イギリスの元首相ウィンストン・チャーチルは、 ” 民主主義は最悪の政治といえる。これまで試みられてきた、民主主義以外の全ての政治体制を除けばだが ” と言った。
自由や民主主義を旗印にした施策は、あたかも免罪符のごとく無批判に受け入れがちである。
だが自由や民主主義とて完全無欠ではない。負の側面がある。
規律を無くした自由は誤ったグローバル化となり、カネに支配された民主主義は1人1票ではなく1ドル1票になる。
この負の側面がアメリカを蝕み、結果としてどの先進国にもまして不平等・格差をもたらしている。
戦勝国であり覇権国家でもあるアメリカは戦後一貫して日本に対し強い影響を及ぼしてきた。
アメリカの負の側面である格差に関連しては、特に貿易関連が及ぼした影響が大きい。
日米構造協議、年次改革要望書、そして現在の日米経済調和対話と名称は変わったが常にアメリカ主導で要求が投げかけられ日本の歴代政権はこれに応えてきた。
そして極めつけはTPPであろう。TPPはこの大きな流れの一つに見立てることが出来る。
TPPはアメリカの負の側面である経済格差を助長する要素に充ちている。
TPPに関連してわが国でも規制撤廃が声高に叫ばれ産業界寄りの政策が矢継ぎ早に打ち出されている。アメリカの影響が色濃く表れている。
誤ったグローバル化が如何に人々を苦しめるか。スティグリッツ教授の分析は明快である。
「貿易協定が不平等拡大をもたらすという論理は単純だ。
因果関係がよく見えるよう、完全市場が存在する世界---グローバル化賛成派の多くが理想とする世界---を想定しよう。
この世界では、商品と資本と労働力が自由に国境を越えて移動できる。
当然、非熟練労働者は世界のどの場所でも同じ値段で手に入る。つまり、アメリカの非熟練労働者には、中国やインドの非熟練労働者と同じ賃金が支払われるわけだ。
賃金水準はほぼ間違いなく、アメリカの水準ではなく中国やインドの水準に近づいていく。
近代経済学の大いなる叡智は、商品とサービスの貿易を事実上、労働力と資本の自由な移動と同一視してきた。
中国が労働集約型商品をアメリカへ売ると、中国の労働力に対する需要が増え、アメリカの労働力に対する需要は減る。
賃金は中国で上がり、アメリカで下がる。貿易の自由化は両国の非熟練労働者の賃金を、同じ水準へ近づけていく。
そして、中国の賃金が上がる可能性より、アメリカの賃金が下がる可能性のほうが高いのだ。
経済学者たちはながいあいだ、不平等拡大におけるこの効果の相対的重要性---ほかの要因と比較したときの重要性---を論議してきた。
そして現在、重要性が大きいというコンセンサスが広がりつつある。
事実、今では中国から輸入している製品をかって製造していた地域では、雇用の減少と賃金の下落が観察されてきた。
残念ながら、アメリカの結ぶ貿易協定は均衡がとれておらず、不平等拡大の効果を増幅させてしまっている。
商品とサービスだけでなく、資本の自由移動を懸命に促進してきた結果、労働者の交渉の立場が根底から変化したのである。
労働者が適正な賃金を要求しても、雇用主は工場の海外移転で脅しをかけられる。
会社を海外へ移し、商品を逆輸入するのになんの障害もないと知っているからだ。この状況は、間違いなく労働者の賃金にも悪影響を与える。
皮肉にも、グローバル化推進派の多くは、悪影響を受ける人々の救済に反対するだけでなく、労働者が雇用保護と公共サービスの縮小を受け入れるよう主張した。
グローバル化からの要求を呑まなければ、国家としての競争力は維持できなくなってしまうというのだ。
事実上、彼らはグローバル化が労働者を直撃すると認めているわけだ。
グローバル化が国全体に益をもたらし、労働者全体に害をもたらすなら、グローバル化のすべての恩恵と、恩恵に付随する金銭的利益は、アメリカの最上層---企業と企業経営者---に独占されることになる。」 (ジョセフ・E・スティグリッツ著峯村利哉訳徳間書店『世界に分断と対立を撒き散らす経済の罠』)
アメリカの場合は、富裕層が益々富み、貧困層が一段と貧困になっているが、日本の場合も富裕層も増加しているがそれ以上に貧困層の増加が顕著で経済格差を生んでいる。
全国民の年収の中央値の半分に満たない国民の割合をさす相対的貧困率の推移がそれを示している。(下図)
歴史的に見れば、日本は戦前の或る時期までは地主や資本家など人口の1%が課税所得の20%を占めるほど現在のアメリカ顔負けの格差社会であった。
敗戦を機に財閥解体、農地改革、インフレおよび富裕層に対する所得税と相続税の引き上げなどにより経済格差が急速に縮小し、1954年から1974年にわたる高度成長期には一億総中流とまで言われた。
そしていままた戦前の格差社会に回帰するかのごとき施策が行われようとしている。
丸山真男教授が指摘したように、日本社会は、外国から文化、社会制度、宗教などあらゆるものを受け入れようとするが、受け入れるものは日本にとってふさわしいと思われるものに限り、そうでないものは排除してきた。
たとえば纏足、宦官などは排除し、科挙は一端受け入れたが日本社会に根付くことはなかった。
受け入れ消化したものは、やがて『古層』となり、この『古層』の積み重ねが日本社会を形づくってきた。
アメリカ主導のグローバリズムは経済格差を助長し、かつ消費と生産の圧倒的多数を占める中流層の減少で国全体のGDPにも寄与しない。
グローバリズムというアメリカの轍は好んで踏むべき轍ではない。
たとえば纏足、宦官などは排除し、科挙は一端受け入れたが日本社会に根付くことはなかった。
受け入れ消化したものは、やがて『古層』となり、この『古層』の積み重ねが日本社会を形づくってきた。
アメリカ主導のグローバリズムは経済格差を助長し、かつ消費と生産の圧倒的多数を占める中流層の減少で国全体のGDPにも寄与しない。
グローバリズムというアメリカの轍は好んで踏むべき轍ではない。
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