噂、これよりも速い害悪は他にない/動きが加わるや勢いづき、進むにつれて力を身に帯びる。 ウェルギリウス噂は侮れないどころか、人々にとんでもない行動をおこさせる。この古代ローマの詩人の歌を地でいくような事件が時としておこる。
有名なものに昭和恐慌の引き金となった事件と愛知県豊川市の豊川信用金庫の預金の取り付け騒ぎがある。
前者は、時の大蔵大臣・片岡直温が東京渡邊銀行がとうとう破綻しました、と失言し間違った情報を発信してしまったために、たちまち噂が広がり、全国各地の銀行の取り付け騒ぎがおこり昭和金融恐慌へとつながった。
後者は、電車の中で三人の女子高生のおしゃべりで、たまたまそのうちの一人が豊川信用金庫に就職が内定していたが、仲間の一人が「信用金庫なんてあぶないよ」と冷やかすように言ったのが発端で、様々な経路を辿り、ついには豊川信用金庫の総預金量360億のうち約20億が僅か3営業日で引き出されてしまった。 豊川信用金庫の財務状況は全く健全であったにも拘わらず。
この事件は噂の発生源から経路まで特定された稀有の例としてしばしば取り上げられる。
噂の研究者によると、噂の流通量には、次の3点が強く関係するらしい。
噂はまず、人々が不安に感ずることが最も効果がある。
次に、物事が曖昧でなければならない。曖昧さがなくなれば噂もなくなる。
最後に、噂にはある程度、信憑性がなければならない。奇想天外なものは噂になり難い。
ここでいう噂の流通量とは、聞いた噂を人に伝える可能性のことを指している。聞いた噂を、さらに人に伝える可能性があるかどうかが問題なのである。
一見 無関係にも思えるマスメディアでさえもこの点の如何で伝播の力が左右される、マスメディアが力を発揮するのはパーソナルメディアの力があってこそである、人々の知りたいことではなく、人々が伝えたいことがニュースである、と噂の研究者 成城大学の川上善郎教授は断言する。
噂の送り手は個々人であることを考えれば、川上教授の主張には説得力がある。
ネットの普及が一段とすすみ、情報が瞬時に伝わるようになった現代において、噂が伝わる手段もツイッター、ブログなどが加わり多彩になった。
が、噂の伝播の本質は、送り手が個々人である以上変わることもないだろう。
どうしても人に伝えたいという欲求をみたす情報が、ニュースとなるならば、逆にいえば、噂こそニュースの根幹を構成する要素といえる。
先にあげた二つの事例は、発信者の意図せざる不幸な結果になった。
意図的せざる噂があるならば、当然のことながら、意図した噂もありうる。
日本は、少子高齢化でこの先衰退するばかりだ。消費税増税しなければ借金のツケを子孫に残すことになる。
日本は世界最大の借金国で間もなく破綻する。
などなど、国民を不安に陥らせる。はっきりしたデータを示さないで曖昧のままにする。一見もっともらしく聞こえる。
など、噂となる要素をすべて備えた情報が公然とマスメディアに流れている。情報の発信源は、多くは、当局の意を汲んだ学者、エコノミストであり、いろいろな審議会のメンバーに名を連ねている人たちである。
彼らの発言が浸透していくか否かは、受け取る側の国民一人ひとりが、それを人に伝えたい欲求にかられるか否かにかかっている。
メディアリテラシーの重要性はいや増すばかりである。
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