熊本地震は想定外の地震であり、今なお余震がつづき多くの被災者を苦しめている。
ハザードマップ(全国地震動予測地図)によれば、被災地は30年以内に震度6弱以上の揺れが起きる確率が8%にすぎなかった。
全国には確率70%以上の地域が多数あリ熊本での地震はハザードマップのみに頼ることの危うさがわかった。
地震予知が外れるのは熊本に限らない。最近の大地震である阪神・淡路大震災、新潟県中越地震、東日本大震災もことごと想定外と言っていい。
残念ながら科学が発達した今日において地震予知が確立されているとはいい難い。
地震は人びとの生命と財産に直結するだけに関心が高い。ハザードマップはわれわれが頼りにしてきたものの一つである。 それがこうも期待に背けばハザードマップひいては地震予知そのものについて懐疑的にもなる。
わが国には地震予知の先導的役割を担ってきた地震予知連絡会がある。
ここで1991年4月から10年の長きにわたり会長であった茂木清夫氏は地震予知はむずかしいと断ったうえでこう述べている。
「地震をおこす原因は毎年数センチで移動するプレートの運動で、きわめてゆっくりした変化である。
地震はいわば静的な状況下でおこる。しかも外部から何らかの擾乱が急に入ってくるということはほとんどない。
物事はゆっくりと進行し、極限に近づき、ついに破局をむかえるというのが地震現象である。
したがってこのプロセスの物理がわかり、変化のプロセスを追うことができれば、破局の発生を予測することができる可能性はおおいにある。
地下の力の分布状況や増加のしかた、深部の強度分布状態がわかれば、理論的にその破局である地震の発生を予知できる可能性がある。
しかし、実際はこれらの地下の状況をしめすデータはわずかしかわかっていない。それを推測するために地表での各種の観測がおこなわれているが、現状では理論的に予測するには、地下の状況について不明な点が多すぎる。
こういう場合には、これまで経験した事例がひじょうに重要な手がかりを与える。
なぜならば、地震がおこるときの諸条件が時間的にあまり変化せず、かなりの再現性が期待できるからである。
もちろん、隣接地域で大きい地震がおこれば、それによる条件の変化を考慮しなければならないし、場所が少し変わっただけで地震のおこり方がちがうことも念頭におかなければならない。また、破壊現象自体の不確実さもある。
これらのことを十分認識した上で、これまでの事例あるいは経験をよく検討して、その中から何らかの規則性を見出し、それを参考にすることが重要である。」
(茂木清夫著岩波新書『地震予知を考える』)
茂木氏は地震調査のための予算の不足を嘆きながらも地震予知の可能性について楽観的である。彼の見解を要約すれば、
”地震をおこす原因はゆっくりした変化であるから十分な予算をかけて地下を含め詳細に観察すれば地震予知に悲観的になることはない。残念ながら十分な予算がないからそれがかなわない。
十分な予算があれば過去におきた事例をけんきゅうするのも有力である。
また地震は様々な種類がある。過去におきた地震を調べ積み重ね、その中から規則性を見出し将来の予知に役立てることができる。”
ということであろう。
いづれにしても、近年の大地震の予知をことごとく外してきたにも拘らず条件さえ充たされれば地震予知は可能であるという。
長らく地震予知の世界で中心的役割をしてきた人の意見である。この地震予知に対する見解がわが国の主流であろうことは容易に推測できる。
2016年4月25日月曜日
2016年4月18日月曜日
熊本城の石垣
地震により石垣が崩れ、屋根瓦がはがれ落ち無残な姿となった熊本城。
熊本城がはからずも世間の耳目を集めている。熊本城が人びとの注目を浴びたのは過去にも一度あった。
日本最後にして最大の内戦となった明治10年西南戦争の熊本城の戦いである。
西南戦争で一つの石垣にまつわる伝説がある。
薩摩軍は加藤清正が築城した武者返しの石垣を攻めあぐねた。
熊本城篭城作戦をとった官軍は2ヶ月近くにわたる薩摩軍の猛攻を防ぎ熊本城が文字通り「難攻不落」であることを証明した。
西南戦争が終焉を迎えるとき、薩摩の城山で西郷隆盛はこう言ったという。 「わしは官軍に負けたのではない、清正公に負けたのだ」 と。
