2018年8月13日月曜日

日本の核

 戦後73年間平和裡に過した今どき、日本も核を持つべきだと日本人が言ったら総スカンを食らうだろう。
 だがこれを外国人が言ったら反応はいささか異なるようだ。
 フランスの歴史人口学者エマニュエル・トッド氏は雑誌記者のインタビューに応じ「日本は核を持つべきだ」と発言した。
 日本人はこれを冷静に受け止めているようだ。少なくともヒステリックな反応は見られない。
 エマニュエル・トッド氏は米国の核の傘はフィクションにすぎず存在しないと言う。

 「私の母国フランスは、核兵器を保有し、抑止論を突き詰めた国ですが、抑止論では、究極、核は純粋に個別的な自己防衛のためにある、ということになります。つまり、自国を保護する以外には用途がないのです。
 核は例外的な兵器で、これを使用する場合のリスクは極大です。ゆえに、核を自国防衛以外のために使うことはあり得ません。
 例えば、中国や北朝鮮に米国本土を核攻撃できる能力があるかぎりは、米国が、自国の核を使って日本を護ることは絶対にあり得ない。
 米国本土を狙う能力を相手が持っている場合には、残念ながらそのようにしかならないのです。
 フランスも、極大のリスクを伴う核を、例えばドイツのために使うことはあり得ません。」(『文藝春秋』2018年7月号)

 同氏は、日本が核保有しなければ東アジアはますます不安定化するので日本が核保有を検討しないということはあり得ないと思う、と言いその根拠は挙げている。

 「ヒロシマとナガサキの悲劇は、世界で米国だけが唯一の核保有国であった時に起こりました。
 核の不均衡は、それ自体、国際関係の不安定化を招くのです。このままいけば、東アジアにおいて、既存の核保有国である中国に加えて、北朝鮮までが核保有国になってしまう。これはあまりにおかしい。」(前掲書)

 日本は唯一の被爆国にして、憲法九条を持つ国だ、核を持たなければ核攻撃を受けることもない。
 これが核不保持の願望に近い論理であり、核に対する日本人ならではの特別な感情が込められている。
 だが、これは国際社会の論理からは乖離している。
 台風は甚大な被害をもたらすので憲法で『台風の日本上陸禁止』と明記すれば台風の被害を免れるというのと同じだ。ひとりよがりとはこのことだろう。

 それではエマニュエル・トッド氏がいうように日本は核を持つべきなのだろうか?
 日本は中国、北朝鮮の核の脅威にさらされている。同氏が指摘するように、アメリカの核の傘が機能しなければ東アジアの核の均衡が保たれていないことになるから、核を持つべきであろう。
 だが、日本の核武装は中国だけでなくアメリカをはじめ全世界が反対するだろう。
 日本が核武装するためには世界190か国が参加するNPT(核拡散防止条約)から脱退しなければならない。
 これは1933年日本が満州国に関するリットン調査団の報告書を無視し国際連盟を脱退した歴史を想起させる。当時日本は満州国を生命線だと言った。
 いま核を生命線といってNPTから脱退すれば日本は全世界から孤立するリスクがある。
 そのようなリスクを冒して核を保有することがはたして日本の利益になるか疑問である。
 ただエマニュエル・トッド氏の進言はこのようなリスクがなければ説得的であることに変わりはない。
 東アジアにおけるアメリカの覇権とプレゼンスが以前ほどではなくなりこの傾向は今後も進むだろう。
 そうすれば日本にとってリスクであったものがリスクでなくなることも想定されるー同盟国が日本の核保有に理解を示すなど。
 戦後73年が経過し若い世代の価値観は変わりそう遠くない将来日本の外交と安全保障政策が以前とは全く異なることが考えられる。
 数十年後日本が核を保有していることもそのうちの一つに数えられよう。

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