ユーロ圏でドイツだけが突出した経済発展を遂げ、そのドイツが中心となって南欧諸国に緊縮財政を強いている。
同じ敗戦国から経済発展したドイツと日本であるが、辿った道が異なり互いに参考とすべきもの、教訓を得るものはなかなか見出し難い。
特にユーロが誕生して以降、ドイツが行っている緊縮策はデフレ期にある日本にとっては成長を逆行させる策でしかない。
ユーロに対してドイツがいくら影響力あるとはいえユーロはドイツの独自通貨ではない。だが円は日本の独自通貨だ。
この違いは金融政策、財政政策に天と地の開きをもたらす。
クルーグマン教授は次の一文でその実態を明らかにしている。
「日本の場合、負債は1990年代から上昇していて、特筆に値する。
今のアメリカと同じく、日本は過去10年以上にわたり、すぐにでも債務危機に直面するといわれてきた。
でも危機はいつまでたってもこないし、日本の10年物国債金利は1パーセントほどだ。
日本の金利上昇に賭けた投資家たちは大損ばかりしていて日本国債を空売りするのは 『死の取引』 とまで言われるようになった。
そして日本を研究していた人々は、2011年にS&Pがアメリカ国債の格付けを引き下げたときに何が起こるか、かなり見当がついていた - というか、何も起こらないとわかっていた。
というのも、S&Pは日本国債の格付けを2002年に引き下げたけれど、その時もやっぱり何も起きなかったからだ。
でもイタリア、スペイン、ギリシャ、アイルランドはどうなの?
これから見るように、これらの国はどれも20世紀の相当部分のイギリスほどの債務はなく、いまの日本ほどの深みにもはまっていないのに、明らかに国債自警団 (注:ある国の金融/財政政策に安心感を失うと、その国の国債を投売りする投資家) の攻撃に直面している。
何がちがうんだろうか?
その答えは、もっと説明が必要だけれど、自国通貨で借りるか外貨建てで借りるかがすさまじい差をもたらすということだ。
イギリス、アメリカ、日本はみんな、それぞれポンド、ドル、円で借りている。
これに対し、イタリア、スペイン、ギリシャ、アイルランドはみんな現時点では自国通貨を持っておらず、その負債はユーロ建てだ - これが実は、こうした国々をパニック攻撃にとても弱くしてし
まう。」
(早川書房ポール・クルーグマン著山形浩生訳『さっさと不況を終わらせろ』)
クルーグマン教授は、自国通貨建ての政府の債務は急いで返済することなどさらさらないとアメリカを例に挙げて言っている。
「仮に国債自警団がお出ましにならず、危機も起こらなかったとしよう。それでも、将来のツケを残すのは心配すべきじゃないだろうか?
答えは文句なしに 『その通り、ではありますが・・・』 というもの。
そう、金融危機の後始末のために、いま負債を積み上げれば、将来に負担を残す。でもその負担は、財政赤字タカ派が示唆する派手なレトリックよりはずっと小さい。
念頭におくべきことは、危機が始まってからアメリカが積み上げた5兆ドルかそこらの負債や、この経済的な包囲網が終わるまでに絶対必要なさらなる数兆ドルの負債はそんなに慌てて返済する必要はないし、それどころかまったく返済せずにすむかもしれないということだ。
実は、負債が増え続けても別に悲劇ではない。それがインフレと経済成長の合計よりも伸び率が低ければ、もんだいにはならない。
この点を示すため、第二次世界大戦末にアメリカ政府が負っていた2410億ドルの負債がどうなったか考えてみよう。
いまの感覚でいうと、あまり大金には思えないけど、当時の1ドルの価値はいまよりずっと高かったし、経済もずっと小さかったので、これはGDPの120パーセントに相当する(2010年では、連邦、州、地方の負債総額はGDPの93.5パーセントだ)。
この借金はどうやって返済したんだろうか? 答:返済されていない。
連邦政府はその後しばらく、均衡財政を続けていただけだ。
1962年の公的債務は、1964年とほぼ同じだった。でも、ゆるいインフレと大幅な経済成長の組み合わせで、債務のGDP比率は60パーセントほどに下がっていた。
そして1960年代と70年代には、軽い財政赤字の年が多かったけれど、債務のGDP比率は下がり続けた。
債務がやっとGDPより急速に増え始めたのは、ロナルド・レーガン政権下で財政赤字がずっと大きくなってからのことだった。」(前掲書)
自国通貨建てでない国の政府の債務は自国通貨建ての国の債務のようにはいかない。前者は通過発行権がないため債務不履行はデフォルトにつながるが、後者は自国通貨建ての債務であれば通貨発行権があるためデフォルトの恐れはない。
たとえばユーロ圏で、ギリシャの債務返済が問題になったように期限までに返済しなければ直ちにデフォルトを宣告される心配をしなければならない。
『積極財政で景気がよくなればいいがそんなものはあてにならない。緊縮策にすれば確実に財政赤字が減らせるし、何より安心感がある。』
通貨発行権のないユーロ諸国がこのトリシェ前欧州中央銀行(ECB)総裁の考えに傾くのも無理もない。
緊縮策を推進するドイツはユーロの構成員である。日本が通貨発行権を持たないドイツから何か学ぶことがあるのだろうか。
答えはあえて言うまでもない。
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