その意図するところは、かしこまった会議では建前だけが横行しなかなか議論がまとまらないが酒席では本音が飛び出し実のあるコミュニケーションがとれることにあった。
千年以上もの都の歴史ある京都はさすがに人の応対も洗練されているようだ。ある席で京都の人に聞いたことがある。
京都では人を傷つけまいとする配慮から建前が先行し本音を飲み込みがちである。このため京都の人の言うことは真にうけず真意を測らなければならない。真意を測らず真にうけると田舎者とさげすまれてしまうという。
人を傷つけまいとする配慮は多とするもさげすまされた側にしてみれば素直に受け取ったのに何だと思うだろう。
本音と建前は、”Honne and tatemae” とあたりまえのように英語風に表記されるので日本特有のものと思いがちだがどうやらそうでもなさそうだ。
今回の米大統領選挙ではほぼすべての人、大げさにいえば全世界中のひとが、米国の有権者のことばを真にうけて真意を測るのを怠った。
アメリカの選挙予想のプロたちもことごとく予想を外した。前2回の米大統領選挙で州ごとの結果を99%の確率で的中させたFive Thirty Eightのネイト・シルバーも直前まで7対3の割合でクリントンの圧勝と予想していた。
彼は全米の世論調査を含むビッグデータを駆使し、スポーツおよび選挙予測で目覚しい成果をあげたにもかかわらず、ことトランプ氏に関しては共和党予備選の段階から予想を外した。
私も5ヶ月前だけでなく直前までクリントンの勝利を疑わなかった。
なぜこのような結果になったのだろう。大半の要因は世論調査が正確でなくその原因は、トランプ支持の有権者が世論調査に応じないかまたは応じたとしても本音をかくし建前で応じたからとあろうと言われている。
世論調査の選挙予測がことごとく外れた事実からこのように推論されても一概に否定できない。
アメリカの有権者がこれほどまでに本音と建前を使い分けたとすれば、従来の米大統領選挙にはなかったことで、どちらかといえば ”率直なアメリカ人” という印象を改めなければならない契機となるかもしれない。
今回の選挙で、新聞、テレビなどマスコミを含むアメリカのエスタブリッシュメントはこぞって反トランプに与した。
第2回候補テレビ討論会の直前に、ワシントン・ポストが2005年にバスの車内でトランプ氏のわいせつな内輪話の録音データをウェブサイトに掲載したことなどその典型である。
トランプ氏が勝った要因はいくつかあるだろうが、そのなかの一つにフェイスブック、ツイッターなどのソーシャルメディアをフルに活用したことが挙げられる。
トランプ氏は不満や怒っている有権者に直接ソーシャルメディアで働きかけフォロワーの数を増やし、既存のメディアの反トランプ キャンペーンに反撃した。
トランプ氏に投票したといわれる白人低所得者の経済的苦境は深刻で、それは死亡率にあらわれているという。
プリンストン大公共政策大学院の研究者は論文でそれを明らかにしている。
1999年から2013年の間、米国の45~54歳の非ヒスパニック系白人の死亡率は薬物や飲酒による中毒、自殺の増加などの要因で上昇している。一方、同期間の英仏独の同じ人種・年齢層や米国の他の人種は例外なく死亡率は低下している。論文は、経済的不安定が死亡率上昇の原因になっている可能性もあるとの見方を示している。(2016/11/7 ニューヨーク時事)
トランプ氏は全てのマスコミを敵にまわして有権者に直接ソーシャルメディアで発信した。有権者の本音に直接響くようなことばで発信したため、これが有権者を動かしたといわれている。
経済的苦境にあえぐ人たちはマスコミの派手な宣伝などには目をそむけトランプ氏の呼びかけに反応したのだ。
選挙結果をみるかぎりこれを否定する根拠はない。ここにネット社会における既存のマスコミの影響力の限界がみてとれる。
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