2018年1月8日月曜日

政治家と建前

 「政策の実行、実行、そして実行あるのみであります。我が国が直面する困難な課題に、真正面から立ち向かい、共に、日本の未来を切り拓いていこうではありませんか」
 昨年11月国会演説で安倍首相はこう締めくくった。立派な演説に違いないが感動するものがない。抽象的で人間味に欠けるからであろうか。
 仮にこのフレーズの後に
 「私は三本の矢を政策に掲げこれが実行に全力を傾けてまいりました。その結果、第一の矢は成功裡に放つことができました。
 が、第二、第三の矢は、野党や族議員ならびに省益を守りたい財務官僚諸君の激しい抵抗にあい未だ実行できずにいます。またそのメドもたっていません。
 総理大臣の権限は皆さんが思っているほど強大ではありません。抵抗勢力を動かすには皆さんの支援が不可欠であります。
 三本の矢をすべて成功裡に放ち、共に、輝かしい日本の未来を取り戻そうではありませんか」
 こう続けたら聴衆から喝采を浴びるだろう。だが首相自ら自分の実行力のなさを認めたとしてやがて辞任に追い込まれるだろう。

 本音の言葉は人間味があり人の心を打つ。建前の言葉はどこか白々しい。 
 だが、政治家は公の席では本音を語らない。支援者の集まりなど私的な会合でつい本音を漏らしそれが公になり弁明に追われる政治家は多い。
 権力を維持するためには権謀術数を弄し、本音を隠し建前に終始しなければならないこともあるだろう。
 だがそれだけでは誠実さに欠ける。国民は率直で正直な政治を望んでいる。政治家の弱点や悩みは時として共感を呼ぶ。
 権力を維持するために建前に終始しなければならないとすれば、それは健全な政治とはいい難い。わが国の本当の危機は案外この辺にあるのかもしれない。

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