2016年10月10日月曜日

人工知能 6

 これまでのわが国の AI 開発の実績を簡単に振り返ってみよう。
 わが国の AI 開発は高度経済成長期からの研究実績があるもののアメリカの開発スピードには遠く及ばない。
 特に画像・音声認識などの情報処理系はグーグル、フェイスブック、マイクロソフト、IBMなど米企業が先行し、この分野の大半を壟断している。
 物造りのロボット分野はどうか。

 「ロボット市場は、大きく『産業用ロボット市場』と『サービスロボット市場』に分けられる。
 現在、日本の産業用ロボットの稼働台数は約30万台で、2位のアメリカに10万台以上の差をつけて堂々のトップ。その市場シェアは50%前後と圧倒的だ。
 しかし注目したいのは急成長が見込まれるサービスロボットの分野だ。
 特許庁の予測値では、2015年の産業用ロボット市場規模は約5000億円。
 リーマンショック後の2009年に2000億まで落ち込んだが、先進国の持ち直しと新興国の需要拡大を受けて回復傾向にある。 一方サービスロボット市場の成長率は産業用の比ではなく、2012年の5000億円からわずか2年で2倍になる1兆円を突破(予測値)。
 2020年には4兆円に達すると見られ、今後のロボット産業の主流になると考えられている。」
(開発者著PHP研究所『人工知能の今と未来の話』)

 産業用ロボットとは製造業の工場で稼動するロボットであるがサービスロボットは生活に身近なサービスで2014年の日本のシェアは10%未満に過ぎない。
 サービスロボットは、医療・介護・清掃・警備・案内・消防・農業など今後 AI が活躍すると予想される領域である。

 このように情報処理系のみならず、物造りのロボット分野でも必ずしも楽観できないのがわが国の現状といえよう。

 だが、日本の AI 開発が欧米に遅れているとはいえ、AI 開発は未だ端緒にすぎず十分キャッチアップ可能というのが識者の見方である。
 AI 技術のブレークスルーといわれるディープラーニングは2012年に開発されたばかりであり真の競争は今後にかかっている。
 AI 革命はかってない革命である。
 脳のニューロン(神経細胞)とニューロンどうしが情報を伝達するシナプス結合を数学的にモデル化したニューラル・ネットワークをベースに進化したディープラーニングが現在の主流になっている。
 だが、AI 開発手法はこの他にも大脳皮質をエミュレートする有力な生物学的手法がある。
 この分野で近い将来超知能を日本発で開発できるかもしれないと大胆にも予測している学者がいる。

 「日本が人工知能開発における現状の遅れを挽回し、世界に先駆けて超知能を開発し、人工知能開発の勝者になるためには、すなわち21世紀の先進国になるためにはどうすればいいのでしょうか。
 その起死回生の切り札となるのが、3章(注:トップランナーは誰か)でふれ、7章(注:ものづくり大国・日本だからできる)の対談でもご登場いただくペジーコンピューティングの斉藤元章さんが開発に挑んでいるニューロ・シナプティック・プロセッシング・ユニット(NSPU)だと、私はおもいます。
 人間の脳と同等のニューロンとシナプス結合をもったコンピュータを、今から10年以内に実現するという。
 斉藤さんの野心的な計画が本当に実現すれば、間違いなく世界最先端の技術になります。
 少なくともハートウエアの面では、現在、人工知能開発ではるか先を行くアメリカを、一挙に追い抜ける可能性もあるのです。
 しかし、問題はあります。たとえ世界最先端のハードウエアができたとしても、その上で動くソフトウエアがなければ、役に立ちません。
 NSPUが2025年までに完成すると想定して、今から、その上で動く人工知能アルゴリズムを開発し、世界に先駆けて完成させること。
 これが、日本にとって起死回生のラストチャンスです。
 人工知能開発で先行する海外諸国に圧倒的に差をつけられている現状を ”ちゃぶ台返し” するためには、斉藤さんが開発しようとしているNSPUに賭けるしかないと私は思います。」
(松田卓也著宥廣済堂新書『人類を超えるAIは日本から生まれる』)

 超知能の開発に成功すれば次元の違う世界が拡がる。

 「超知能を開発した国は、間違いなく世界でもっとも力をもつモンスター国家になります。
 たとえば、現在使われている暗号を解読することなど簡単です。通信を盗聴して機密情報を盗み出すことも、核爆弾や無人攻撃機、その他の破壊兵器を制御するコンピュータに侵入することも、お茶の子さいさいです。
 武器だけでなく、交通・管制システムや電力網、水処理装置といった社会インフラも自由にコントロールできるでしょう。
 しかし、超知能の技術を公開すれば、こうした圧倒的な優位性は失われます。
 そんな国があろうはずもありません。この意味でも、平和主義国家である日本が、世界に先駆けて超知能を開発するのが望ましいのです。(中略)
 超知能開発競争は、最初に開発した者のみが勝者で、2位以下はすべて敗者になるという、 『勝者総取り』 の過酷な競争です。ここでは、1位をめざすしか選択肢がないのです。」(前掲書)

 AI はわれわれが想像する以上に未来を支配するようだ。最後にこのことを踏まえて AI について考えてみたい。

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