2019年7月1日月曜日

揺らぐアメリカ 10

 サミュエル・ハンチントンは「ほとんどの文明は家族のようなものだ。それを構成する国々はそのなかではたがいに争っても部外者にたいしては団結する。日本は、家族をもたない文明である。」といって日本を一国家一文明と定義した。 
 20世紀イギリスの歴史家アーノルド・トインビーは日本文明はシナ文明の分派と定義した。日本と中国は同種同文で顔も似ているがそれは必ずしも同種の文明とは結びつかない。行動様式からみても日本文明はシナ文明の分派とみるには無理がある。

 家族であれば家族がもつべき義務を負わなければならないが日本にはそのような家族に相当する国はない。
 日本文明に似た文明は世界のどこにもない。文明的には日本はいわば天涯孤独の国である。それが冷徹な現実である。
 それがあってか日本はいままで勢いのある強い国と同盟を結んできた。第一次世界大戦前はイギリス、第二次世界大戦前はドイツ、第二次世界大戦後はお仕着せとはいえアメリカと同盟を結んだ。
 今後はどうか。中国が台頭して世界の勢力図は変わりつつある。だが衰えたりとはいえアメリカが依然として唯一の超大国であることに変わりない。
 トランプ大統領誕生でアメリカの政策は明らかに保護主義に転換した。
 トランプ大統領は日米安保条約について有事にアメリカのみが義務を負うのは不公平だと不満を表明した。過去のアメリカ大統領が決して口にしなかった言葉である。
 日本が今まで通りアメリカに追随してさえいれば安全が保障される時代は終わりに近づいたと見るべきだろう。

 これまで見てきたように日米の間には多くの点で大きな隔たりがある。似ても似つかない間柄である。
 最大の隔たりは宗教であろう。国の誕生からして狂信的なほど信仰心が篤いアメリカ人と現世重視の八百万の神を信じる日本人では天と地ほどの隔たりがある。家族という関係からほど遠い。

 トランプ大統領が提起した問題の解決には73年前の日本国憲法制定時(昭和21年11月)にまで遡らなければならない。
 実質的にアメリカ占領軍主導で作成されたこの憲法では、日本が国際社会に永久に「牙」をむかないように制定されている。これには日本の安全はアメリカが保障する暗黙の前提があった。
 いわゆる「安保タダ乗り」はアメリカ主導でなされた政策である。
 日本は国防を他国に丸投げで依存する政策を70年以上にわたり継続してきたことになる。
 トランプ大統領の発言はこの歴史的背景を意識したものとも思えないが彼の内向き政策から見れば明らかに不公平と映るだろう。
 もともと追随するだけの抱き着き外交は尊敬も信頼もされない。そうであればそれに対応した政策が求められる。
 トランプ大統領は日米安保は不公平といった。だが日本にとっては日米安保条約第6条の日米地位協定にもとづき設置された日米合同委員会の取り決めは不公平である。たとえば横田空域の設定などおよそ独立国とは言えない扱いである。
 トランプ大統領の発言はアメリカの本音の一端であろうがこれを真摯に受け止めることはアメリカだけでなく日本にとっても利益である。
 安全保障を全面的にアメリカに依存するのではなく抑止力としての戦力を日本独自に備えてより強固な日米安保体制を目指す。
 孤立すれば有事に頼る相手はいない。日米安保条約を今以上に強固にする。
 ことの本質は憲法にかかわる、憲法の見直しなしにこの問題を議論してもいつまでたっても抜本的解決にはならない。 
 わが国の憲法は70年以上一度も改正されることなく放置されたままだった。一体だれがこの憲法改正を成し遂げることができるのだろうか。
 それができるのは前例を踏襲する官僚でないことは確かであろう。期待できるのは世論とそれをけん引する政治家であろう。

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