2014年12月15日月曜日

官僚に対する民主的統制 2

 われわれの財務省についての知識は断片的である。新聞や雑誌で官庁のなかの官庁といわれてもピンとこない。
 財務省に28年間在籍し内情に詳しい高橋洋一氏が解説する財務省の”権力”の源泉とその”権力”が向かって行く”ベクトル”は想像を絶するものがある。戦前の陸軍にも例えられる。
 まず財務省の”権力”の源泉から。
 権力の源泉はおおまかに次の3つに分類される。
1 警察権
 財務省には警察力がある。財務省の外局である国税庁を傘下にもっている。徴税の権力を利用し警察力を発揮することができる。
 「国税庁のほうも脱税を摘発するのが仕事だから、相手が政治家であろうが何であろうが虎視眈々と狙っている。
 たとえば政治家がテレビに出演して、公務員制度改革を批判したとしよう。
 すると誰かの差し金か、即座に国税局(形式上は国税庁の地方支分部局。しかし財務省にとっての地方出先機関のような位置づけ)が『先生、ちょっと調べたいことが・・・・・』とやってくる。
 一種の脅しだ。こんなことは日常茶飯事である。
 もちろん無闇に税務調査などできないから、一応、役所(国税庁、国税局)のほうにも言い分がある。
 それは『脱税を疑わせる情報提供(タレコミ)があったので、調べなければならない決まりなのです。』だ。
 間違っても『先生がテレビに出て批判的発言をしたから』とは言わない。『テレビに出て稼いでいるでしょう』とも言わない。
 役所には必ず”しかるべき言い訳”が用意されている。
 タレコミなり調査のきっかけのことを、国税用語で『端緒』と言う。とはいえ、情報提供者は明らかにされないし、確たる情報提供がなくてもかまわない。検証のしようがないからである。
 そのため『端緒』は税務調査官の心証に大きく左右される。『週刊誌を読んでいたら、この人に脱税の疑いを感じた』でも立派な『端緒』になってしまうのだ。」(高橋洋一著祥伝社黄金文庫『官愚の国』)
 権力が恣意的に使われても政治家を含め国民はそれを防ぐことができない。恣意的な権力行使は法治国家にはあり得べからざることである。

2 予算編成権
 日本の国家予算は政府予算案が国会に上程・決議される仕組みになっている。ところが財務省は政府予算案以前に事実上予算編成権を手にしている。
 「日本の国家予算は事実上、財務省が先に決めていってしまう。財政制度審議会(大蔵省時代にあった5つの審議会を統合したもの)の提出する『建議』を盾に、8月頭ごろには概算要求基準(シーリング)を発表する。
 これがそのまま閣議決定されて、その後は財務省の”手順”どおりに進むのだ。
 通常8月末ごろに各省庁から予算要求額(概算要求)が出されるが、先にシーリングが決まっているのだから、手足を縛られたようなものである。(中略)
 財務省原案が政府予算案として閣議決定される前に『復活折衝』がある。各省庁(概算要求)と財務省(原案)との間で行われる修正交渉だ。交渉内容の難易度・複雑度にしたがって、事務折衝(各省庁の総務課長級と財務省主計局の主査級)、大臣折衝(各省庁の大臣級と主計局長級)、政治折衝(与党幹部と財務大臣)とレベルアップするのが通例となっている。
 財務省原案発表後、およそ5日間かけて展開される。ところが、この復活折衝も、あらかじめ財務省の”手順”に組み込まれているのだ。年末になっていきなり折衝が始まるわけではない。11月の中ごろになると、主計局の官僚は、担当省庁の人間と『握る』(私は9月に握ったこともある)。
 『握る』とは、要するに復活折衝のシナリオを提示して、相手(担当省庁)の合意を引き出すことだ。」(前掲書)
 警察権がムチとすれば予算編成権はアメである。

3 官僚の人事権
 国家公務員全体の人事管理は、人事院とか各省庁の人事部ではなく財務省が押さえていると高橋洋一氏はいう。
 「もちろん、各省庁にはそれぞれ人事セクションがあり、省内の人事を担当する。個々の人事異動は各省庁に一任されている。また、人事院は建前上『国家公務員法に基づき、人事行政に関する公正の確保及び国家公務員の利益の保護等に関する事務をつかさどる中立・第三者機関として、設けられた』(人事院HPより)独立組織だ。
 国家公務員の人事を国家全体の仕組みとして管理するには、3つの部門が必要になる。このことがよく理解されていない。
 先にその3つを書いてしまうと、こうなる。

① 財務省主計局給与共済課(旧大蔵省主計局給与課):給与の額を管理
② 人事院給与局給与第二課:各省の人事を管理
③ 総務省人事・恩給課:全体の国家公務員数を管理

 要するに『お金』(給与)と『人』(人員、定員)を管理しなければ、国家公務員の人事は成り立たないということだ。
 ①、②、③は、機構上は別個の組織である。
 ところが、①の職員が財務官僚であるのは当然のこととして、②にも③にも同じく財務省の官僚が出向し、実務を取り仕切っているという事実を知る人は少ない。
 私が『国家公務員全体の人事管理は財務省が押さえている』とする理由はここにある。」(前掲書)
 官僚の給料と人員配置は、すべて財務省が握っている。
 このため財務省には大蔵省時代からの隠語があると高橋洋一氏はいう。

「われら富士山、他は並びの山」

 隠語であるから露骨に使われることはないが、財務省では伝統的に使われているという。この言葉に「官庁のなかの官庁」の自負が読み取れる。
 このように財務省が絶大な権力を手中にしていることが分かったがその権力は何処を目指しているのだろうか。

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