2017年5月8日月曜日

自殺について 1

 自殺という痛ましい事件は後を絶たない。人はなぜ自殺するのか?
 一般的には、借金、病気、失恋などがその理由に挙げられるが本当にそうか?
 自殺の原因は、個人的理由だけでなくそれ以上に強力なものがあるのではないか?
 この観点から19世紀フランスの社会学者エミール・デュルケームは生命の放棄という自殺行為について研究し、古典的名著『自殺論』を1897年に上梓した。
 デュルケームのこの著作は、社会学研究の基礎の書でありこれに先立つ2年前の1895年に同じくデュルケームが上梓した社会学の方法論である『社会学的方法の規準』を実践した書でもある。
 その骨子は自然科学が自然現象をあつかうように社会現象を社会的事実として捉えこれを物のように考察することである。
 社会的事実を決定するものは個人の意思ではなく先行した社会的事実である。
 「社会的事実とは、固定化されていると否とは問わず、個人のうえで外部的な拘束をおよぼすことができ、さらにいえば、固有の存在をもちながら所与の社会の範囲内に一般的にひろがり、その個人的な表現物からは独立しているいっさいの行動様式のことである。」(デュルケーム著宮島喬訳岩波文庫『社会学的方法の規準』)

 敷衍すれば、社会的事実とは、個人の外にあって個人を拘束する集団や社会のしきたりや慣習など一切の思考・行動様式である。
 例えば、われわれは初対面の人に挨拶をする、日本に生まれたゆえに日本語を話し、日本円を使う。
 初対面の人に挨拶をせず、日本語を話さず、日本円を使わなくても自由だか困難をきわめる。個人ではいかんともし難いことが個人を規制する。
 デュルケームはこの方法で自殺を個人的事由ではなく社会的原因に根ざしていると主張する。一般的に自殺は冒頭に記したように個人的理由と考えられているがそれは違うと言う。
 この方法でデュルケームはフランスだけでなくヨーロッパ全体の自殺者データを微に入り細にわたり検証して『自殺論』を上梓した。
 自殺という言葉は日常的に使われているが学問的には厳密でなければならないとし、自殺を
 「死が、当人自身によってなされた積極的、消極的な行為から直接、間接に生じる結果であり、しかも、当人がその結果の生じうることを予知していた場合を、すべて自殺と名づける。」と定義した。
 H27年世界保健機構(WHO)の各国自殺率順リストによると日本は12位、自殺率が高い高齢者を考慮した年齢調整自殺率でも17位と先進国で一番自殺率が高い。
 日本がなぜ自殺率が高いのか。デュルケームの研究はこの疑問に答えてくれるかもしれない。
 彼の研究成果をもとに自殺について考えてみたい。

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