2017年9月4日月曜日

悲観大国ニッポン 5

 内閣府が先月公表した「国民生活に関する世論調査」によると、現在の生活に「満足」「まあ満足」合わせて約74%、この先どうなるかの質問には「同じようなもの」65.2%、「悪くなっていく」23.1%、「良くなっていく」9.4%であった。
 この結果から見る限り国民は先行きの暮らし向きに多少不安はあるものの悲観している様子ではない。悲観の原因が経済的要因でないとすればその他に求めなければならない。
 その他に求めなければならないがそれが何であるか明白な要因は見当たらない。強いていえば漠然たる要因ということになるが、そうなれば社会学的分析を俟たなければならない。
 19世紀末フランスの社会学者デュルケームは自殺の研究を通じて連帯が失われればアノミーになるという社会学の一大発見をした。
 連帯が失われる原因の一つに父性の欠如がある。社会の父性が欠如すれば社会不安になるし、家族の父性が欠如すれば家族崩壊を来たす。父性とは必ずしも父親とは限らないその役割を母親が担うことだってある。
 ところで今日本の社会システムは安定している、特段父性が欠如しているとも思えない。
 それにもかかわらずニッポン人が将来に対し最も悲観的な国民であるという事実はこの父性の欠如を無意識のうちに嗅ぎ取っているのかもしれない。
 潜在意識のどこかに父性の欠如を感じている。それは世論調査でも国民が懸念している国防・安全保障に表れている。 日本はこれを外国の軍隊に依存している。日本がアメリカの強大な核の傘で守られていることは周知の事実である。
 国防・安全保障は国の基本である。国の基本にかかわることを自国で担わず他国に依存する。
 家庭内で暴れる子供に手を焼いた父親が誰か他人に解決を依頼するのと同じで、いずれも父性が欠如している。
 国家に父性が欠如すれば社会は不安定になる。国の主権にも歪みが生じる。

 戦後日米間には、一貫して経済対話が行われている。日米構造協議、年次改革要望書、そして現在の日米経済調和対話と名前は変わったが実態は変わっていない。
 建前は、日米それぞれの要望を出し合う協議の場だが、実態はアメリカの要望に対し歴代政権がこれを受け入れるという一方的なものであったことはその成果が示している。

 経済対話とは別に日米合同委員会がある。日米の政治家が参加しないこの合同委員会は1960年に締結された日米地位協定の正式な協議機関として設立された。
 日本の官僚と在日米軍のトップがメンバーで月2回行う秘密の会合である。
 日米の間には、米軍と日本の官僚とのあいだで直接結ばれた占領期から続く軍事上の協定(国民に明らかにされていない)が存在している。秘密会合たる所以である。
 そこではおよそ主権国家としてあるまじきことがらが決定されている。その異常さを他ならぬアメリカ側メンバーでただ一人軍人でないスナイダー公使が上司の駐日大使に報告している。
 その報告書で、米国の軍人が日本の官僚に直接指示する日米合同委員会のありかたは異常であると激怒して曰く。

 「本来なら、ほかのすべての国のように、米軍に関する問題は、まず駐留国の官僚と、アメリカ大使館の外交官によって処理されなければなりません」「ところが日本における日米合同委員会がそうなっていないのは、ようするに日本では、アメリカ大使館がまだ存在しない占領中にできあがった、米軍と日本の官僚とのあいだの異常な直接的関係が、いまだに続いているということなのです(1972年4月6日アメリカ外交文書)」
(矢部宏治著講談社現代新書『知ってはいけない隠された日本支配の構造』)

 いくら秘密にされているとはいえ主権を脅かされているこのような事実を国民はうすうす感じている。
 自前で核武装できないのでアメリカの傘に頼らざるをえない。被爆国のわが国では核武装の議論さえタブー視される。 主権を脅かされても他国に国の安全を委託する。国民が恒心を持てるのは健全な主権を自覚できればこそである。 日本国の主権に懸念あり、これがニッポン人が将来に対し不安を抱き悲観的になる原因の一つであることは間違いない。
 もともと日本人は楽観的であった。

生ける者遂にも死ぬるものにあれば
   この世なる間は楽しくをあらな              
                 大伴旅人(万葉集)

 この歌にくよくよしない楽観的な万葉人の生き様をうかがい知ることができる。
 外国と比べて経済的に恵まれている方に属するわが国が悲観大国であることは正常な状態ではない。
 この歪みは国民の心に積み重なっている。いずれこの揺り戻しが起こるであろう。
 歪みが長引き大きくなるほどそれもまた大きくなる。その時がいつかは分からないが。
 日本人は明治維新に成功した。その時は必ずくる。

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