その内容は世界情勢の分析および中・長期的予測である
最新のものは、2012年12月『グローバル・トレンド2030』というタイトルで公表された。
その”まえがき”にはこう記されている
「2030年までに、中国やインドを含むアジアが世界をリードする最強地域となるのは確実でしょう。
1500年以前は、アジアの帝国が世界の覇権を握っていました。それから500年を経たいま、アジアは再び世界をリードする存在になります。
といっても、単純に過去に戻るわけではありません。世界は全く別の方向に変化していくことになります。」
(米国国家情報会議編谷町真珠訳講談社『2030世界はこう変わる』)
この報告書で、世界銀行の試算をもとに、世界経済に占める中国とインドの役割について特別に言及している。
因みに日本については急速な高齢化と人口の減少で『最も不安な国』として挙げている。
中国は、2025年までの世界の経済成長の約3分の1を中国一国だけで担い、その貢献度はどの国よりも大きい。
インドは15~20年後、日本やドイツを追い抜き、中国、米国に次ぐ経済大国に成長している。
2025年、中国とインドの経済力を合わせると、その世界経済への貢献度は米国とユーロ経済圏を合わせた規模の約2倍にあたる見通しである。
さらに米国について言及し、米国は新興国の台頭により『覇権国』から『トップ集団の1位』になると注目すべき予測を明記している。
「米国の経済的な衰退は、世界経済に占める比重が減り始めた1960年代から始まっていますが、2000年代に入り中国経済が急速に発展したことで、その傾向がさらに顕著になりました。
とはいえ、『革新力』では、常に世界をリードしてきました。米国の人口は世界人口の5パーセントにすぎませんが、2008年度に登録された世界レベルの特許の28パーセントを米国が占めています。
世界的にトップランクといわれる大学の4割が米国の大学です。こういした”ソフトパワー”に加え、米国経済には今後の成長を下支えする好条件がいくつかあります。
例えば、前述した安価な国産シェール系燃料の登場や活発な移民流入、ほかの先進国よりも若い労働人口などが挙げられます。
米国経済は、早ければ2020年代にも中国に抜かれるとの予測があります。とはいえ、『革新力』では、常に世界をリードしてきました。米国の人口は世界人口の5パーセントにすぎませんが、2008年度に登録された世界レベルの特許の28パーセントを米国が占めています。
世界的にトップランクといわれる大学の4割が米国の大学です。こういした”ソフトパワー”に加え、米国経済には今後の成長を下支えする好条件がいくつかあります。
例えば、前述した安価な国産シェール系燃料の登場や活発な移民流入、ほかの先進国よりも若い労働人口などが挙げられます。
ですが、こうした米国が持つ好条件を考慮すると、2030年になっても米国は『トップ集団の1位』には留まるのではないかと考えられます。
経済力、軍事力、ソフトパワーなどの条件を総合すると、米国を追い抜くのは容易ではないからです。
ただ、複数の新興勢力の台頭により、1945年以降続いてきた米国を中心とする世界秩序ー『パックス・アメリカーナ』体制ーが急速に威力を失っていくのは間違いありません。」
(前掲書)
また同報告書では米国の抱える経済的な不安要素を3つ挙げている。
第1に、非効率で高額な医療保険
第2に中等教育の水準低下
第3に所得格差
これらの問題点は以前から問題であったが、2008年の金融危機でさらに表面化したという。
米国の衰退は経済だけではなく軍事面にも及ぶ。
「今後、米国は経済力だけでなく、軍事力も低下します。
経済が弱まるなかで、現水準の軍事費を維持すべきかどうかは、今後、大きな争点となるでしょう。
ちなみに、すでに軍事費の縮小は始まっています。冷戦当時、米国はGDPの平均7パーセントを軍事費に割り振っていましたが、ここ10年間はイラクやアフガニスタンでの軍事活動を含めてもGDPの5パーセント以下にとどまっています。
米国の軍事費縮小だけでなく、同盟国の軍事力低下も米国の影響力低下に拍車をかけます。
第二次世界大戦以降、米国の”力”はG7参加国が一体となって活動することによって補強されてきました。
しかし、こうした西側同盟国の経済は弱体化し、新興国に追い抜かれてしまいます。
2030年の世界でも、米国は世界で最も強い軍事力を維持するでしょう。
しかし、こうした同盟国の弱体化を受けて、他の『勢力』との差が小さくなることは間違いありません。」(前掲書)
このように米国は経済的にも軍事的にも衰退の道をたどるが、2030年の時点では世界のトップであることに変わりないという。
同報告書は最後に、このような条件で未来の姿のシナリオをえがいている。
「4つの『メガトレンド』と6つの『ゲーム・チェンジャー』の組み合わせ方によって、2030年の世界の姿は無限大に想像することができます。
ここでは、そのなかから4つのシナリオを選び、紹介していきたいと思います。4つのシナリオは、あくまでサンプルです。
現実の国際社会は、この4つのシナリオのどれか一つに沿って変化するというよりも、この4つのシナリオを複雑に絡めたような動きをしていくことになるでしょう。
4つのシナリオは以下の通りです。
シナリオ① 『欧米没落』型
シナリオ② 『米中強調』型
シナリオ③ 『格差支配』型
シナリオ④ 『非政府主導』型 」 (前掲書)
この報告書はアメリカが自国および世界の行く末をどのように見ているかの公式見解である。
未来の予測は権威ある機関だからといってそれに比例して確度が高まるものでもない。
重要なことはこの報告書が世界の情勢をどう認識しているかである。学術的なものではないため予測の当否が問題ではない。
アメリカが自国と世界をどのように認識しているか、そのこと自体が重要である。
アメリカの認識そのものが世界に影響を及ぼすからである。
未来は予測し難い。それ故この報告書でも複雑に絡まるシナリオを想定している。
この報告書はアメリカの行く末を指し示したものではなく、それを考える契機となるべきものである。
然らば『覇権国の行方』や如何に。
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