘗(かつ)ても将来もないのであって、ひとはたかだかヨリ多い、あるいはヨリ少ない民主主義を語りうるにすぎない。
 その意味で『永久革命』とはまさに民主主義にこそふさわしい名辞である。なぜなら、民主主義はそもそも『人民の支配』という逆説を本質的に内包した思想だからである。
 『多数が支配し少数が支配されるのは不自然である』(ルソー)からこそ、民主主義は現実には民主化のプロセスとしてのみ存在し、いかなる制度にも完全に吸収されず、逆にこれを制御する運動としてギリシャの古から発展してきたのである。」
(丸山真男著未来社『現代政治の思想と行動』追記)

 民主主義は与えられるものではなく心の内から湧き出るものでなければならない。言うは易く行うは難しである。
 覚悟をもって気長に求めるほかない。民主主義にゴールはない。それを求め続ける努力こそが本当の民主主義である。
 翻って昨今のわが国の民主主義はどうか。とくに税をめぐり国家と国民のコミュニケーションは十分にとられているだろうか。順を追って検証しよう。

2019年7月8日月曜日

衰退する日本 1

 安倍首相は参議院選挙公示前日の7月3日、党首討論会で「10月予定の消費税率10%への引き上げ後、さらなる増税について『今後10年間ぐらいの間は必要ないと思う』と述べた。
 2016年6月2度目の延期から3年間にわたる水面下の戦いでついに増税派が勝利した。増税を主導したのが財務省であることは知る人ぞ知る。

 安倍首相は就任以来外交で目覚ましい活躍をし世界における日本のプレゼンスをかってないほど高めた。戦後誰も成し遂げることができなかった輝かしい成果である。
 だが内政は彼が悪夢と酷評する民主党政権にも劣る。実績がそのことを示している
 消費費税増税が予定どうり実施されれば消費が低迷し安倍内閣の評価はいずれ「地に落ちる」ことが目に見えている。
 
 デフレ下の緊縮財政に追い打ちをかけるように逆進性が高い消費税が増額される一方法人税が低いまま放置される。
 緊縮財政は日本経済を弱体化させ公平であるべき税の不公平は社会を分断する。
 当初失われた10年といわれた経済低迷がずるずると失われた20年になりそして今終焉するメドさえたたない。病膏肓(やまいこうこう)に入る。

2019年7月1日月曜日

揺らぐアメリカ 10

 サミュエル・ハンチントンは「ほとんどの文明は家族のようなものだ。それを構成する国々はそのなかではたがいに争っても部外者にたいしては団結する。日本は、家族をもたない文明である。」といって日本を一国家一文明と定義した。 
 20世紀イギリスの歴史家アーノルド・トインビーは日本文明はシナ文明の分派と定義した。日本と中国は同種同文で顔も似ているがそれは必ずしも同種の文明とは結びつかない。行動様式からみても日本文明はシナ文明の分派とみるには無理がある。

 家族であれば家族がもつべき義務を負わなければならないが日本にはそのような家族に相当する国はない。
 日本文明に似た文明は世界のどこにもない。文明的には日本はいわば天涯孤独の国である。それが冷徹な現実である。
 それがあってか日本はいままで勢いのある強い国と同盟を結んできた。第一次世界大戦前はイギリス、第二次世界大戦前はドイツ、第二次世界大戦後はお仕着せとはいえアメリカと同盟を結んだ。
 今後はどうか。中国が台頭して世界の勢力図は変わりつつある。だが衰えたりとはいえアメリカが依然として唯一の超大国であることに変わりない。
 トランプ大統領誕生でアメリカの政策は明らかに保護主義に転換した。
 トランプ大統領は日米安保条約について有事にアメリカのみが義務を負うのは不公平だと不満を表明した。過去のアメリカ大統領が決して口にしなかった言葉である。
 日本が今まで通りアメリカに追随してさえいれば安全が保障される時代は終わりに近づいたと見るべきだろう。

 これまで見てきたように日米の間には多くの点で大きな隔たりがある。似ても似つかない間柄である。
 最大の隔たりは宗教であろう。国の誕生からして狂信的なほど信仰心が篤いアメリカ人と現世重視の八百万の神を信じる日本人では天と地ほどの隔たりがある。家族という関係からほど遠い。

 トランプ大統領が提起した問題の解決には73年前の日本国憲法制定時(昭和21年11月)にまで遡らなければならない。
 実質的にアメリカ占領軍主導で作成されたこの憲法では、日本が国際社会に永久に「牙」をむかないように制定されている。これには日本の安全はアメリカが保障する暗黙の前提があった。
 いわゆる「安保タダ乗り」はアメリカ主導でなされた政策である。
 日本は国防を他国に丸投げで依存する政策を70年以上にわたり継続してきたことになる。
 トランプ大統領の発言はこの歴史的背景を意識したものとも思えないが彼の内向き政策から見れば明らかに不公平と映るだろう。
 もともと追随するだけの抱き着き外交は尊敬も信頼もされない。そうであればそれに対応した政策が求められる。
 トランプ大統領は日米安保は不公平といった。だが日本にとっては日米安保条約第6条の日米地位協定にもとづき設置された日米合同委員会の取り決めは不公平である。たとえば横田空域の設定などおよそ独立国とは言えない扱いである。
 トランプ大統領の発言はアメリカの本音の一端であろうがこれを真摯に受け止めることはアメリカだけでなく日本にとっても利益である。
 安全保障を全面的にアメリカに依存するのではなく抑止力としての戦力を日本独自に備えてより強固な日米安保体制を目指す。
 孤立すれば有事に頼る相手はいない。日米安保条約を今以上に強固にする。
 ことの本質は憲法にかかわる、憲法の見直しなしにこの問題を議論してもいつまでたっても抜本的解決にはならない。 
 わが国の憲法は70年以上一度も改正されることなく放置されたままだった。一体だれがこの憲法改正を成し遂げることができるのだろうか。
 それができるのは前例を踏襲する官僚でないことは確かであろう。期待できるのは世論とそれをけん引する政治家であろう。