2015年12月14日月曜日

資本主義と自由について 3

 フリードマンは1950年代と1960年代を通じ経済理論の世界で巨星のように聳え立っていたケインズ理論の批判によって俄然注目を浴びた。
 1929年の大恐慌の原因は、ケインズは資本主義の欠陥によるといったが、フリードマンは貨幣政策の失敗であるといった。
 ケインジアンはインフレと失業がトレードオフの関係にあるフィリップス曲線を根拠に政府が財政と金融に積極的に介入すべきであると説いたが、フリードマンはフィリップス曲線を否定した。
 またフリードマンはケインズの貨幣論を否定しマネーサプライと物価に着目し貨幣数量説をとなえ”インフレは貨幣的な現象だ”と主張した。
 マネーサプライはルールによって実施されるべきで政府の裁量によるべきではない、とも。
 この一連のケインズ批判によりフリードマンの名声は確固たるものになった。

 フリードマンは、自由社会における政府の役割を制限すべきであると主張した。そして政府に委ねるべきではない仕事のほんの一部として14項目を挙げている。
① 農産物の買取保証価格制度
② 輸入関税または輸出制限
③ 産出規制
④ 家賃統制、全面的な物価・賃金統制
⑤ 法定の最低賃金や価格上限、法定金利
⑥ 細部にわたる産業規制、銀行に対する詳細な規則 
⑦ 連邦通信委員会によるラジオとテレビの規制
⑧ 現行の社会保障制度、とくに老齢・退職年金制度
⑨ 事業・職業免許制度
⑩ 公営住宅および住宅建設を奨励するための補助金制度
⑪ 平時の徴兵制
⑫ 国立公園
⑬ 営利目的での郵便事業の法的禁止
⑭ 公有公営の有料道路
(ミルトン・フリードマン著村井章子訳日経BP社『資本主義と自由』から)
 政府の役割を抑えた小さな政府の提言である。
 彼には、自由を守り自由の範囲を広げることは、自由主義に則った制度であれば、国家の強制に比べてたとえ速度は遅くとも、確実に各自の目標を実現できるという固い信念がある。
 彼の提言は、現状を鑑みてもアメリカに止まらずその他の資本主義諸国にも広がった。わが国に対しても例外ではない。
 特筆すべき分野は、財政・金融関連であろう。マネタリストといわれる彼は、この分野で世界を席巻するほどの影響を及ぼしした。
 サッチャー政権やニクソン・レーガン政権の政策に採用されたのだから。
主だったものは

1 貨幣量調整による所得政策 名目GDPにあわせて貨幣量を調整することによって景気を安定させる

2 変動為替相場制の提案 ドルと金の兌換を止め変動相場制にすることによって国際収支は均衡させる

3 負の所得税政策 一定の所得に達していない人には補助金を与え貧困を軽減する


上記提言の結果はどうか。与えた影響の割に成果は心もとない。

1 名目GDPにあわせて貨幣量を調整する方法はインフレ対策にはなったが必ずしも景気を安定させたとは言えない。
 1982年の金融危機時アメリカはフリードマンの提言によらず、大幅な金融緩和という実践的な対処方法で切り抜けた。

2 変動為替相場によって国際収支を均衡させるのが目的であったが、ニクソン政権によるドルと金との兌換禁止後、貿易赤字は解消されなかった。 

3 負の所得税対策は辛うじて所期の目的を達成している。


 このように採用された政策は必ずしも目的を達せず、影響も限られる。
 フリードマンの影響が最も顕著になるのは、彼が名声の絶頂期で死去した後であろう。
 彼の思想と直接的なかかわりはないが、少なくとも影響を受けたと思わせる施策に端を発した諸々の事件が文字通り世界を駆け巡った。


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