中国史を跋渉した小室直樹博士はこう言う。そしてこの複雑な人間関係を解明するには科学的分析によらなければならないとも。
以下同博士の分析をもとに中国人の行動様式について考えてみよう。
まずヨコ糸から。
ヨコ糸は、知り合い→関係→情誼(チンイー)→帮、という順序で人間関係の結合の『輪』が強固になっていく。
この人間関係の輪に入っていない知り合いでもない人はもはや人間として扱ってもらえない。
逆に最も強固な帮関係にある人は無条件の信頼関係にある。親兄弟など肉親以上の関係で、金の貸し借りに証文など一切不要、その人のためには命さえ顧みない。
「輪の内と外では、ちがった規範が行われる。輪の内の規範がはるかに重要であり、外の規範はずっと軽い。いわば化外の地であるから、そんなところに住む人間は死のうが生きようが、所詮どうでもいいのである。(中略)
帮は、『輪』の一種、特殊場合だ。『輪』のうち、もっとも強固な『輪』が帮である。」
(小室直樹著徳間書房『小室直樹の中国原論』)
人間関係の輪の内と外では、ちがった規範が適用される。輪の内の規範は絶対的であり、輪の外の規範は相対的である。つまりそれぞれの輪に強弱のちがいはあるがともに共同体である。共同体の特徴は、内の規範と外の規範がちがうという二重規範である。
つぎにタテ糸の宗族について。
帮、情誼などがヨコの共同体であるのにたいし、タテの共同体を形成するのが『宗族』である。
「宗族は、父と子という関係を基にした父系集団である。父から子、という形で集団を作り、姓を同じくする。
劉なら劉、李なら李と、必ず同一姓を名乗る。父系集団にも姓を有する父系集団(中国、韓国など)と有しない父系集団(古代イスラエルなど)とがあるが、宗族は姓を有する父系集団である。
もう一つの特長は、同一宗族の中では絶対に結婚できないこと。これを部外婚制という。」(前掲書)
日本では、遠くの親戚より近くの他人、去るもの日々に疎しというように、故郷を離れ何十年も経つと次第に親戚縁者とも疎遠になりがちとなる。
ところが中国はちがう。全く見ず知らずの人同士がたまたま会って同一宗族であることがわかれば、たちまち意気投合し兄弟のごとく親しくなる。
同一宗族に優秀な子がいれば見たことも会ったことがなくとも援助する。
中国では部外婚制はかたく守られている。中国人で夫婦同姓などありえない。中国人にとって同姓というだけで恋愛感情さえ芽生えない。
日本人はいとこ同士で結婚するが、中国人にとってこれはあり得べからざることである。
中国共産党は宦官、纏足を止め、文字を略字、横書きにするなど目覚しい改革をしたが人間関係の根幹である部外婚制には一指もふれなかった。それが社会構造に根ざしているからである。
宗族を否定すること、それは中国人のアイデンティティの喪失を意味する。そんなことはできない。
このように中国人の人間関係は、帮と宗族に代表されるヨコとタテの網から成り立っている。このつながりがない人は、中国人にとっていわば化外の人である。
このことを頭に叩きこんでおかないと中国を理解できないし、いつまでたっても中国人にたいして誤解と偏見をもち続けることになる。
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