ファリード・ザカリアのアメリカについての分析と予測は、アメリカの政治中枢のジャーナリストならではものがある。
彼の分析は『4割と1%』というキーワードで説明すれば理解が容易となる。
4割とは、アメリカの総人口に占めるキリスト教ファンダメンタリストの割合であり、1%とは同じくアメリカの総人口に占めるアメリカの実質的な政治的・経済的支配者の割合である。この1%は主に多国籍企業家を中心とした人々である。
アメリカの現時点でのマジョリティであるアメリカ生まれの白人層の出生率はヨーロッパ並みに低い。
ザカリアは明言していないが、これら白人層は先に述べたように大半がファンダメンタリストでありアメリカのイノベーションとは縁遠い層である。
事実彼は、
『アメリカが移民を受け入れていなければ、過去四半世紀のGDP成長率はヨーロッパと同水準になっていただろう。
イノベーションにおける優位性は移民の産物と言っても過言ではない。
アメリカの大学で教育を受けた移民を国内で引きとめられれば、イノベーションはアメリカで起こる。彼らを母国へ帰してしまえば、イノベーションは彼らとともに海を渡るだろうと』
と言っている。
移民はアメリカの秘密兵器だという彼の説は事実に裏づけられている。
ザカリアがアメリカの弱点として挙げているのは政治の機能不全である。
彼はいう
『過去30年間で特殊権益、ロビー活動、利益誘導予算はいずれも増大した。
アメリカの政治プロセスは以前と比較して格段に党利党略の度合いが強まり、格段に目標達成の効率が低下している。
反対反対と小賢しく立ちまわる政治家は、激しい党利党略を助長するだけでなく、党派を超えた尊い呼びかけを聞き逃す可能性が高い。』 と。
多国籍企業家を中心とする約1%のアメリカの支配層とはいかなる人たちだろう。
それらの人々が所属しているのが外交問題評議会、ビルダーバーグ会議、日米欧三極委員会などであり、特に外交問題評議会を、歴史家アーサー・シュレジンジャーはアメリカの支配階級の中枢部のための隠れ蓑組織と評した。アメリカ政治の奥の院と言われる所以である。
TPPを実質上推進しているのはこの1%の企業家である。TPPに先行して締結されたカナダ、メキシコ、韓国などとのアメリカ主導による貿易協定であるFTAは、自国や相手国の国益よりも多国籍企業の利益を優先したものといえる。
資本主義先進国アメリカではすべてのものが取引対象になる。 民間の対象は言うにおよばず公共のものもその対象になる。
典型的なものに刑務所の運営がある。刑務所が民営化された結果、受刑率が増えるという当然の帰結を招いた。
さらに献金を通じて政治でさえ例外ではない。政治が取引対象になるということは何を意味するか。
先に述べた1%の多国籍企業家が献金を通じて政治を自らの支配下におくことも可能となる。
ザカリアが言うアメリカ政治の機能不全の淵源はここに発している。
多国籍企業家による政治支配の結果、アメリカ社会に公共性の概念が薄れ、このことが今日のアメリカ政治の機能不全を招いたと言える。
ザカリアの指摘に異論はない。
アメリカの一極支配は終わりつつあるが、かわりに台頭する新興大国として、ザカリアは中国とインドを挙げ分析している。
中国について、アメリカの対処は心許ないという。
中国の活気あふれる市場経済と圧倒的な人口を相手に、冷戦時代とは異なった相手のやり方にアメリカの準備は殆んど整っていないという。
過剰な中国脅威論と言えなくもない。
中国について、アメリカの対処は心許ないという。
中国の活気あふれる市場経済と圧倒的な人口を相手に、冷戦時代とは異なった相手のやり方にアメリカの準備は殆んど整っていないという。
過剰な中国脅威論と言えなくもない。
国力とは総合力であり、一部だけ抜きん出ていてもそれは全体をあらわさない。
インドのタージ・マハル、中国明代の鄭和大船団、北京の紫禁城を例に挙げ、
『巨大社会の活力と資源が、少数の国家事業に集中すれば、成功に至る確率は高くなる。
しかし、このような成功は、社会全体の成功にはつながらない。 ソビエト連邦は1970年代、宇宙計画の成功を誇りとしていたが、国の技術力全般でみると、世界の工業国の中で最も遅れていたのだ。』
とザカリア自身が言っている。
現下の中国の成長は1970年代のソビエト連邦ほどではないにしてもバランスを伴っているとはいい難い。
インドのタージ・マハル、中国明代の鄭和大船団、北京の紫禁城を例に挙げ、
『巨大社会の活力と資源が、少数の国家事業に集中すれば、成功に至る確率は高くなる。
しかし、このような成功は、社会全体の成功にはつながらない。 ソビエト連邦は1970年代、宇宙計画の成功を誇りとしていたが、国の技術力全般でみると、世界の工業国の中で最も遅れていたのだ。』
とザカリア自身が言っている。
現下の中国の成長は1970年代のソビエト連邦ほどではないにしてもバランスを伴っているとはいい難い。
ザカリアが母国インドに向ける眼差しは期待を込めた優しさに満ちている。
貧困と劣悪なインフラに満ちたインドの現状にも拘らず、インドは19世紀末のアメリカ合衆国に似ている。
『インドには成長を続ける巨大経済、魅力的な民主政治、刺激に満ちた世俗主義と寛容精神のモデル、西洋と東洋にかんする鋭い知識、アメリカとの特別な関係という長所を利用する手がまだのこっている。』
現状の比較でも
『世界有数の貧困国インドと、世界一の富裕国アメリカには、ひとつの共通点がある。社会が国家よりも幅をきかせているという点だ。』
と彼は言っている。
かってゴールドマン・サックスのジム・オニール会長は中国よりもインドの方がより高成長を見せるかもしれないと言った。
潜在的なインドの能力を考慮すれば妥当な予測であり、ザカリアのインドに対する期待も過剰とまでは言えない。
エマニュエル・トッドとファリード・ザカリアは、視点は異なるもののアメリカの一極支配は終わりつつあると言う点では一致している。
ところでアメリカ自身は自国の行く末をどのように予測しているのだろうか。
最後に、これを見て、『覇権国の行方』を考えてみたい。
貧困と劣悪なインフラに満ちたインドの現状にも拘らず、インドは19世紀末のアメリカ合衆国に似ている。
『インドには成長を続ける巨大経済、魅力的な民主政治、刺激に満ちた世俗主義と寛容精神のモデル、西洋と東洋にかんする鋭い知識、アメリカとの特別な関係という長所を利用する手がまだのこっている。』
現状の比較でも
『世界有数の貧困国インドと、世界一の富裕国アメリカには、ひとつの共通点がある。社会が国家よりも幅をきかせているという点だ。』
と彼は言っている。
かってゴールドマン・サックスのジム・オニール会長は中国よりもインドの方がより高成長を見せるかもしれないと言った。
潜在的なインドの能力を考慮すれば妥当な予測であり、ザカリアのインドに対する期待も過剰とまでは言えない。
エマニュエル・トッドとファリード・ザカリアは、視点は異なるもののアメリカの一極支配は終わりつつあると言う点では一致している。
ところでアメリカ自身は自国の行く末をどのように予測しているのだろうか。
最後に、これを見て、『覇権国の行方』を考えてみたい。
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