2017年7月10日月曜日

通貨発行益 1

 政府と日銀は貨幣を発行する権限を有している。政府は硬貨という貨幣を、日銀は紙幣という貨幣を発行する権限である。
 発行するための製造原価は国民の貨幣に対する信任の維持および偽造を助長する恐れがあるため公表されていない。次表は貨幣の製造原価の推定値である。
 紙幣は財務省印刷局から日銀への引渡し価格(平成12年度特別会計ベース)、硬貨はキャッシング・クレジット情報局の「お金の原価」から。
1円玉→       3円      1,000円札→ 14.5円
5円玉→       7円      2,000円札→ 16.2円
10円玉→   10円        5,000円札→ 20.7円
50円玉→   20円       10,000円札→ 22.2円
100円玉→ 25円
500円玉→ 30円

 貨幣は低額の硬貨を除けば安い原価で製造されていることが分かる。
 このように硬貨も紙幣も発行額と原価に差額があるがバランスシート上両者の取り扱い方は異なる。
 まず硬貨は政府の要請により造幣局で製造される。製造された硬貨はただちに日銀に交付され貨幣として流通する。
 この交付により政府のバランスシートには硬貨の交付額が政府預金として資産に計上されるが負債には計上されない。
 相対する日銀のバランスシートには同額の硬貨が資産に計上され、負債には政府預金として計上される。
 政府のバランスシートには資産にのみ計上されるため製造原価と発行額の差額が通貨発行益(シニョリッジ)となる。 この通貨発行益は一般会計に繰り入れられる。
 次に紙幣にも通貨発行益はあるが、その意味は硬貨のそれとは異なる。
 紙幣は日銀の要請により印刷局で印刷される。印刷された時点では単なる紙片にすぎない。この紙片は日銀が市中銀行から国債などを購入してはじめて貨幣となり流通する。
 国債購入の結果は、日銀バランスシートには国債が資産に、日銀当座預金が負債にそれぞれ計上される。
 相対する市中銀行のバランスシートには売却した国債にかわり日銀当座預金が資産に計上される。
 具体的には市中銀行に紙幣が振り込まれるのではなく日銀当座預金に売却した国債の額に対応した数字が追加されるだけである。数字が追加されればいつでも市中銀行は日銀当座預金から引き出すことができる。
 それゆえこの数字が追加された時点で単なる紙切れが紙幣として流通することになる。
 日銀のバランスシートの資産勘定の国債には付利されるが、負債勘定の日銀当座預金には付利されない。
 この国債に付利されるという意味において紙幣発行にも通貨発行益があるということになる。
 紙幣は原価がいくら安くともバランスシートの資産と負債に同額が計上されるのでそのままでは通貨発行益とはならないが、硬貨は交付されれば日銀の資産に計上されるだけで負債には計上されないので発行価格と製造原価の差額がそのまま通貨発行益となる。

 ところで貨幣は製造されただけでは単なる金属片や紙切れにすぎないが、主に政府が発行した国債などを日銀が市中銀行から購入した結果日銀のバランスシートの負債勘定に日銀当座預金として日銀券が計上されてはじめて貨幣となる。ここで改めて政府と日銀の関係を確認しておこう。
 まず日銀法第八条で資本金は1億円とし、このうち政府の出資額は5千5百万円を下回ってはならないと規定されている。
 次に同法二十三条の役員の任命については、総裁、副総裁、審議委員、監事は内閣が、理事及び参与は財務大臣がそれぞれ予め決められた手続きに基づき任命すると規定されている。
 さらに同法五十一条の経費の予算については、事業年度開始前に、財務大臣に提出して認可を受けなければならないと定められている。
 このように資本の過半と人事権および予算認可権が政府にあり、政府と日銀の関係は親会社・子会社の関係といえる。
 貨幣発行・通貨発行益につながる国債発行および日銀による国債やETFの市中買い入れには賛否両論がありしばしば議論の対象となる。
 通貨発行益に関連する政策はデフレーションやインフレーションに係わり景気にも影響するので当然といえば当然である。

 硬貨と紙幣の概念および政府と日銀の関係をしっかり腑に落とし込み、通貨発行益に関連する政策について考えてみたい。

0 件のコメント:

コメントを投稿