次に楽観的な日本論について
高度経済成長期には時代を反映した日本楽観論が受け入れられた。その一人にアメリカの社会学者エズラ・ヴォーゲルがいる。彼が1979年に上梓した『ジャパン・アズ・ナンバーワン』は、日本の高度経済成長の要因を分析した代表的な日本楽観論の一つである。
1970年代から80年代にかけては生産年齢人口が多い人口ボーナスといわれる時代であった。
だが現在の低成長時代の近未来予測としては人口ボーナスは前提にできない。日本の生産年齢人口の減少は内外の識者が一様に指摘するところである。この人口減少が今や日本悲観論の主要な根拠の一つとなっている。
それでは今の日本楽観論はなにがベースになっているかといえば皮肉なことにこの人口減少もその一つになっていることである。つまり人口減少は悲観・楽観双方の主張の根拠となっているのである。
ドイツ人エコノミストのイェスパー・コール氏は日本楽観論を展開しているが人口減少をその要因の一つとして挙げている。
彼はエコノミストらしくデータを駆使して日本の悲観論は根拠がなくそれは単なる日本人の悲観好きにすぎないという。
その主張の裏づけをいくつも挙げているがとくに彼が強調しているのが知的財産と人口問題である。
・知的財産
公的機関と民間企業を合わせた研究開発費対GDP比率を日米独で比較すれば2014年の時点では米独が2%台後半に対し日本は3%台後半である。
日本はものづくり大国といわれるが、競争力の源泉となる研究開発によって生み出される知的財産分野でも大国である。
研究開発費投資がそのまま特許取得・商品化につながるわけではないが資本主義に不可欠なイノベーションの可能性という点で日本はリードしている。
「日本は資源の乏しい国です。生産人口が減少する時代に入って、労働力という意味での人的資源も今後は不足していくでしょう。
しかし、日本には資源不足を補って余りある知財という資源がある。これを活かすことでふたたび世界をリードできるはずです。」(イェスパー・コール著プレジデント社『本当は世界がうらやむ最強の日本経済』)
・人口問題
人口減少、特に若年労働力人口が減少するのは深刻であるが、需要と供給の原則から労働者一人ひとりの価値は上がる。労働者の価値が上がれば自ずから雇用の問題の解決につながる。
日本の失業率は欧米に比べて低い。日本3.11%、米4.85%、独4.16%である。(2016年IMF統計ベース)
日本に限って失業の問題など存在しないかのようにに見える。
だがそれは見せかけにすぎない。近年アングロサクソン流の新自由主義、市場原理主義、グローバル資本主義が推進された結果、正規社員から賃金が安い非正規社員へと置き換えられ失業率こそ悪化しないものの雇用の質が悪化してしまったからである。
「いかに非正規を正社員化して、賃金を高めていくか。それが日本の抱える課題でした。少子化によって人口が減るのは、おもに若年層です。
これから2020年東京オリンピック&パラリンピックまで、66歳以上の日本人は毎年43万4000人ずつ増えていきます。
一方、企業のマネジメントの中核をなす36歳以上55歳未満は毎年17万2000人ずつ減少します。
現場を担う25歳から35歳の人に至っては、毎年23万1000人ずつ減っていきます。
つまり働かなくなる人が増えて、働く人が減ります。働く人が減れば、人手不足になりますよね。
人手不足とは人の供給不足ですから、一人あたりの価値は高まります。
企業は人を確保するためにこれまで以上の高条件を提示しなくてはいけません。その結果、魅力のない非正規のオファーは減り、かわりに正社員のオファーが増えていきます。
つまり人口、とくに生産人口が減れば、需給のバランスという自然の摂理によって、勝手に非正規社員の正社員化が進むのです。」
「非正規が減って正社員化が進めば何が起きるか。まず賃金が上がります。
正社員の賃金のうち約35%がボーナスです。もし同一労働同一賃金で正社員と非正規社員の月給が同じだとしたら、正社員はボーナスに加え、社会保険の恩恵もプラスされますので、年収ベースで50%近く高いという計算になります。
この前提で正社員の割合が1%高くなれば、日本の国民所得は0.7%上がります。仮に正社員率が10%上がれば国民所得は7%アップ、正社員率が15%上がれば国民所得は約10%アップです。
私は非正規率が40%から25%に下がると予想しているので、国民の所得はトータルで10%アップですね。」
「所得が増えて生活が安定すれば、これまで経済的事情で結婚や出産をあきらめていた人たちが積極性を取り戻します。
そうなれば出生率も改善します。政府が婚活支援をするより、このほうがずっと効果があります。
少子化は日本にメリットをもたらしますが、急激な少子化は社会的な混乱を招きやすい。
出生率が上向けば、そのデメリットが緩和されて、より好ましい形で人口減少が進んでいきます。
人口減少がもたらす正社員化は、まさしく日本のあらゆる問題を解決してくれるのです。」(前掲書)
いくら労働力の質が改善されたとしても絶対的な労働人口が減少すればGDPがマイナス成長になるのではと心配されるがそれは生産性向上でカバーできると言う。
1998年に日本の労働力人口がピークを迎えたが、GDP成長率は1999年以降、低成長あるいは時折マイナスを記録するものの、平均的にはプラスで推移している。これは生産性向上の証である。
イェスパー・コール氏は、数少ない楽観的な日本人以上に楽観的である。
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