加藤清正は石垣の名手のみならず川の氾濫に悩まされた肥後で治水に尽力し新田を開発した土木の天才であった。
領民のために率先垂範して行動した彼は地元出身でないにも拘らずいまなお熊本で絶大な人気を誇っていて親しみを込めて 「清正公(せいしょこ)さん」 と呼ばれ慕われている。
彼の手になる熊本城の堅牢で優美な石垣・武者返しの破損は、熊本人にとって精神的な痛手であろう。熊本城は熊本を代表するシンボルであるからである。
此度の地震で被災した熊本の人びとはこう思うかもしれない
「熊本城もあんなに被害を受けたのだから仕方がないか」 と。
この思いが明日に向けて復興への糧となることを願うばかりだ。
熊本城修復が復興のシンボルとなり、いつの日かまた武者返しの雄姿を見てみたい。
熊本城がはからずも世間の耳目を集めている。熊本城が人びとの注目を浴びたのは過去にも一度あった。
日本最後にして最大の内戦となった明治10年西南戦争の熊本城の戦いである。
西南戦争で一つの石垣にまつわる伝説がある。
薩摩軍は加藤清正が築城した武者返しの石垣を攻めあぐねた。
熊本城篭城作戦をとった官軍は2ヶ月近くにわたる薩摩軍の猛攻を防ぎ熊本城が文字通り「難攻不落」であることを証明した。
西南戦争が終焉を迎えるとき、薩摩の城山で西郷隆盛はこう言ったという。 「わしは官軍に負けたのではない、清正公に負けたのだ」 と。
加藤清正は石垣の名手のみならず川の氾濫に悩まされた肥後で治水に尽力し新田を開発した土木の天才であった。
領民のために率先垂範して行動した彼は地元出身でないにも拘らずいまなお熊本で絶大な人気を誇っていて親しみを込めて 「清正公(せいしょこ)さん」 と呼ばれ慕われている。
彼の手になる熊本城の堅牢で優美な石垣・武者返しの破損は、熊本人にとって精神的な痛手であろう。熊本城は熊本を代表するシンボルであるからである。
此度の地震で被災した熊本の人びとはこう思うかもしれない
「熊本城もあんなに被害を受けたのだから仕方がないか」 と。
この思いが明日に向けて復興への糧となることを願うばかりだ。
熊本城修復が復興のシンボルとなり、いつの日かまた武者返しの雄姿を見てみたい。
2016年4月11日月曜日
トランプ旋風 3
アメリカ大統領予備選挙で吹き荒れているトランプ旋風はアメリカ政治がターニングポイントにさしかかっていることを示唆している。
覇権国であるアメリカの政治が転換点をむかえれば世界に及ぼす影響は大きい。
覇権国であるアメリカの政治が転換点をむかえれば世界に及ぼす影響は大きい。
アメリカは真珠湾奇襲攻撃を受けるまでは建国の国是でもある非同盟を貫いてきたが、真珠湾奇襲を機にそれまでの内向き政策をかなぐりすてた。
第二次世界大戦を機に対外干渉をすすめついには覇権国の地位を不動のものにするまでに至った。
だが第二次大戦後70年経過しアメリカを覇権国に持ち上げた原動力となったグローバリゼーションは制度疲労をおこしその影の部分が頭をもたげつつある。
第二次世界大戦を機に対外干渉をすすめついには覇権国の地位を不動のものにするまでに至った。
だが第二次大戦後70年経過しアメリカを覇権国に持ち上げた原動力となったグローバリゼーションは制度疲労をおこしその影の部分が頭をもたげつつある。
アメリカ社会の歪みである国民の間の格差が大きくなり国民の不満が蓄積されそれが限度に達しつつある。
地層のプレートの歪みが限度まで達すると地震で補正されるように社会の格差も限度に達すれば補正される力がはたらくであろう。
このような時機に登場したのがトランプ氏であり、サンダース氏である。
彼らの活躍はアメリカ社会の歪み是正現象として捉えることができる。
彼らの活躍はアメリカ社会の歪み是正現象として捉えることができる。
この流れを意図してか否かトランプ氏は、はっきりと内向き政策を掲げアメリカ国民の支持を集めている。
仮にトランプ氏がアメリカ大統領に選出されれば、アメリカの内向き政策はすすみ、その結果アメリカは覇権国から転落の一途を辿るだろう。
覇権国とは、経済的にも軍事的にも他国に干渉しその影響力を及ぼすゆえに覇権国たりうるのであって、内向き政策に終始する覇権国などありえない。
ただ、次なる覇権国候補がはっきりとしないためその移譲は緩慢となろう。
