2017年1月23日月曜日

皇位継承について 3

 万世一系は男系男子でなければ守れない。女系天皇になったら万世一系が途絶えてしまう。
 こう主張するのが生物学的な側面から現皇室典範第1条の男系男子維持派である。
 これを最初に言いだしたのが生物学者の蔵琢也氏であり、その根拠がY染色体である。

  「男子のみが所有するY染色体が神武天皇以来今日まで受け継がれてきたことに男系継承の意義があり、女系天皇に移った途端にこのY染色体の継承が途絶え、男子でも別人のY染色体を持つ天皇が出現することになる。
 これは皇統の断絶であるから、神武天皇から受け継がれてきたY染色体を我々の時代に途絶させてはならない。 - これがこの説の骨子であり、その信奉者は使命感と責任感をもって『男系天皇』を鼓吹することになる。
 これは科学を援用した継承論であり、これを知った多くの人々を強く説得する力を持ってきた。」
(中島英迪著イグザミナブック『皇位継承を考える』)

 このY遺伝子説は科学的根拠を持つものとして今や男系維持派のイデオロギーの中核的存在となっている。
 男系維持派の大御所である渡部昇一氏も持論”種と畑”理論でこのY遺伝子説をその主張の根拠としている。

 「『稲』はいかなるところに植えても稲ですが、『畑』は、稲を植えれば稲を、麦を植えれば麦を、ヒエを植えればヒエを実らせます。 
 つまり『畑』には、『種』にあるような連続性のイメージがないのです。
 /皇室に目を転じれば、古代から日本の天皇が外から妃を取ることは珍しくありませんでした。桓武天皇は九州、東北、さらには百済からも妃を捧げられています。
 /天皇という『種』を保つ『畑』は、方々から捧げられてくる。桓武天皇自身も、百済の『畑』で生まれていたと記憶しています。
 ただし『種』は天皇ですから、一向に構わないわけです。こうして種さえ守っていれば、皇室が廃絶に追い込まれることはありません。
 というのも、脈々と種を受け継いでいる天皇というものにこそ、日本人は尊敬の念を抱いてきたからです。」(前掲書)

 万世一系を法理論から擁護する説がある。この理論は明治の井上毅が作成した皇室典範義解に明記されている。
 今日に至るもこれを主張の根拠とする人がいる。
 皇室典範義解はこう締めくくっている。

 「皇室ノ家法ハ祖宗ニ承ケ子孫ニ傳フ君主ノ任意ニ制作スル所ニ非ス又臣民ノ敢テ干渉スル所ニ非サルナリ」

 この皇室典範は祖先の遺志だから君主といえども従うべきであり、変更不可と宣言している。
 井上毅はもともとイギリスに範をとった法律には反対であったが、この皇室典範義解でイギリス法である不文法を援用している。
 男系男子を貫くために最初の一押しを必要としたのであろう。
 皇室典範義解は、もともと皇室典範の解説書であり伊藤博文の私著として扱われたものであるが、その精神は現代にも脈々と受け継がれている。
 数学者の藤原正彦氏は「長い伝統を前にしてはただひれ伏すのみ」といったが、井上毅は皇室典範を説明により法理論上正当化していたのだ。
 因みに井上毅は秀才の誉れ高く、明治日本のグランドデザイナーといわれるほどであったが、女性の社会進出には一貫して否定的であった。

 以上男系維持派の主だった主張をとりあげてきた。彼らの主張の骨子を一言でいえば、「皇統の万世一系は奇跡であり、これは絶対守らなければならない。これが崩れれば皇室の崩壊につながる」という妥協の余地ないものである。

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