この過程を通じある一つの共通点がおぼろげながら浮かび上がってくる。
それは、アメリカをここまで強力な国家にしてきた原因のひとつであり、かつ未来にわたって衰退する原因ともなりうるものである。
それは『グローバリズム』というモンスターである。このモンスターは今なお衰えをみせていないどころか全世界を席巻し尽くさんばかりの勢いである。
アメリカ建国の父 初代大統領ジョージ・ワシントンは国是ともいうべき非同盟主義こそアメリカの国益であると宣言した。
そしてこの国是は紆余曲折あるも長いこと守られてきた。
しかし、この非同盟不干渉主義は第一次世界大戦からすこしずつ怪しくなってきた。決定的になったのは『太平の眠りを覚ます蒸気船』ならぬ『非同盟の眠りを覚ます真珠湾奇襲』であった。
これを機にアメリカはそれまでの非同盟不干渉主義をかなぐり棄て、国際社会への介入を強めていった。
この介入を通じやがてアメリカは覇権国家へと目覚め世界の警察官の役目を担うようになった。
半世紀以上に亘り介入主義は止まることを知らず、ついに国連決議なしにイラク爆撃にふみきった。
アメリカの政治学者サミュエル・ハンチントンは、冷戦終結後世界は平和が訪れたかに見えるが、文明と文明の境にはフォルトラインがあり、争いが起き易い。
覇権国といえども、否、覇権国であるがゆえにその権力の行使は抑制的であるべきであると警告した。
学説の正否はともかく、彼の懸念は現実となり、特にイスラム社会との摩擦は抜き差しならぬ事態にまで立ち至っている。
アメリカを超大国に押し上げたグローバリゼーションの主役は一部の国際企業家である。
国際企業家こそアメリカを経済的にも軍事的にも唯一の超大国に押し上げた原動力であった。
世界中の優秀な頭脳が機会を求めアメリカに移入した。アメリカ社会は、移民も自由に研究ができ起業もできる。
国際企業家の豊富な資金力がこれを後押しした。それにアメリカではグローバリズムが信奉されてきたことも大きく影響した。
かくて富がアメリカに吸い寄せられるシステムができあがった。
アメリカは歴史上どの国も達したことがない経済的繁栄を謳歌した。
このグローバリゼーションには欠点があったが繁栄するアメリカ社会で長いこと問題にされることはなかった。
だが、2008年の金融危機を機にそれは徐々に表面に現れてきた。ウオール街へのデモはその現れの一つである。
その欠点とは何か。
富が一部に集中し、国民の間に格差が生まれることである。
現在のアメリカでの格差はどれほどのものか。
「米連邦制度理事会(FRB)のイエレン議長は、米国で富と所得の不平等が19世紀以来で最も持続したペースで高まっていることを『非常に』懸念していると述べた。
イエレン議長は17日、経済的不平等に関するボストン連銀の会議で講演。議長はFRBがまとめた2013年の消費者金融調査(SCF)を引用し、米世帯のうち資産規模で下半数の保有資産が全体に占める割合が1%にとどまった一方、富裕層上位5%の保有資産は全体の63%だったと述べた。」(2014年10月17日ブルームバーグニュース)
全米資産の1%を国民の半数が分かち合っている。驚くべき数値である。
米国のGDPの7割は消費である。消費は分厚い中間層によって支えられてはじめて安定的となる。
このアメリカの資産保有分布をみる限りとても安定的とはいえない。
このアメリカの資産保有分布をみる限りとても安定的とはいえない。
アメリカのGDP成長に危険信号が灯ればすべてが危うくなる。 政治・経済はもちろん軍事とて例外ではありえない。ファリード・ザカリアが指摘した政治の停滞はグローバリゼーションによる結果といえる。
なお問題なのは、TPP推進などをみる限り、このグローバリゼーションの流れはまだ勢いを失っていないことである。
アメリカ覇権の翳りの原因は他にもあるがこのグローバリゼーションは主要な原因の一つであることは間違いない。
アメリカが超大国の座から降りたら替わりに就く国はあるのだろうか。超大国は出現せず、ブロックごとのリーダ国の出現というのが大方の見方である。
近い将来15~20年後見すえたとき超大国として中国とかインドの可能性を挙げる人もいる。
この二つの新興大国のいずれも超大国・覇権国として君臨する姿は想像できない。
中国は、共産党独裁政権、歪な経済成長、高齢化、インドはカーストのくびき(ファリード・ザカリアは文化の制約は克服可能と言っているが)、これらの制約による。
ありうる近未来の姿としてはアメリカがトップ集団の1位(the first among equals)であり続ける姿が一番イメージし易い。
幾多の弱点あるにも拘らずアメリカにはシェールガス革命、移民、不介入主義への回帰など再びアメリカを成長への軌道にのせる要素がある。
幾多の弱点あるにも拘らずアメリカにはシェールガス革命、移民、不介入主義への回帰など再びアメリカを成長への軌道にのせる要素がある。
最近200年間世界の覇権はイギリスとアメリカ、いわばアングロサクソン国家により壟断されてきた。
特にアメリカはかってないほどの経済的繁栄と軍事力を築いた。その遺産は一朝一夕で雲散霧消する類のものではない。
核開発、宇宙開発、産業などはロシア、中国、日本などに接近され一時的に凌駕されたこともあったが、軍事力、通信、金融などは一度たりとも首位を譲ったことがない。
軍事用に開発されたインターネットは世界の姿を変え、今なおアメリカが主導権を握っている。
基軸通貨米ドルは国際社会が不安定化すればするほど買われる。
今米ドルに替わる基軸通貨を探すにもその候補となるものがない。
ユーロは財政と一体となっていないため綻びが生じている。人民元は基軸通貨たるには中国経済の構造があまりにも歪だ。これらの通貨が基軸通貨の候補の資格ありとすれば世界最大の債権国である日本の円も資格ありといえる。
基軸通貨の移行は、英ポンドから米ドルへの移行をみるかぎり覇権国の権限の一番最後になされる。
世界のブロック毎に基軸通貨が誕生する日がきたとしても米ドルは相当の期間世界の基軸通貨であり続けるだろう。
米国国家情報会議は、レポートで経済的不安要素として、非効率で高額な医療保険、中等教育の水準低下、所得格差などを挙げるが、ここ200年間で米国が築いてきた遺産に比べれば国力に与える影響度は少ない。
このレポートは公表されること自体が政治的メッセージを意味しており、それ以上のものを求めるべきではない。
以上のことを踏まえ『覇権国の行方』を予測してみよう。
我々の視野に入る確かな未来、これから20~30年先を見通せばアメリカの覇権を脅かす存在は考え難い。
仮にアメリカが目に見えて衰退するとすれば、グローバル化が果てしなく進み、アメリカ国民の格差が拡大し社会不安を招き、治安が悪化し優秀な移民が途絶える時であろう。だがその可能性は少ない。
グローバル化の弊害が表面化すればこれを復元する力がアメリカにはまだ残っている。
アメリカは多少の社会不安にはびくともしない社会構造となっている。
アメリカ国民の4割近くがキリスト教ファンダメンタリストであり、これらの人々の秩序だった行動様式は誰しも認めるところであり社会学でいう『アノミー』とは無縁の人たちであるからである。
長期的にはどうか。
50~100年先などの長期の予測にどれほどの意味があるのか。予測しても責任ある予測と言えるのか。
ケインズはかって言った。
『長期的には我々は皆死んでいる』 彼が意図した意味とは異なるがこれは長期予測をする人に対するメーセージでもある。