東京都の小池百合子知事は派手なパーフォーマンスとテレビやスポーツ紙をたくみに取り込むなどマスコミ戦術にも長けた政治家だ。
過去、環境大臣時代のクールビズの旗振り、防衛大臣時代の派手な立ち回り、そして参院選真っ最中のいち早い都知事選への出馬表明などなど。
知事当選後は都民ファーストの改革着手で都民からヤンヤの喝采を浴びている。少なくともメディアはそう報じている。
そのメディア露出度の多さから関心は首都に止まらず地方にまで及んでいるともいう。
小池知事は着任後まもなく外部から13人の顧問団を登用し都政の透明化と刷新に乗り出した。
まずターゲットにされたのが豊洲市場移転費と2020年東京オリンピック施設整備費である。
豊洲市場移転費は11年2月の3926億円から15年3月には5884億円となった。
オリンピック施設整備費も招致時からハネあがった。やり玉にあがったのが水泳、ボート・カヌー、バレボール会場であり費用は招致当初の566億円から1578億円となりこれだけで施設整備費の7割を占めるに至った。
この費用膨張の数字はいかにも不自然だ。都知事がこれにメスを入れ、既得権益やムダの有無の調査に乗り出したのは当然といえる。
その政策スタンスは都民ファーストの ”もったいない” 精神だ。これには誰も異論を差し挟むことなどできない。できる筈がない。だって、そこに使われるのは貴重な都民の税金であるからである。
かくて小池知事の都政刷新の嵐は不正、腐敗および既得権益を受けている人びとに吹き荒れメディアはおおむね好意をもって連日報道している。
だが誰一人反論できないようなことにはおおにして落とし穴が潜んでいる。小池知事の都民ファーストも例外ではない。
この都民ファーストの”もったいない”施策は納税者の都民のために真に利益をもたらすものだろうか。
不正や賄賂などに起因する費用高騰はメスを入れなければならないがそうでない単に”もったいない”精神での一律の費用削減政策は疑問なしとはしない。
それは人びとのマインドを萎縮させマイナス思考へと導きかねないからである。
デフレ下での緊縮策は需要を減らし景気に悪影響を及ぼすことはここ20年来の日本経済の停滞がそのことを証明している。
もったいない、ムダ使いの排除とは片面から見れば需要を減らすことにほかならない。
需要が減るということは何を意味するか。GDPの三面等価の原則により生産(供給)、支出(需要)、分配(所得)は必ず一致する。
需要が減れば、供給や所得も減り、GDPは縮小均衡する。こんな統計上のロジックを持ちださなくとも、景気が悪くなれば人びとの所得が伸びないため物が売れず商売はあがったりとなり、サラリーマンは会社の業績が悪くなれば、給料も上がらないことぐらいは誰でも知っている。
需要が減ればそれに応じて消費も投資も減り、必然的に景気も悪くなる。
もったいないやムダの排除は家計簿感覚では美徳だが、国家レベルでは必ずしも美徳とはかぎらない。
ところで東京都も他府県と同じく一自治体にすぎないが財政の規模からその与える影響は大きくわが国のGDPに占める割合は約20%にもなる。
財政に余裕がなければともかくそうでなければ、デフレに逆戻りの恐れがある現状を鑑みれば東京都が率先してデフレ阻止に舵を切ることが求められる。
所得が伸びないデフレ下では民間に消費や投資を期待できないからである。
都政改革にはこの視点が等閑に付されているのではないか。この意味において小池都知事の都民ファーストは都民ファーストになっていない。
小池知事がもったいない、節約だ、緊縮だ、と叫べば叫ぶほど、景気には逆風となる。人気絶大なだけにその影響は大きい。
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