2007年のサブプライムローン問題から連鎖的に発生した2008年のリーマンショックを含む金融危機は、またたくまに世界を駆け巡った。
資本移動の自由なくしてあり得ない事件である。
フリードマンは規制緩和、金融自由化および資本移動の自由化の促進を主張した。
彼の主張が直接的に2008年の金融危機を引き起こしたわけではない。
だが彼の主張は市場主義あるいは市場原理主義の精神的バックボーンとなっている。
フリードマンは自著で ”投機は一般的に不安定化をもたら
すものであると主張する人びとは,その主張が投機業者は損をするものだという
主張とほぼ等しいことをほとんど認識していない” と投機を擁護している。
投機活動には価格安定化作用があるとさえ言っている。
アメリカでは、市場万能主義が跳梁し、その影響は金融工学にもおよび、2人のノーベル経済学受賞者を巻き込んだロングターム・キャピタル・マネジメント事件を引き起こした。
2人のノーベル章受賞者とは、スタンフォード大学教授のマイロン・ショールズとハーバード大学教授のロバート・マートンであり、受賞理由が 『デリバティブの価格付け理論』 であった。
当時ノーベル経済学受賞者もかかわった投機事件として騒がれた。
今なおウォール街発信の金融デリバティブを駆使した市場経済はアメリカのみならず世界に蔓延している。
欧州では、ドイツ主導による緊縮財政が域内の諸国を拘束している。
フリードマンの影響はわが国にも及んだ。
橋本内閣は、イギリスのサッチャー政権による金融ビッグバンを見習ってか金融機関の大幅な規制緩和と組織改組を実施した。
小泉内閣は郵政民営化を実施し、 ”貯蓄から投資へ” の旗印のもと銀行と証券の垣根がとり払った。
安倍内閣は、民間議員をフル活用し構造改革と規制緩和に励んでいる。
まるでフリードマンの亡霊が世界を駆け巡り彼の教義が人々を呪縛しているかのような不思議な現象である。
かってマルクスは、”商品は貨幣に恋をする。だがその道のりは平坦ではない” と言った。
だは現下の世界情勢はこれを ”商品は貨幣に恋をし、その恋は必ず成就するであろう” と言い直す必要がある。
前者を、有効需要の原理になぞらえれば後者はセイの法則となる。
経済学の永遠のテーマ 『有効需要の原理』 と 『セイの法則』 は振り子のように時代によって変わった。
その時々に相応しい政策となったときもあれば必ずしもそうでないときもある。
現代は後者に該当するといえよう。世界の各地でかって経験したことがない長期のデフレ現象に苦しめられているにも拘らず需要喚起の政策が等閑に付されているのだから。
なぜかかる事態になったか。ひとりミルトン・フリードマンにせいにするのは無謀である。
だが彼の教義には人々をひきつけ離さないものがあるのも事実だ。
知日家のロナルド・ドーアが自著で 「米国のビジネス・スクールや経済学大学院で教育された日本の『洗脳世代』 」 と命名した人たちは少なからずフリードマンに代表されるシカゴ学派の影響をうけた人たちといわれる。
フリードマンはなぜこのように強い影響を与えることができたのだろうか。
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