一方、仮に共和党主流派候補や民主党クリントン氏が大統領選挙で勝利すれば、アメリカのエスタブリッシュメントは胸をなでおろし従来どおり自らに有利な政策実現に邁進するであろう。
格差是正の声はかき消され、グローバル化は極限に達する。最悪の場合、アメリカは中間層が少なくなり大多数の貧困層とごく一握りの富裕層で形成される社会になりはてる。
しかもこの場合もアメリカは覇権国から転落の一途を辿ることはおなじである。なぜならアメリカの国力が衰退するからである。
アメリカのGDPの7割は消費によっている。消費を支える圧倒的多数の中間層が少なくなればその結果どうなるか。
富裕層の消費には限度があるし、貧困層は消費できない。GDPの7割を消費に依存するアメリカ経済は縮小の憂き目にあう。
経済が縮小すればそれに伴い軍事も縮小する。そうなれば覇権国の地位は危うくなる。
トランプ氏は偉大なアメリカを取り戻すといっている。覇権国から転落した偉大なアメリカとはどんなアメリカだろう。
もともと、内向き、孤立主義、非同盟は、アメリカ建国の国是である。
そうであればトランプ氏は、建国の父達の先祖返りということになる。
もっともアメリカ建国の父達はすべて教養ある人々であったという。彼らは泉下でトランプ氏の演説を聞いてさぞかし眉を顰めていることだろう。
どの候補がアメリカ大統領になっても衰退するアメリカの流れをせき止めることはできない。
トランプ旋風はわれわれにアメリカ時代の終わりの始まりをはっきりと知らせてくれた。
覇権国とは、経済的にも軍事的にも他国に干渉しその影響力を及ぼすゆえに覇権国たりうるのであって、内向き政策に終始する覇権国などありえない。
ただ、次なる覇権国候補がはっきりとしないためその移譲は緩慢となろう。
一方、仮に共和党主流派候補や民主党クリントン氏が大統領選挙で勝利すれば、アメリカのエスタブリッシュメントは胸をなでおろし従来どおり自らに有利な政策実現に邁進するであろう。
格差是正の声はかき消され、グローバル化は極限に達する。最悪の場合、アメリカは中間層が少なくなり大多数の貧困層とごく一握りの富裕層で形成される社会になりはてる。
しかもこの場合もアメリカは覇権国から転落の一途を辿ることはおなじである。なぜならアメリカの国力が衰退するからである。
アメリカのGDPの7割は消費によっている。消費を支える圧倒的多数の中間層が少なくなればその結果どうなるか。
富裕層の消費には限度があるし、貧困層は消費できない。GDPの7割を消費に依存するアメリカ経済は縮小の憂き目にあう。
経済が縮小すればそれに伴い軍事も縮小する。そうなれば覇権国の地位は危うくなる。
トランプ氏は偉大なアメリカを取り戻すといっている。覇権国から転落した偉大なアメリカとはどんなアメリカだろう。
もともと、内向き、孤立主義、非同盟は、アメリカ建国の国是である。
そうであればトランプ氏は、建国の父達の先祖返りということになる。
もっともアメリカ建国の父達はすべて教養ある人々であったという。彼らは泉下でトランプ氏の演説を聞いてさぞかし眉を顰めていることだろう。
どの候補がアメリカ大統領になっても衰退するアメリカの流れをせき止めることはできない。
トランプ旋風はわれわれにアメリカ時代の終わりの始まりをはっきりと知らせてくれた。
2016年4月4日月曜日
トランプ旋風 2
トランプ旋風は白人ブルーカラーの不満に支えられている。
アメリカの既得権益に浴している人々は必死になってトランプ阻止に動いている。
これらエスタブリッシュメントは自らの利権を奪いかねないトランプ氏に危機感を抱いているからである。
なぜこのような構図になったのか。それにはアメリカ政治とその活動結果の税制にその答えの一端を見出すことができる。
前稿では格差を助長する相続税について言及したが、ここでは格差の原因ともなる所得税の推移に注目してみたい。
日・米・英の所得税(国税)の税率の推移
2015年1月現在 財務省ホームページから
上図でアメリカの所得税率の最高が1981年の70%から1984年以降50%以下と急激に低くなっている。
1981年共和党のレーガン大統領就任とほぼ軌を一にしている。この所得税率低下傾向は、2008年のリーマンショックまでつづいた。
