2017年2月20日月曜日

皇位継承について 7

 つぎに、
 「二千年に亘って維持されてきた男系による皇位継承の伝統は奇跡である。これを変える権利は何人にもない。
 これを変えることは二千年の歴史に対する背信行為である。その間生きてきたすべての人びとの想いを蹂躙することである。」
 ということについて。

 男系による継承方法については、古くからわが国が強い文化の影響を受けた中国と朝鮮半島の継承方法、それに皇室とともに歩んできた日本国民のそれを客観的に俯瞰してみよう。
 はっきりしていることは中国や朝鮮半島では親族制度上、父系継承が徹底していることである。
 中国には父系同族集団の宗族がある。
 宗族では、同姓不婚(姓が同じであれば結婚せず)、異姓不養(養子をとる際には同姓の者に限る)である。
 朝鮮半島も中国と同じ親族制度で中国の宗族に相当するのが本貫である。
 韓国人の戸籍には本籍とは別に本貫を記載しなければならない。本貫とは祖先の発祥の地をさす言葉だが、現実の地名を表すというよりは、血縁共同体のレッテルのようになっている。(社会学者イ・ヨンスク氏)
 いづれも父系制度が徹底していて、女性は他の姓(韓国の場合姓の数が少ないため本貫)の男性としか結婚せず、結婚しても姓は元のまま。
 子どもは男でも女でも父親の姓を引き継ぐ。このため母親と子どもは別姓となる。
 この父系制度は皇帝や王だけでなく一般庶民にまですべてにおよぶ。
 男子が生まれなかったら氏族のなかから他家の男子を養子にして男系男子の継承を厳格に守ってきた。

 これに対し日本の一般庶民は、中国や朝鮮半島の強い父系制度を受け入れず独自の継承制度を形成してきた。
 日本は古来多くの中国文化の影響を受けたが、すべてを受け入れたわけではない。
 宦官、科挙、纏足、食人などは受け入れなかったし、父系継承の親族制度も受け入れなかった。
 日本は中国や朝鮮半島のように血縁関係を絶対視せず柔軟な親族制度を維持してきた。
 子どもに娘しかいなければ嫁にだすが、どうしても跡継ぎほしければ娘に婿養子をとって跡を継がせる。
 仮にお妾さんがいて男の子が生まれたとしても娘をさしおいて跡継ぎはさせないし、他から跡継ぎとして男の子を養子にとることもしない。
 子どもはいないが跡継ぎほしい場合は、養子をとり嫁を娶るか、または夫婦そろって養子をとる。
 このように男系、女系に拘泥しない柔軟な継承方法が日本社会に形成されていて今もその伝統は生きている。
 皇統と異なり女系を容認するのが日本の一般庶民の継承方式である。

 男系維持を強く主張する人は、
 「二千年の歴史、125代、万世一系の伝統にはただひれ伏すのみ。議論すべきは、いかにこれを維持するかだけに限るべきでそれ以外の議論はすべきでない。そういう議論は先人にたいする冒涜である。」
 というが、この主張が日本国民の伝統的な親族意識といかにズレているか。
 皇位の継承と国民一般のそれとは異なる。このため皇位の継承方法をもって必ずしも日本文化の核心とはいえない。
 男系維持論者は、伝統を守りこれを壊してはならないというが、長い間皇位継承を支えてきた側室制度の伝統については彼らはどう答えるのだろうか。
 国民とともに歩む皇室は従来にも増して尊崇の念、敬愛の念をもたれこそすれ、それが減ずることはないだろう。
 男系女系に捉われすぎない柔軟な皇位継承は皇室の危機どころか皇室と国民との絆をより強固なものとするだろう。
 このように男系継承が途絶えれば皇室の崩壊につながる、とか正統性がなくなり国民から支持されなくなるとかいう論は説得力があるとはいい難い。
 厳格な男系男子継承は中国や朝鮮半島の伝統でこそあれ日本のそれでは断じてない。
 男系維持を絶対視することは日本の伝統を守ることにはならず中国や朝鮮半島の伝統に倣うという皮肉な結果となる。
 国民は、自分たちの継承方法と異なる、臣籍からの皇族復帰や遠い傍系からの皇位継承よりも直系女性の皇位継承を支持するであろう。それが一般庶民の継承のやり方を反映しているからである。
 最後に、なぜ男系男子の皇位継承論が、特に保守層を中心に熱気をもって支持されるのか、その背景につき分析し今後の展開を読み解きたい。

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