2016年12月6日火曜日

トランプ次期米大統領誕生 4

 トランプ氏は11月21日に大統領就任後の百日行動計画を表明した。
 就任初日に実行するものと100日以内に実行するものとに分けている。

・ 就任初日に実行するもの。
汚職の一掃、米国労働者の保護および安全と法の支配の回復の3項目からなり、このうちの米国労働者の保護にはTPPからの脱退と中国を為替操作国に指定が含まれている。

・ 就任100日以内に実行するもの。
法制化を目指す措置として10点を挙げ、このうち注目すべき経済、軍事関連には次の4点がある。
① 年4%の経済成長に向け、法人税を35%から15%に引き下げる。
② 企業の海外移転を阻止するため関税率を設定。
③ 10年かけて1兆ドルのインフラ投資を促進
④ 国防予算の強制削減措置を廃止し、サイバー攻撃からインフラを守る計画を策定。

 いまトランプ氏の一挙手一投足に米国のみならず世界が注目している。
 この100日行動計画にある企業への大型減税は1980年代の第40代ロナルド・レーガン大統領の”レーガノミクス”と重ねあわせてトランプ氏は偉大な大統領に大化けするかもしれないという見方が浮上している。
 一方政権移行チームを身内、親族で固めるなど4年後の2期目の選挙のことしか考えない利己的、狭量な大統領にすぎないという見方もある。

 前者の見方の根拠はこうだ。
 トランプ氏は向う10年間で財政出動により1兆ドルものインフラ投資をするので”小さな政府”を掲げたレーガン政権とはことなるが景気浮揚という点では似通っている。
 為替と通商面での強硬路線は両者ともに共通している。レーガン政権は、日本をターゲットにしてプラザ合意によるドル高是正と報復貿易を実施した。トランプ氏の場合、日本のかわりに中国をターゲットにしている点であとは同じだ。
 大統領当選後のトランプ氏はそれまでの言動から一転、落ち着いた次期大統領らしい振るまいをしている。

 後者の根拠を挙げてみよう。
 春名幹男氏は”韓国化の危険”と題してトランプ政権の公私混同の危うさを次のように指摘している。

 トランプ氏は公私の利益相反を免れるために、保有資産を長男、次男、長女に引き渡すという。
 近年のアメリカ大統領は、個人資産を売却するか、あるいは公的立場にあるものが職権濫用を防ぐため第三者の委託機関に資産管理をブラインド・トラストに委託するかしている。
 ところがトランプ氏はこのいずれもとらず事実上厖大な資産を抱えたまま大統領に就任しようとしている。
 トランプ氏の中核会社トランプ・オーガニゼーションの傘下には、インド16、アラブ首長国連邦13、カナダ12、中国9、インドネシア、パナマ、サウジアラビア各8など合計18カ国111もの企業を擁している。
 仮にこれらの資産がテロ組織に攻撃され米軍が派遣されたらそれは国益のためなのか大統領の私的資産保護のためなのかといった議論が生じるという。

 個人資産を売却も委託もせず事実上保持したままでいては公的立場にある人、まして大統領としてあるまじき振るまい、利己的である。

 どちらの見方がよりトランプ氏の実像に近いのだろうか。
そのヒントは”トランプ自伝”に求めることができる。
 政治家は一般的に権力を手に入れる前に自らの考え、主張あるいは構想を述べる。
 たまにそれらを著作の形で残す政治家もいる。わかり易い例ではヒットラーの”わが闘争”、田中角栄の”日本列島改造論”などがある。
 政権奪取後、両者ともにそれを実行に移した。特にヒットラーの”わが闘争”はその過激さゆえに、現実に政権の座につけばそこまでやらないだろうと、多くの人びとは高をくくっていたが、あにはからんや、ヒットラーは政権奪取後”わが闘争”で述べた自らの偏狂な世界観を無慈悲に実行に移した。
 田中角栄も首相就任後矢継ぎ早に自ら掲げた構想の具現化に努めた。
 一実業家にすぎなかったトランプ氏をこれらの政治家と比較するのは適当ではないかもしれないが、”トランプ自伝”は自分の考え、将来展望を率直に述べている点ではこれら政治家の著作と同じだ。

 同著から再び引用しよう。
 「これまでの人生で、私は得意なことが二つあることがわかった。 困難を克服することと、優秀な人材が最高の仕事をするよう動機づけることだ。 これまではこの特技を自分のために使ってきた。これを人のためにいかにうまく使うかが、今後の課題である。」(前掲書)



 トランプ氏は2012年の大統領選挙で共和党のミット・ロムニー候補を応援したがロムニー氏は惨敗した。
 トランプ氏はこのときから2016年の大統領選挙を目指したという。そして掲げた政策が”アメリカファースト”のMake America Great Againである。
 トランプ氏の選挙期間中と選挙後の政策は首尾一貫しているとはいえないがこの”アメリカファースト”だけは首尾一貫している。
 これでトランプ氏がどのような大統領になるかおぼろげながら浮かび上がってくるものがある。
 なりふりかまわず詐欺的手法で財をなしたが、より大きな世界を目指して”人のため”になるべく大統領となった。
 彼がいう”人のため”は選挙に勝つべく彼自身が掲げた”アメリカファースト”にほかならない。
 トランプ氏にはこの政策のためには他のすべてを犠牲にしかねない危うさがある。
 また自分の個人資産を親族に引き渡し公私混同の疑いを完全に晴らすことができなければ将来の火種になり政治家として致命傷になりかねない。
 政策が似通っているとはいえトランプ氏がどう贔屓目にみてもレーガンのような偉大な大統領になるとは想像できない。
 彼の不動産業界での詐欺的手法が国内外の政治の世界で通用するとは思えないからである。
 一方4年後の2期目の選挙だけを目指す狭量、利己的な政治家とは言いすぎかもしれない。
 トランプ氏の”アメリカファースト”の政策は言動の端々からひしひしと伝わるものがある。
 だが”アメリカファースト”はトランプ氏の場合前のめりすぎているため”アメリカファースト”の目的達成が危ぶまれる。
 相手を軽視しかねない”アメリカファースト”は挫折の憂き目を見るかもしれない。
 トランプ氏の選挙後の落ち着いた言動で人びとは胸をなでおろしている。
 だがそれは一時的なものに過ぎない。トランプ氏の真の姿は選挙中にあると考える。
 政権奪取後おとなしくなったヒットラーを見てドイツ人だけでなくヨーロッパ中が安堵した。だがそれは束の間のことであった。
 時代背景、民主主義と議会の歴史などから比較などできないが、唯一危うい人物にみられる選挙前と選挙直後の言動の違いには共通したものがある。
 願わくはトランプ氏がアメリカ史上最低の大統領にならないことを祈る。そうなれば困惑するのは米国民に止まらない。

0 件のコメント:

コメントを投稿