この間の政策は小さな政府による大幅減税、軍事費拡大、規制緩和などいわゆるレーガノミクスであり、途中民主党政権をはさんでも基本的に変わることはなかった。
覇権国アメリカの政策は他の先進国にも影響を及ぼし、日英の所得税の推移も程度の差こそあれ同じような道を辿った。
2008年のリーマンショックを機に米国民、 特に白人ブルーカラー層の生活は一変した。
ヒスパニックなど非白人の大量移民で白人ブルーカラーの職は奪われ、またこれに追い討ちをかけるようにエスタブリッシュメントは、グローバル化をすすめ安い労働力を海外に求めた結果米国内の賃金を低下させた。
同時にエスタブリッシュメントは政治家に働きかけ所得税の最高税率を低く抑えることに成功した。
この格差拡大政策に対するウオール街のデモは記憶に新しいが、トランプ旋風も同じ流れでとらえることができる。
著名な投資家でオマハの賢人といわれるウオーレン・バフェットは ”自分の税率と秘書の税率が同じなのはおかしい” といった。
元米労働長官のロバート・ライシュは共和党エスタブリッシュメントへ公開書簡を送っている。その冒頭で皮肉たっぷりに曰く。
「君たちは、アメリカを代表する産業資本家であり、ウォール街の大立者であり、億万長者だ。何十年もの間、共和党の屋台骨を支えてきた。
君たちは、自分の莫大な財産をGOP(共和党の愛称。Grand Old Partyの略)に注ぎ込んだ。
目的は、節税と補助金。規制緩和と知的所有権の保護。市場シェアを上げて製品を値上げすること。労組を骨抜きにして移民を低賃金で働かせること。
住宅購入者や学生債務者には容赦なく自己責任を追及しながらも、自分の会社が破綻したときには公的資金で助けてもらうこと。
そして、自分たちのインサイダー取引を見逃してくれる裁判官を任命することだ。
君たちはあらゆる手を尽くして途方もない富を築いた。 おめでとう。」
(2016年3月ニューズウィーク日本版)
近年のアメリカの民主主義は金で買われた民主主義であると言われるが、この元米労働長官ライシュの指摘はその核心をついている。
アメリカの大統領選挙は、従来、共和、民主のいずれの党の候補にかかわらず、いかに巨額の資金を集められるかが勝敗の分かれ目であった。
今回も他の候補がウオール街やグローバル企業から巨額の資金援助を受けていることをトランプ氏は舌鋒鋭く批判している。
当のトランプ氏は資金援助を受けず、他候補にくらべれば選挙資金を殆んど使ってないに等しい。使う必要もない。メディアが勝手に報道してくれるからである。
この点もトランプ氏が支持される理由の一つとなっている。政治資金の援助をうけなければ誰からも拘束されることなく政策のフリーハンドを保てるからである。
トランプ氏の言動は外交や世界の安全保障上 幾多の問題がある。が、こと米国内政上の問題に限っていえばその目指すところは理にかなっている。米国の民主主義を取り戻すことに貢献するからである。
最終的に彼は共和党主流派によって抑え込まれるかもしれない。だが彼が創った政治の流れはいずれ誰かに引き継がれ結実するであろう。
さもなければ覇権国アメリカの落日は加速度的に早まるにちがいない。
トランプ氏を支持する白人ブルーカラーを中心としたアメリカ国民と共和党主流派に代表されるアメリカのエスタブリッシュメントのせめぎあい。
この戦いはこれまでのアメリカ大統領選挙の戦いと異なる。どちらが勝つか予想もつかない。
”トランプは怪物なのかもしれない。だが、共和党主流派こそが彼を生み出したフランケンシュタイン博士だ ”
と ヒラリー・クリントンを支持する特別政治活動委員会の戦略家、ポール・ベガラ氏はワシントン・ポスト紙でこう評した(産経ニュース)。
もしこのベガラ氏のたとえが物語の筋書きどおりすすめばその結末は共和党にもトランプ氏にも悲劇が訪れる。
アメリカの既得権益に浴している人々は必死になってトランプ阻止に動いている。
これらエスタブリッシュメントは自らの利権を奪いかねないトランプ氏に危機感を抱いているからである。
なぜこのような構図になったのか。それにはアメリカ政治とその活動結果の税制にその答えの一端を見出すことができる。
前稿では格差を助長する相続税について言及したが、ここでは格差の原因ともなる所得税の推移に注目してみたい。
日・米・英の所得税(国税)の税率の推移
