2010年に日本を追い抜き、世界第2位の経済大国になって昇竜の勢いにある中国は、遠からずアメリカをも追い抜き世界第1位になるだろうと予想する人もいる。
その中国は、東シナ海では尖閣諸島に、南シナ海ではパラセル(西沙)諸島、スプラトリー(南沙)諸島に、経済力と軍事力を背景に権益むき出しの行動に出ている。
先日は日中中間線で中国のミサイルを搭載した戦闘機が自衛隊機に異常接近した。
目覚めた中国が文字通り東シナ海と南シナ海に隣接する諸国を震撼させている。軍事予算で日本の2倍を越える中国の脅威は今後も増大し止まることを知らないかのようだ。
一方経産省出身で現役時代から中国をウオッチしてきた中国コンサルタントの津上俊哉氏は中国を次のように分析している。
「いま中国のGDPはちょうど米国の半分である。この数年、『中国は7%以上の実質成長を続け、人民元レートも年間5%程度の速度でドルに対して切り上がっていく。これにより、早ければ2017年にも、中国がGDPで米国を抜く日が来る』といった楽観的な見通しが中国内外で語られてきたが、いまやそれは『荒唐無稽』の類いに思える。
仮に中国が2020年まで5%の成長を続けても、その間に米国も2%は成長するだろう。差分はわずかに3%、2020年に至っても中国のGDPは米国の3分の2に達するだけだ。
『人民元レートが今後も上昇を続ける』という想定も疑わしい。その後には厳しい人口オーナスがやってくる。
中国がGDPで米国を抜く日は来ないだろう。」
(日経プレミアシリーズ津上俊哉著『中国台頭の終焉』)
津上氏がこのように予想する根拠は、中国躍進の原動力となった投資にあると見ている。
リーマンショックを契機に中国は景気底上げのため4兆元の公共投資をつぎ込んだ。
土地代を含めた全産業の総投資額はリーマンショック前の2008年の15兆元を発端として 2009年19兆元 2010年24兆元 2011年30兆元 2012年36兆元 2013年43兆元 と毎年20%以上の勢いで投資を伸ばしてきた。
しかもこれらの財源は主に借金によって賄われた。
GDPは投資と消費と輸出の3頭の馬車に喩えられるが中国の場合、過度に投資に偏りすぎている。工場は過度な設備投資の結果、過剰生産となり生産調整を余儀なくされ遊休設備が増えた。
不動産もリーマンショックを契機に大幅な金融緩和が実施されいくらでも銀行から借りられることをいいことに中央、地方ともに道路、地下鉄などのインフラおよび土地と住宅に際限なく投資した。
この結果、不動産の高騰を招いた。北京や上海の住宅価格は今や東京のそれを上回るところがあるという異常な事態となっている。
地方の住宅は一部ゴーストタウン化しているところもある。
これらの投資は何れも借金によって賄われているため返済しなければならない。
ところが大半が利益を生まない投資であるため返済期限がくれば借りて返さざるを得ない。たとえそれが高利であっても。
今や中国の懸念材料になっているシャドーバンキング膨張の主な原因がここにある。
その規模は2013年6月末で31兆元ともいわれ対GDP比6割となっている。
行き過ぎた投資は抑制しなければならない。当然である。
が、中国の場合これをやると肝心の成長のエンジンを機能停止させるにも等しいことになる。
なにしろ消費と輸出をあわせても僅か4%の成長でしかないのだから。
今まで10%近くあった成長率をいきなり4%などにしたら社会不安をおこすどころか共産党政権の存立にもかかわる。
そんなことはできっこない。かくて2014年3月の全人代で李克己首相は雇用促進、投資継続を打ち出し今年度の成長率目標を7.5%前後とした。
が、借金頼みの投資はいつまでも続けられない。
中国高成長の牽引車である投資は、進むも地獄、引くも地獄である。
かかる理由で、中国が今後も成長を続けていくには投資以外に成長の芽を見出す他ない。
このような中国政府の危機感が感じられるのが2013年11月の三中全会決定である。
規制緩和、民活による大胆な成長戦略である。アベノミクス第三の矢 中国版とでもいったらいいか。
「三中全会決定(全文)は、多くの点で大胆な転換を宣言し、しかも習近平氏が先頭に立つことを明らかにした。
『決定』を読みかえすうちに、これは『習近平改革』の宣言なのだと思いあたったが、同時に、これは『背水の陣』になると感じた。 三中全会決定を本当に実現できれば、『国のかたち』は大きく変わるが、これを『2020年までに完了する』には、そうとう『急進的』な改革である。
しかし、『急進的改革』に潜む問題や危険を見てきたからこそ、中国は一貫して『漸進的な改革』を標榜してきたはずだ。
『失われた10年』の遅れを取り戻すことは、簡単ではないだろう。(中略)
三中全会から1ヶ月経った2013年12月、北京を回って人々の受け止め方を探った。
『すごい改革だろう?』という気分はあるが、どうも『みなこぞって興奮に沸いている』感じではない。
かねがねその炯眼ぶりに私淑している人物は、私にこう言った。
『トップが前線で矢面に立って私に続け!と言ったが、将兵は後に続く準備ができているのか。
(私:様子見している?)そうじゃないが、兵はちゃんと兵嚢を背負っているか。銃に弾は込めてあるのかだ』
『別の言い方をすると、基本設計はこれでいいとしても、詳細設計図はすでに引けているのか?すべてはこれからじゃないか。しかも達成期限は2020年だという。』
習はたいへんな賭けをしてしまった。『これで失われた10年が取り戻せる』と喜んでいるヤツは、頭がおめでたすぎる。」
(文春新書 津上俊哉著『中国停滞の核心』)
分かりやすい例を一つ。
「 『両親いずれかが一人っ子なら、二人の子供を成育してよい』とする規制緩和が『決定』に盛り込まれたことはサプライズだった。
いまの都市の若夫婦はこれでほとんどがカバーされるから、『二人っ子政策』に近づいたとも言え、規制緩和のテンポは予想より加速している。
しかし、いまや少子化が進行しているのは、『政策が禁じているから』ではない。
子供養育の経済負担(住宅、教育等)が重すぎて『子供二人はたいへん』なのである。
積年の一人っ子政策の誤謬のツケは、そう簡単には解消できないだろう。」(同上)
因みに、なぜここまで一人っ子政策が放置、否 堅持されてきたか。その理由の一つが、この政策が基礎財源が殆どない農村地帯の党政府機関にとって、一人っ子政策違反に科される罰金は貴重な収入源になっており、手放したくない既得権益であったからである。
三中全会決定事項は、中国そして共産党政権にとって歴史的な実験であり目が離せない。
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