2018年7月2日月曜日

AI時代の格差問題 4

 政府がすべての国民一人一人に無条件で一定の時期に一定の現金を生涯にわたって支給するというベーシックインカムがAI時代の有力な格差対策として議論されている。
 ベーシックインカムは格差を是正するように働くため本格的なAI時代に先駆けてすでに導入を試みている国がある。
 フィンランド、インド、オランダ、アメリカ、カナダ、イタリア、ケニア、ウガンダなどではすでに対象を限定したベーシックインカムの実験が行われている。
 ベーシックインカムにも当然のごとく立場の違いなどから賛否両論がある。多くの議論があるが重要なことは限られる。
 反対する人たちが最も心配するのは財源と勤労意欲の問題(何もしなくてもお金が貰えるので人びとが働かなくなるのではないか)である。
 賛成する人たちが熱心に推奨している根拠はこの制度が格差を是正し人びとを経済的制約から開放して自由にすることにあるという。
 それぞれについて検証してみよう。

1 財源の問題
 この制度は混乱をさけるために小額からスタートして順次様子をみながら増額するという方法が有力である。
 それにしても仮に生活のために必要最低限と思われる月7万円としても100兆円もの予算が必要との試算がある。政府にはそんな金額は捻出できないという。
 だがこれは他の予算は現状のままというのが議論の前提となっている。 
 税制、補助金、不労所得の見直しなど財源を捻出できるか否かは結局のところ政治判断の問題であろう。

2 勤労意欲
 ベーシックインカムによって勤労意欲はむしろ高まると推進派の代表的論客ロンドン大学のガイ・スタンディング教授は言う。

 「2016年6月にスイスでベーシックインカム導入の是非をめぐる国民投票が実施される前、ある世論調査で、もし給付金を受け取れるようになったら経済活動をやめるかと尋ねた。
 そのとき俎上に上がっていた給付額は、1人あたり月額2500スイスフラン。ほとんどの人が『快適』に生活できると感じる金額だ。
 この世論調査に対し、経済活動をやめると答えた人はわずか2%だった。【回答者の3人に1人は、ほかの人たちはやめるだろうと答えた】。
 半分以上の人は、ベーシックインカムの支給が始まれば、スキルを身につけるためのトレーニングを受けたいと答えた。
 独立して自分のビジネスを始めたいと答えた人も2割以上いた。
 40%は、ボランティア活動を始めたい、あるいは増やしたいと言い、53%は、家族と過ごす時間を増やすつもりだと述べた。
 ベーシックインカムは、人々が何もせずに怠惰に過ごすためのお金を配る制度ではなく、『やりたいこと』と『できること』をする自由を与えるための制度なのだ。」
(ガイ・スタンディング著池村千秋訳プレジデント社『ベーシック・インカムへの道』)

 この調査で興味深いのは、ベーシックインカムの支給が始まれば自分自身は経済活動は止めないがほかの人は止めるだろう回答していることである。みんなは怠け者だが自分は違うと思っているようだ。
 このことから勤労意欲減退説は思惑が優先し実態と乖離している可能性がある。

3 経済的制約からの開放
 ガイ・スタンディング教授はベーシックインカムは人びとから経済的不安を取り除き以下の現実的自由を与えるという。
・ 困難だったり、退屈だったり、薄給だったり、不快だったりする仕事に就かない自由
・ 経済的に困窮している状況では選べないような仕事に就く自由
・ 賃金が減ったり、不安定したりしても、いまの仕事を続ける自由
・ ハイリスク・ハイリターンの小規模ベンチャーを始める自由
・ 経済的事情で長時間の有給労働をせざるをえない場合には難しい、家族や友人のためのケアワークやコミュニティのボランティア活動に携わる自由
・ 創造的な活動や仕事に取り組む自由
・ 新しいスキルや技能を学ぶことに時間を費やすというリスクを負う自由
・ 官僚機構から干渉、監視、強制されない自由
・ 経済的な安定を欠く相手と交際し、その人と『家族』を築く自由
・ 愛情を感じられなくなったり、虐待されたりする相手との関係を終わらせる自由
・ 子どもを持つ自由
・ ときどき怠惰に過ごす自由

 お金の心配がなければこのような自由が得られる。お金の制約があるからこれらの自由を拘束されている。 
 これはあたかも現在の富裕層が謳歌しているような自由である。すべての人がこうなるとは思えないがベーシックインカムがこのような自由により近づく働きをすることは確かだろう。

 格差の原因が社会的強者による政治主導に由来するものであればこれの是正もまた政治主導でなされなければならない。
 ガイ・スタンディング教授は力説する。「よい社会は最も弱い人の立場から考えなければならない。ベーシックインカムが人びとを開放する価値は経済的価値よりも高い」(2018年ダボス会議)
 行過ぎた格差社会への警鐘でもある。
 次にわが国の現状と今後について考えてみたい。

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