2018年11月5日月曜日

持続の帝国 中国 5

 中国には独特の人間関係があることは既述した。帮(ホウ)や情誼(チンイー)など人と人のヨコのつながりと血縁関係のタテのつながりである。
 また中国の法律は何千年も前から現在にいたるまで法家の思想が深く人びとに浸透している。
 この人間関係と社会の規範が中国人の価値観を形成し行動様式となって表われている。
 アメリカをはじめとする西側諸国がこのような中国を理解することは容易ではない。西部劇のスターが三国志の英雄のふるまいを理解できるだろうか。それには歴史的、文化的背景があまりにも違い過ぎる。
 一党独裁の中国は今はともかく将来豊かになれば我々と同じような価値観を持つようになるだろうと考えていたがその期待は見事に裏切られた。
 西側諸国は長い間このような淡い期待で中国と経済交流し成長を側面から支援してきた。
 日本もODAで北京空港や地下鉄建設などのインフラ整備に貢献した。
 だが中国はGDPで日本を追い抜きアメリカに迫るほどの経済大国になったが西側諸国と同じ価値観を共有することなく中国独自の価値観を変えなかった。
 それどころか経済が成長するにつれ大国意識が前面に出て居丈高にさえなっている。

 このような中国に対してペンス米副大統領は、去る10月4日米国シンクタンク、ハドソン研究所における演説でとうとう堪忍袋の緒を切らしたかのように中国を非難し彼らが自由で公正な価値観を持ちそれを行動に移すまで米国は一歩も引かないと断言した。
 米中の最近の軋轢は通商問題というより上のような価値観の違いに起因しているように思う。
 一方が騙されたり約束を反古にされたと思っても相手方は騙したつもりも約束を破ったつもりもないから始末におえない。この違いは埋め難い。
 20世紀後半アメリカのポストモダン思想家である哲学者リチャード・ローティは、文化や歴史が異なれば、真理や善悪の判断が違ってくるという、文化相対主義や歴史相対主義を主張した。
 だがこの違いは国家の利害に関わるため紛争の種となり易い。相手の立場に理解を示す余裕などないのが現実の政治である。
 現在の米中の摩擦も政策上一時的に妥協が成立したとしても根本的な解決には至らないであろう。相互の価値観に本質的な違いがあるからである。
 ペンス米副大統領が指摘した米中間の埋め難い溝は21世紀の ”鉄のカーテン” を示唆している。

 「これまでの政権は、中国での自由が経済的だけでなく政治的にも、伝統的な自由主義の原則、私有財産、個人の自由、宗教の自由、全家族に関する人権を新たに尊重する形で、あらゆる形で拡大することを期待してこの選択を行ってきました。
 しかしその希望は達成されませんでした。自由への夢は、中国人にとっては未だ現実的ではありません。
 中国政府はいまだに『改革開放』と口先だけの賛同をしている一方で、鄧小平氏の有名なこの政策はむなしいものとなっています。」
(ハドソン研究所におけるペンス米副大統領演説 海外ニュース翻訳情報局  翻訳:樺島万里子、塩野真比呂)

 米中あるいは中国と日本を含む西側諸国との間でこの基本的価値観を共有することはないであろう。
 中国が西側諸国の価値観にあわせること、それは中国にとって共産党一党独裁の否定を意味する。そんなことはできないし現実的ではない。

 このような前提にたてば、共産党一党独裁体制での市場経済には自ずから限度がある。自由主義社会と同じ自由、公正、人権などを望むべくもない。
 米国に追いつき追い抜くかに見えた中国経済も今やその勢いを失いつつある。
 中国がかっての勢いを取り戻すには解体的出直しをしなければならないだろうが、そんなことを中国に求めるのは ”木に縁りて魚を求む” ようなもの、守銭奴に持金すべて寄付しなさいと言うに等しい。

 真の市場経済なきとことに真の成長なし。一時的または偏在的に成長したとしてもそれは真の成長とはいえない。
 習近平が目指す大中華構想はどうひいき目にみても現代のおとぎばなしにしか見えない。

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