ここまで皇位継承に関連して皇室典範を現状のまま維持するか又は見直すかについてそれぞれの主張とその根拠について主要と思われるものをとりあげて来た。
皇室に関することは議論することさえはばかられ、ともするとタブー視される。
あげくひとたび俎上にのると議論が沸騰し論理を超え感情的になりやすい。
皇位継承をめぐっても例外ではない。特に、天皇を男系男子に限るべしとする維持派には反論を一切受け付けない頑なな議論が目につく。彼らの主張には危うさが潜んでいる。
まず、「神武天皇のY遺伝子が奇跡的に一度も絶えることなく125代にわたり受け継がれた。
この万世一系を絶やしてはならないし、絶やせば皇室の崩壊につながる。」ということについて。
Y遺伝子により男系の皇統が維持されたという議論は多くの男系天皇の信奉者を勇気づけ男系主義イデオロギーの中核となった。
が、初代とされる神武天皇は歴史上の人物か神話上の人物か研究者の間でも評価が定まっていない。
百歩譲って、かりに神武天皇が歴史上実在の人物であったとして、Y遺伝子などの科学を援用した説明が皇統の正統性のそれにふさわしいと言えるだろうか。
Y遺伝子を援用するからには神武天皇以前のY遺伝子も当然問題となる。
神武天皇のY遺伝子が無から生じたわけではないからだ。だが、神武天皇以前は神話の世界であり、Y遺伝子とは断絶している。
さらに百歩譲って、神武天皇のY遺伝子が無から生じたとしよう。
科学は再現可能であることによってはじめてなりたつが、皇統のY遺伝子の再現は果たして可能か。
墓を掘りおこしDNA鑑定しなければならないが、そんなことは実現不可能だ。
125代にわたり一つも途絶えることなく続いたとされるY遺伝子が検証されないのであればそれは伝聞推量の域を出ない。
そもそもY遺伝子については検証以前の問題がある。
聖書の記載をそのまま信じるキリスト教原理主義のごとく、古事記、日本書紀をそのまま信じる記紀原理主義であればそれなりに一つの見識であるが、Y遺伝子論はこの見識をも打ち壊すものでしかない。
Y遺伝子の議論を極限まですすめれば皇祖は猿ということにもなりかねない。
日本の皇室が神話に基づき神代の時代につながっていることに疑念をはさめばその正統性にも疑念が生じかねない。
神話は皇統の正統性を担保するものであり科学には馴染まない。キリスト教における聖マリアの処女降誕が科学に馴染まないように。
Y遺伝子の援用は、男系皇統の断絶以前に、皇統と神話との断絶という深刻な事態を招いてしまう。神話の世界から断絶された皇室をだれが望むだろうか。
男系主義イデオロギーの中核はこの部分がスッポリと抜け落ちている。
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