2015年6月22日月曜日

リンカーンの懸念 2

 次に富める少数者による支配について、ジョセフ・E・スティグリッツ コロンビア大学教授の著作について考えてみたい。
 ジョセフ・E・スティグリッツ この著名なアメリカのノーベル賞経済学者は、幼少のころ、既にアメリカはアメリカン・ドリームなどといわれる”機会均等の国” は看板だけであることを身をもって感じた。
 この幼少時の体験は彼のその後の人生に影響を及ぼした。

 「わたしはアマースト大学3年生のとき、専攻を物理学から経済学に変更した。
 社会が機能するしくみを解明したい、という激しい思いに突き動かされたのである。
 わたしが経済学者になった目的は、単に不平等や差別や失業を理解するだけでなく、アメリカを蝕むこれらの問題に何らかの手を打つことだった。」
(ジョセフ・E・スティグリッツ著峯村利哉訳徳間書店『世界に分断と対立を撒き散らす経済の罠』)

 スティグリッツ教授はアメリカの不平等の概況をつぎのように述べている。

 「アメリカの物語は、次のように要約できる。
 金持ちはもっと金持ちになり、金持ちの中の金持ちはそれよりももっと金持ちになる。
 貧乏人はもっと貧乏になり、もっと数が増え、中流層が空洞化していく・・・・・。
 じっさい、中層の所得は停滞もしくは減少し、最上層との格差は広がる一方なのだ。
 家計所得における格差は、賃金格差と財産格差に連動しているだけでなく、資本所得(利子や配当から得られた所得)の格差にも連動しており、いずれの格差も幅が広がりつづけている。
 不平等全般が拡大するにつれ、賃金と給与の不平等も拡大してきた。
 たとえば過去30年間で見ると、賃金の低い人々(下位90パーセント)は、賃金の伸びがおよそ15パーセントだったのに対し、上位1パーセントの伸びは約150パーセント、上位0.1パーセントの伸びは300パーセント以上に達した。
 財産をめぐる状況は、もっと劇的に変化している。
 金融危機に先立つ四半世紀、すべての人々の財産が増加する中でも、富裕層の財産の増加ペースは群を抜いていた。
 前に述べたとうり、住宅価値に多くを依存する中下層の富は、バブル価格にもとづく実態なき富と言ってよかった。
 じっさい、すべての人々が金融危機で損害をこうむったが、上層の富がすぐさま回復したのに対し、中下層の富は回復しなかったのである。
 大不況の中で株価が落ち込み、富裕層の財産が打撃を受けたあとでさえ、上位1パーセントに属する人々は、平均的アメリカ人の225倍もの富を保有していた。
 この数字は、すでに100倍を超えていた1962年もしくは1983年と比べてもほぼ倍増している。
 資本所得の分野でも上層が不当に大きな分け前を得ていることは、富の不平等を考えれば驚くにはあたらない。
 危機の前の2007年で見ると、彼らがふところに入れた資本所得は、全体のおよそ57パーセントに達した。
 資本所得の”増加分”の分配がもっとかたよっていることも、驚くにはあたらない。
 1979年以降、上位1ペーセントが増加分の約8分の7を手にしたのに対し、下位95パーセントの取り分は3パーセントを下回ってきた。
 これらの数字は憂慮すべきものだが、勢いづく格差拡大の実態を見誤らせる危険も秘めている。
 アメリカにおける不平等の現況を知りたいなら、ウォルトン一族を例にとってみるといい。
 <ウォルマート>帝国のこの6人の後継者たちは、巨額の遺産を意のままに使うことができるが、697億ドルという額は、アメリカ社会の下位30パーセントの財産総額とひとしいのだ。
 下層の人々はほとんど富を持っていないため、この数字は見た目ほどインパクトをもたらさないかもしれないが・・・・。」
(ジョセフ・E・スティグリッツ著楡井浩一・峯村利哉訳徳間書店『世界の99%を貧困にする経済』)

 アメリカは先進国の中で最大の格差社会となっている。
 所得階層間の移動確率が少なく機会均等も先進国で最低である。階級社会であるヨーロッパ以上に機会均等がない。
 さらに理不尽なのは上位1パーセントもしくは上位0.1パーセントの多くは、富の源泉をもたらしたインターネット、トランジスタなどの発明家ではなく、世界を破滅に導いた投資家や銀行家達で占められていることである。

 アメリカはなぜこのように格差が拡大し機会均等が失われてしまったのか。
 次稿でその原因についてスティグリッツ教授の分析を検証しよう。

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