出馬当初トランプ氏の問題発言を、トーク番組のコメディアンは ”ジョークのネタができた” とよろこんだ。
なにせトランプ氏は 「メキシコ人は強姦魔」、「国境に壁を築き、費用はメキシコに負担させる」、 「イスラム教徒の入国禁止」など暴言を連発したのだから。
これら暴言に対し、”イギリスでは、トランプ氏のヘイトスピーチを理由に英国への入国禁止を求める請願運動がおこり英下院はこれを討議した”、ローマ法王は、 ”彼はキリスト教徒に値しない” 、オバマ大統領は、”トランプ氏に資格はない” と反応した。
ジャーナリズムは例によってトランプ氏の扱いが時とともに変化した。
彼はジョーカーだ泡沫候補にすぎない → 消え去るのは時間の問題だ → 下馬評は高いが、いざ投票になれば有権者は賢い選択をするだろう → 緒戦で勝ってもスーパーチューズデーは乗り越えられないさ。 → そしていま、予備選で過半は取れないだろうから7月の共和党大会で阻止されるかもしれないし、よしんば正式候補に選ばれても、、本選挙は身体検査が厳しいから、民主党の候補になるであろうヒラリー・クリントンには勝てないだろう。現に世論調査でもそういう結果になっている、と。
もしトランプ氏がアメリカ大統領になったとしたらこのように論評してきたジャーナリズムは何というのだろうか。
”アメリカ歴史の必然、なるべき人がなった” とでもいうのだろうか。
このトランプ現象ともいうべき事態をどう解釈したらいいのか。このことについて考えてみたい。
近世史に詳しい識者のなかには、これはファシズムだ、国民に憎悪をうえつけるネオ・ファシズムであり、そのやりかたもヒットラーに酷似していると警告する。
現象的にはそういう一面もたしかにある。だがトランプ氏自身をヒットラーになぞらえるには無理がある。
彼の発言を忠実にたどれば、ヒットラーの、 ”狂信的な信念” をもちあわせていないことがわかる。彼の主張は変化しその場その場の ”受け” を狙った発言に終始しているからである。
各種調査によれば彼の支持者の多くは、じゅうぶんな教育をうけていない低所得の白人層であり、支持する最大の理由は、彼が差別的な発言をするからである、という。
そこにはアメリカという高度知識社会についていけなかった、または脱落した人びとの不満をトランプ氏が吸収している構図が見える。
このことは学費を無料にすると公約している民主党のバーニー・サンダース候補についてもいえる。
いまやアメリカの名門大学はいくら頭脳優秀であっても資金がなければ入れない富裕層の指定席と化している。
コロンビア大学のスティグリッツ教授がいう1%の富裕層と99%の貧困層の問題だ。
1%の富裕層がアメリカの富の30%を占め、残りの70%をアメリカ人の99%が分かち合っているという異常な構図になっている。
富裕層はアメリカ税制を自己に有利にすべく政治家に働きかけそれに成功している。
特にきわだつのは相続税(アメリカでは遺産税という)。アメリカの相続税は生まれながらにして経済格差を定着化させるような税制となっている。
アメリカの相続税は2015年現在5.42百万ドル、夫婦では通算され10.84百万ドルまで非課税。一般家庭で約12億円までは非課税となっている。
主要国の相続税の負担率は下図のとおりでアメリカがダントツに軽い。
このような税率ではいやおうなく格差は拡大する。トランプ現象にはこのようなアメリカの格差容認の税制が一役かっていることはまちがいない。
主要国の相続税の負担率 2015年1月現在 財務省ホームページから
トランプ旋風は直接的にはこのような白人ブルーカラーの不満の捌け口で説明できるが、彼らがなぜそこまでトランプ氏を支持するのか。
支持する理由の第一がトランプ氏が差別的な発言をするからだという。
にわかには信じられないがトランプ人気はこれに支えられているのだ。