2015年1月現在 財務省ホームページから
上図でアメリカの所得税率の最高が1981年の70%から1984年以降50%以下と急激に低くなっている。
1981年共和党のレーガン大統領就任とほぼ軌を一にしている。この所得税率低下傾向は、2008年のリーマンショックまでつづいた。
この間の政策は小さな政府による大幅減税、軍事費拡大、規制緩和などいわゆるレーガノミクスであり、途中民主党政権をはさんでも基本的に変わることはなかった。
覇権国アメリカの政策は他の先進国にも影響を及ぼし、日英の所得税の推移も程度の差こそあれ同じような道を辿った。
2008年のリーマンショックを機に米国民、 特に白人ブルーカラー層の生活は一変した。
ヒスパニックなど非白人の大量移民で白人ブルーカラーの職は奪われ、またこれに追い討ちをかけるようにエスタブリッシュメントは、グローバル化をすすめ安い労働力を海外に求めた結果米国内の賃金を低下させた。
同時にエスタブリッシュメントは政治家に働きかけ所得税の最高税率を低く抑えることに成功した。
この格差拡大政策に対するウオール街のデモは記憶に新しいが、トランプ旋風も同じ流れでとらえることができる。
著名な投資家でオマハの賢人といわれるウオーレン・バフェットは ”自分の税率と秘書の税率が同じなのはおかしい” といった。
元米労働長官のロバート・ライシュは共和党エスタブリッシュメントへ公開書簡を送っている。その冒頭で皮肉たっぷりに曰く。
「君たちは、アメリカを代表する産業資本家であり、ウォール街の大立者であり、億万長者だ。何十年もの間、共和党の屋台骨を支えてきた。
君たちは、自分の莫大な財産をGOP(共和党の愛称。Grand Old Partyの略)に注ぎ込んだ。
目的は、節税と補助金。規制緩和と知的所有権の保護。市場シェアを上げて製品を値上げすること。労組を骨抜きにして移民を低賃金で働かせること。
住宅購入者や学生債務者には容赦なく自己責任を追及しながらも、自分の会社が破綻したときには公的資金で助けてもらうこと。
そして、自分たちのインサイダー取引を見逃してくれる裁判官を任命することだ。
君たちはあらゆる手を尽くして途方もない富を築いた。 おめでとう。」
(2016年3月ニューズウィーク日本版)
近年のアメリカの民主主義は金で買われた民主主義であると言われるが、この元米労働長官ライシュの指摘はその核心をついている。
アメリカの大統領選挙は、従来、共和、民主のいずれの党の候補にかかわらず、いかに巨額の資金を集められるかが勝敗の分かれ目であった。
今回も他の候補がウオール街やグローバル企業から巨額の資金援助を受けていることをトランプ氏は舌鋒鋭く批判している。
当のトランプ氏は資金援助を受けず、他候補にくらべれば選挙資金を殆んど使ってないに等しい。使う必要もない。メディアが勝手に報道してくれるからである。
この点もトランプ氏が支持される理由の一つとなっている。政治資金の援助をうけなければ誰からも拘束されることなく政策のフリーハンドを保てるからである。
トランプ氏の言動は外交や世界の安全保障上 幾多の問題がある。が、こと米国内政上の問題に限っていえばその目指すところは理にかなっている。米国の民主主義を取り戻すことに貢献するからである。
最終的に彼は共和党主流派によって抑え込まれるかもしれない。だが彼が創った政治の流れはいずれ誰かに引き継がれ結実するであろう。
さもなければ覇権国アメリカの落日は加速度的に早まるにちがいない。
トランプ氏を支持する白人ブルーカラーを中心としたアメリカ国民と共和党主流派に代表されるアメリカのエスタブリッシュメントのせめぎあい。
この戦いはこれまでのアメリカ大統領選挙の戦いと異なる。どちらが勝つか予想もつかない。
”トランプは怪物なのかもしれない。だが、共和党主流派こそが彼を生み出したフランケンシュタイン博士だ ”
と ヒラリー・クリントンを支持する特別政治活動委員会の戦略家、ポール・ベガラ氏はワシントン・ポスト紙でこう評した(産経ニュース)。
もしこのベガラ氏のたとえが物語の筋書きどおりすすめばその結末は共和党にもトランプ氏にも悲劇が訪れる。
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