2016年5月2日月曜日

地震予知について 2

 地震予知は可能だとする学者でもどれほどの確信があるのか。地震予知連絡会の会長であり地震防災対策強化地域判定会の会長でもあった茂木氏は、 ”岩石に力を加えると、大きく壊れる前に小さな破壊が起きる。この小さな破壊が前兆となって地震予知につながる。” という考えだ。
 だがこの前兆は必ずしもはっきりと観測できるとは限らない。それゆえ重い責任を伴う予知の判断を迫られても白黒の判断のしようがない。
 茂木氏は中間の灰色を主張したがこれが国土庁に受け入れられず自ら地震防災対策強化地域判定会の会長職を辞した。
 地震学者の中でも最初から予知など不可能だとする少数派の学者がいる。島村英紀、ロバート・ゲラーの両氏はその代表であろう。
 アメリカ出身のロバート・ゲラー東京大学教授は、地震予知についてこう述べている。

 「鉛筆を曲げる様子を想像してみよう。両手で鉛筆を握り、少しずつゆっくり曲げてゆく。ゆっくりゆっくり曲げていくと、ある時点で鉛筆はボキッと折れるだろう。
 鉛筆を曲げていけば、いつか必ず破壊現象が起きることは誰でもわかる。
 だが、鉛筆がいつ折れるのかを正確に予測することはできない。
 なぜなら、各鉛筆の詳細な構造や曲げ方の速度、外部環境など多くの要因が複雑に関わるからだ。(中略)
 またサイコロの例を想起してみてほしい。サイコロを投げたときに、どの数字が出るのか。確率過程を調べるためにどんなに大量のデータを記録したとしても、次にどの数字が出るか正確に予測できない。
 サイコロを投げるときに、手にどれほどの強さがかかっているのか。ひねりをどの程度加えたのか。転がる場所の材質はどうなっているのか。初期条件にほんのわずかな変更を与えただけで、結果は異なってくる。
 サイコロがフェルトの壁にぶつかれば、フェルトが一部のエネルギーを吸収する。壁にぶつかれば、転がり方だって変わってくる。 サイコロの出目を決定論的に予測することは、どうやっても不可能だ。
 初期条件に非常に敏感な依存性をもつ物理過程を、物理学の世界では 『カオス』 と呼ぶ。カイス理論を紹介した 『複雑系』(ミッチェル・ワールドロップ著)という本をご存知の読者もいるだろう。
 微小地震の発生とその後の断層面における滑りの広がり方も、カオス的な過程だ。
 サイコロの出目を予測できないと同様、正確な地震予知などできないのだ。」
(ロバート・ゲラー著双葉社『日本人は知らない地震予知の正体』)

 サイコロの出目を例にあげるのが適当か否かはともかく破壊現象の予測困難は地震予知に否定的な学者が一様に指摘するところである。
 ロバート・ゲラー氏のカリフォルニア工科大学時代の師であり地震研究の第一人者といわれる金森博雄氏は、東日本大震災後の2012年秋被災地を訪れ地震予知についてこう語っている、

 「不可能と証明できないが、現在も非常に難しく、今のところ将来も相当難しい」
と。
 人びとは阪神淡路大震災、東日本大震災を経験し地震予知について懐疑的になり、地震学者の自信もゆらぎはじめた。  そしてついに国の見解が示された。

 「気象庁が唯一 『可能性がある』 としてきた東海地震の予知が 『困難』 だと、国が初めて一線の専門家を集めて検討していた結果が2013年5月に公表された。
 南海トラフの対策を検討していた中央防災会議の 『南海トラフ巨大地震対策検討ワーキンググループ』 の最終報告で、下部組織である 『南海トラフ沿いの大規模地震の予測可能性に関する調査部会』 が報告書にまとめたもので、 『現在の科学的知見からは(地震直前の)確度の高い予測(=予知)は難しい』 を引く形で、予知の限界を認めたのである。(中略)
 こうしてまとめられた報告書では、核心の地震予知については、こう書かれた。

 『地震の規模や発生時期の予測は不確実性を伴い、直前の前駆すべりを捉え、地震の発生を予測するという手法により、地震の発生時期等を確度高く予測することは、一般的に困難である。』
 『予知は困難』 とは書かれていないが、内容の意味するところは、東海地震を含む南海トラフでの地震の予知が難しいことを示している」
(黒沢大陸著新潮社『地震予知の幻想』)

 このように国によって地震予知は 「可能」 から 「一般的に困難」 へと変更された。

 日本における地震予知は、正式には東海地震から発展した南海トラフ巨大地震のみである。
 これ以外に予知の対象となっているものがない。それ故わが国の地震予知は、東海地震抜きには語れない。まだ起きてもいない(幸いながら)のに命名されたこの東海地震は、地震予知に関連してわが国に混乱と災禍をもたらしてきた。
 だがこの事実が国民に十分認識されているとは云えない。

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