2016年1月18日月曜日

資本主義と自由について 7

 フリードマンは経済学者として、豊かな社会を目標としていることを、R・E・パーカーとのインタビューで述べている。

「パーカー : 資本主義にとって何が一番脅威でしょうか。

フリードマン : 資本主義にとっての一番の脅威は、過大な政府です。それは必ずしも社会主義とは限りません。
 単に官僚的、管理的、それに規制を好む政府と平等主義です。

パーカー : ロバート・ソローが言ったように、資本主義は、平等性を損なうことなく経済効率を高めることが可能であると証明し続けなければならないとお考えでしょうか。

フリードマン : 資本主義はそのような証明ができるとは思いません。また、そのような必要もないと思います。
                (中略)

パーカー: ケインズの目標は資本主義を守ろうとすることにあったとお考えでしょうか。

フリードマン : いいえ、そうではありません。ケインズの目標は正しく、私の目標と同じく、資本主義を守ることではありません。
 私もそうですが、彼の目標は豊かな社会を作ることでした。
 私はケインズを大変尊敬しています。彼は人間的にも大変立派な、偉大な経済学者であったと思います。
 大恐慌について彼が考えたあの仮設には同意しませんが、すべての科学の進歩というものは、後で誤りであると判明する仮説を提示した人から生まれるのです。
 私の答えはノーです。ケインズの目標は彼の仲間たち、イギリス国民、さらには世界中の人たちを豊かにすることであったと思います。」
(R・E・パーカー著宮川重義訳中央経済社『大恐慌を見た経済学者11人はどう生きたか』)

 だが彼の目標である豊かな社会は歪な形で到来した。豊かさは限られた一部の人に独占されその他大多数の人は置き去りにされた。その結果、格差はより一層拡大した。
 自由と平等は両立しないし両立させる必要もないという彼の考えの負の部分が現実のものとなったと言えよう。
 政府の干渉のない市場経済メカニズムのもとで安定的に機能するはずであったマネタリズムは必ずしもうまく機能せず、マネーが独り歩きをし市場経済は半ば賭博場と化した。

 20世紀最大の経済学者と言われたケインズは ”経済学者や政治哲学者の思想はそれが正しいか間違っているかにかかわらず強力であり、それ以外に世界を支配するものは殆んどない。” と言ったが、この経済学者の思想はフリードマンのそれについても同じことが言える。
 フリードマンは、ケインズ以降、最も有力な経済学者の一人であるからである。
 小さな政府、緊縮財政、マネタリズムなどフリードマンの思想は、アメリカ、欧州、日本はじめ今や世界中に浸透している。
 日本を含め各国の金融・財政政策はあたかもフリードマンの教えを忠実に守っているかのようだ。
 彼流に言えば ” 後で誤りと判明された仮説 ” であるにも拘らず。

 経済は生きている。細部を捨象すれば、インフレ期にはインフレ対策、デフレ期にはデフレ対策が正しい政策であるのは論を俟たない。
 世界の現状はグローバリズム化した結果、需要不足・供給過剰のデフレ現象を来たしている。少なくとも世界のGDPの過半を占める日米欧の先進諸国の実情はそうである。
 それ故供給が需要をつくりだすという発想にもとづいた政策は機能しなくなっている。
 小さな政府、緊縮財政、規制緩和は、需要過多、供給不足のインフレ期には有効かもしれないが需要が不足するデフレ期には有効とはいえない。
 それでもなお小さな政府、緊縮財政に走る世界の現状は驚嘆の極みであり、まるでフリードマンの呪縛に捉われているかのようだ。
 どうしたらこの呪縛から逃れられるだろうか。呪縛であるからには人の心の在りようにこそその解があるのではないか。

 人は総じて権威に弱い、経済学者それもノーベル章に輝く有力な経済学者の言説に逆らうことなど自らの価値を貶めるのではないか、自らの無知を晒すことになるのではないかとおそれる。

 そういう人は ” 王様は裸だ ” と叫んで人びとの呪縛を解いたアンデルセン童話の無邪気な子供の心を忘れ去ってしまっているのだ。

 この子供心を呼び覚しフリードマンの呪縛を解くものは果たして誰ぞ!

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