TPPで一番利益を得るのはだれか。それはおそらく1%のアメリカの企業家であろう。
交渉次第ではあるが日本の大企業も利益に預かることができるかもしれない。
TPPの利益はアメリカ政府のためでなく、アメリカ国民のためでもない、ひとり少数の企業家のためのものである。
交渉を成功裡に進めるためには、どうしても秘密主義にならざるを得ない。
細部を白日のもとに晒したら残りの99%が反対するからである。
アメリカ企業の影響力は大きい。銃乱射事件が頻発しても、未だに銃規制されていない。
大統領自ら率先して規制に取り組んでいるにも係わらず未だ実現されていない。我々の理解を超える。
この、アメリカの企業家、政府、国民の関係は頭に叩き込んでおかないと、TPPを理解することはまず難しい。
このようなTPPに日本が参加したらどうなるか。間違いなく日本の国のかたちが変わるだろう。少なくとも今よりアメリカ化するだろう。
日本は、資本主義国でありながら平等を実現している稀有な国として諸外国から認められ、国民もそれを誇りにしてきた。
少なくとも格差拡大を是とする考えはなかった。平均的な新入社員と社長の給料は、せいぜい1対10である。
これに比しアメリカのそれはリーマンショック直前になんと1対1700であった。
日本でも最近格差の問題が取り上げられているが、アメリカの格差は度外れだ。ウオール街で起こった、99%のためのデモは必然だし、今後も繰り返し起こるだろう。
新自由主義の代表的な理論、富は必ず上から下へ流れるという トリクルダウン理論は、発展途上国や小国には有効でも、日米など先進国には必ずしも有効ではない。
富は使用されてはじめて、この理論が成り立つが、富を所有するだけで配分にまわさなければこの理論はなりたたない。
昨今の日本企業の異常な内部留保の積み増し(2010年度末大企業だけで266兆円)はこのことを如実に物語っている。
4/12安部首相は、日本のTPP交渉参加に向けた日米間の事前協議が決着したと発表した。
4/12付のマランティス米国通商代表代行の書簡で今後のTPPの行方がおおよそ見当がつく。
「両国政府は,TPP交渉と並行して,保険,透明性/貿易円滑化,投資,知的財産権,規格・基準,政府調達,競争政策,急送便及び衛生植物検疫措置の分野における複数の鍵となる非関税措置に取り組むことを決定しました。
これらの非関税措置に関する交渉は,日本がTPP交渉に参加した時点で開始されます。
両国政府は,これらの非関税措置については,両国間でのTPP交渉の妥結までに取り組むことを確認するとともに,これらの非関税措置について達成される成果が,具体的かつ意味のあるものとなること,また,これらの成果が,法的拘束力を有する協定,書簡の交換,新たな又は改正された法令その他相互に合意する手段を通じて,両国についてTPP協定が発効する時点で実施されることを確認します。
米国は,自動車分野の貿易に関して長期にわたる懸念を継続して表明してきました。
それらの懸念及びそれらの懸念にどのように取り組むことができるかについて議論を行った後,両国政府は,TPP交渉と並行して自動車貿易に関する交渉を行うことを決定しました。
交渉は,添付されているTORに従い,日本がTPP交渉に参加した時点で開始されます。
さらに,2013年2月22日の「日米の共同声明」に基づき,両国政府は,TPPの市場アクセス交渉を行う中で,自動車に係る米国の関税がTPP交渉における最も長い段階的な引下げ期間によって撤廃され,かつ,最大限に後ろ倒しされること,及び,この扱いは米韓FTAにおいて自動車に係る米国の関税について規定されている扱いを実質的に上回るものとなることを確認します。」
かねて懸念されていた日本の交渉力であるが、これが現実のものになりつつある。
譲歩に譲歩を重ねている。日本サイドで唯一メリットと思われた自動車については、米韓FTAよりさらにアメリカに譲歩している。 我々は米韓FTAで韓国に同情していたが、これでは同情すべきは日本ということになる。
この書簡で、TPPの順守に法的拘束力をもたせるようTPP協定が発効する時点までに法令などを作成するなどと、特に非関税障壁について詳しくのべている。このあたりにアメリカの意図を窺い知ることができる。
この事前協議の成果で安部首相が強調するTPP参加による安全保障のメリットについて考えてみたい。
TPP参加による安全保障上のメリットは大きい。高橋洋一氏がいうように、仮にISD条項により訴えられたとしても、安全保障上のメリットからすれば些細なことであり、中国と尖閣諸島紛争勃発の可能性を考えれば、これが経済に与える悪影響は計り知れず、TPPから受ける被害は物の数ではないかもしれない。
が、日本がTPPに参加しなければこれらの保障は担保されないのだろうか。
日米安全保障条約は日本のためだけではなく、覇権国アメリカのためでもある筈だ。
以前アメリカがOECDにISD条項を入れようと提案したときフランスを始めとした先進各国が猛反対し実現しなかった。
先進国同士のISD条項締結が危険であることを認識していたからである。
特に、米国相手のISDによる訴訟が如何に危険であるかは、カナダとメキシコとのISDによる訴訟結果をみれば歴然としている。 米企業とカナダ政府は28勝0敗、米企業とメキシコ政府は19勝0敗である。
両国企業から訴えられた米国政府は19勝0敗と、米企業及び米政府はISDによる訴訟で一度も負けたことがない。
ISD条項は国の主権に係わる。国の主権が侵害されれば、国家存立の意義さえ失いかねない。
同じ先進国として、日本がなぜ拒否できないのか。
自民党が掲げたTPP交渉参加の判断基準第5項(国の主権を損なうようなISD条項は合意しない)はどうなるのか。
西郷隆盛に倣っていいたい「ISD条項につき、今般政府に尋問の筋これあり」と。
安全保障のために、国のシステムまで変えかねないTPPにあえて参加するというが、その犠牲はあまりにも大きい。格差拡大、貧困、治安の悪化がその先に透けて見える。
TPPで一番問題なのは、農業問題とか、関税撤廃の問題もさるこながら、非関税障壁とか称して、アメリカが自国のルールに置き換えようとすることである。
我々は、世界の多くの紛争地域で、貧困から逃れるために、兵士に志願する人々を見てきた。なにも、アジア、アフリカの発展途上国だけでなく、超大国のアメリカにおいてさえそうである。
貧困から逃れられるとあらば、人々は躊躇なく戦場へと向かう(ルポ 貧困大陸アメリカ)。
そこには戦争の崇高な大儀の欠片もない。これが偽らざる現実ではないか。
安全保障は国の基本であるが、保障され、守らるべき国民生活がゆがんでしまっては、本末転倒となる。
最近は政府、マスコミの宣伝効果もあり、やや賛成派が勢いを増しているが、このように、TPP参加によって損なわれるものが多いことが広く国民に浸透することを期待して止まない。
日本人は水と安全はタダで手に入れることができるといわれたくらい安全な社会を築いてきた。
少数の富裕層と大多数の貧困層からなる社会に今までと同じような安全が担保されるだろうか。
国民はそのような社会を望むのだろうか。
鄧小平が唱えた、先に豊かになれるものから豊かになり、取り残された人を助けよという、中国流トリクルダウン理論”先富論”によって改革開放路線をすすめた中国においても、今や格差拡大は深刻な社会問題となっている。
TPPに参加すれば、今すぐにではなくとも徐々に格差拡大社会に向かうだろう。
TPP自体がそのように制度設計されているからである。
そのような日本を一体誰が見たいと思うだろうか。
0 件のコメント:
コメントを投稿