2017年7月24日月曜日

通貨発行益 3

 量的金融緩和の縮小(テーパリング)の行く先には、日銀の債務超過が待っている。
 金融緩和の出口政策では国債など保有資産のキャピタル・ロスが発生する。さらに中央銀行預金のうち法的に義務付けられた法定準備預金額を超える部分が超過準備であり、それに対して中央銀行が支払う利子が付利と呼ばれ、これがテーパリング時には高くなり、結果として付利が国債の利子(通貨発行益)を上回わる。
 これらの要因により日銀の剰余金がマイナスになり債務超過に陥るというのである。
 債務超過になっても中央銀行である日銀は自ら債務を創造できるため資金繰りに支障を来たす訳ではないが通貨の番人に対する信認が問われることになる。
 日銀がテーパリングによる保有資産のキャピタル・ロスと付利上昇などで債務超過に陥ったとしてもそれは一時的となる可能性が高い。
 インフレ率が日銀が目指す2%を安定的に超える状況では日銀が保有する資産から得られる収益は、日銀の負債である当座預金の付利を必ず上回るからである。
 しかも日銀の負債のうち付利は当座預金に対してのみで銀行券にはつかない。
 当座預金対応の日銀資産は貸出され利子を得ている。金利は、中央銀行当座預金 → 短期市場金利 → 中央銀行貸出金利と順に高くなっている。
 このように中央銀行当座預金の付利は下限であるから金利収支上日銀が恒常的にマイナスになることはない。
 テーパリング時のキャピタル・ロスや付利上昇などによる一時的な債務超過であれば放置してもかまわないだろうが政府による増資も考えられる。 親会社の関係にある政府が増資すれば日銀のバランスシートは健全となる。
 問題になるとすれば政府の増資で日銀のバランスシートが拡大(国債や債権など保有資産増)し、市場や国民の信認が損なわれはしないかということである。
 急激な長期金利の上昇、インフレ、円安を招かないかということである。
 出口政策については、通貨安、高インフレなどの懸念があり今となっては量的緩和解除は早ければ早いほどよいという。これに関連しては過去の出口政策の結果が参考となる。

 2016年7月15日公開された2006年1~6月金融政策決定会合議事録によれば、政府は「緩やかなデフレが続いている」(安倍晋三官房長官)とけん制したが、福井日銀総裁は動じず5年間継続した量的緩和政策の解除を強行した。
 結果的にはその後日本経済が長期のデフレに沈む原因となったように、その後の推移から時期尚早な量的緩和解除であったことが明らかで政策の失敗であった。
 福井総裁の量的緩和の巻き返しは短期的かつ急激であったにもかかわらず、テーパリングは円滑に実施され金融市場は平静を保たれ実務的に問題が発生したという記録はない。

 この事例をみる限り出口政策についての混乱を強調する議論に与することはできない。
 こと金融・財政政策については自分の出身母体に拘束されたかのような発言が多い。その姿は自分の信念を曲げ権力におもねる御用学者のようにも映る。
 しかも結果が出ても詳細に検証されることがない。消費税率アップの議論などその典型である。国民のリテラシーが特に望まれる分野である。
 通貨の信認とは何か。それは通貨価値が維持されることであり通貨供給の調整は中央銀行の主たる任務の一つである。
 通貨が適切に管理・維持されるために中央銀行のバランスシートが制約を受けることはない。
 金融政策の本来の目的は物価や雇用といったマクロ経済の安定化であって、中央銀行の財務の健全化ではないはずである。

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