2017年12月18日月曜日

デフレの怖さ 6

 消費者物価指数ときまって支給する給与データの推移をみるかぎりわが国は今なおデフレから脱却できていない。デフレがいかに怖いかも屡説した。だがデフレのなにが問題なのか、どうして危機なのか疑問に思う人もいるに違いない。それが原因でさしせまって困ったこともないからである。
 わが国のデフレについての現状認識をかいつまんでいえばこういうことになるだろう。

① 一部リフレ派エコノミストはデフレ脱却について具体策を提言している。その内容は昭和恐慌時の政策がベースとなっている。
② だが政治家や行政当局がこれらの声に対し真摯に対応しているようには見えない。
③ 国民も収入が増えないのは困るけど物価が安いのは悪いことではないとさして困っている様子でもない。
④ 失業率もこれ以上望めないほど理想に近い。失業者が少ないことは社会が安定していることの証だ。



 現状はたしかに問題があるようには見えない。だが、データの背景には懸念すべきことがある。
 失業率が低く平均賃金が上がらないのは企業が正規社員にかわりパート・アルバイトを増やしたからであり、物価が安いのはグローバル化による競争激化と需要不足が原因である。しかもこの傾向が20年もの長きに亘っていることである。
 仮にこの傾向が継続し無策に終始したとすればデフレスパイラルに陥るであろう。そうなれば悲惨だ。
 悲観的な見方をすれば、日本経済の現状は滝壷に落ち入る前の穏やかな水の流れである。やがては奈落の底が待ち構えている。
 かかる悪夢は予測し難い。1929年のアメリカ恐慌が世界大恐慌に発展すると予想した世界の指導者はだれ一人いなかったように。
 当時の井上準之助蔵相も1929年までのアメリカの繁栄をみて遅れじと金を解禁し、後にアメリカが恐慌になってもこれを一時的な反動と見た。

 殷鑑遠からず。昭和恐慌はわが国のデフレ対策のお手本である。ただ当時と今では環境が違うのでこれを考慮しなければならない。
 IMF集計によると、2016年末日本の対外純資産は349.1兆円で26年連続世界最大である。2位中国210.3兆円、3位ドイツ209.9兆円(機軸通貨国アメリカは947.2兆円の対外純債務) 

 過去の遺産による債権大国という意味では昭和恐慌より19世紀後半のイギリスに似ている。
 イギリスは18世紀後半から世界の工業国として君臨してきたが、19世紀後半不況に陥り、当時の新興国アメリカやドイツに追い上げられ競争力が低下した。
 産業転換が遅れイノベーションも興らず、高コスト体質で物が売れなくなり物価が下落した。
 市場利子率を上回る投資案件がなく需要不足からデフレとなり経済が長期にわたり停滞した。
 これを現在のわが国に照らせばこうなる。

 1 26年連続世界最大の債権大国であるため危機意識が希薄
 2 中国など新興国に追い上げられ産業転換が遅れ競争力が低下
 3 イノベーション分野でアメリカなどの後塵を拝している
 4 企業は需要不足で投資せず国債など購入している

 昭和恐慌時と大きく異なるのは現在わが国は19世紀後半のイギリスと同じく過去の蓄積による債権大国であることである。
 このため危機意識も乏しくデフレも長期化している。19世紀後半のイギリスは1873年から1896年まで約四半世紀デフレが続いた。その後も長期停滞が続きようやく回復に向かったのは1979年サッチャー首相登場からであった。
 過去の蓄積が変化への対応を遅らせた。わが国が今後ともイギリスの轍を踏むか否かは政策次第であるが現実をみれば楽観的にはなれない。
 なぜそうなのかどこに問題があるのか。本件については物事の表面だけを見ていても何も分からない。原因は背後に隠されている。

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