1970年代以降主要国の格差は拡大傾向にある。わが国の格差の度合いは主要国のなかで英米より小さく大陸欧州諸国より大きい。(下図)
かって戦前の日本は、先進国のどの国よりも格差が大きい社会であった。ところが戦後高度成長期には一転して「一億総中流」といわれるほどどの国よりも格差が小さい社会となった。
だがその後新自由主義の台頭とともに格差は再び拡大した。
日本の格差は、戦前は一部富裕層、現在は一部貧困層がそれぞれ突出しているのがその特徴である。
格差が社会に悪影響をおよぼすのは自明の理である。格差の主な原因は自然発生的に生じたものではなく社会的強者による人為的なものである。
来るべき本格的AI時代にそなえるためにも格差を克服すべく必要な対策をとらなければならない。
長い間日本の格差問題に取り組んでいる社会学者の橋本健二氏は、日本は「格差社会」などという生ぬるいものではなく今や「階級社会」としての性格を強めているという。
同氏は、現代日本を、資本家階級、新中間階級、正規労働者、旧中間階級、アンダークラスの5つの階級に分類し、SSM調査データ(社会学者の研究グループが1955年から10年ごとに行う社会階層と社会移動全国調査)と2016年首都圏調査データ(橋本氏中心の研究グループによる調査)を分析してこのような結論に至った。
「格差拡大はさまざまな弊害をもたらすがとりわけ深刻なことは、アンダークラスを中心とする厖大な数の貧困層を生み出すこと、社会的コストが増大すること、そして格差の固定化からさらに多くの社会的損失がうまれることである。
① アンダークラスと貧困層の問題
アンダークラスと貧困層は生存権を保障されないばかりか、主に経済的理由から結婚して家族を形成する機会さえ得られない。
こういう人権を十分に保障されないこと自体が問題である。
② 社会的コストの増大
格差が大きい社会は人びとの連帯感を失くした病んだ社会となる。病んだ社会では犯罪が増加し安全が脅かされる。
アンダークラスの人たちは税を払うことないばかりか逆にこの人たちのために要する社会保障費が増大する。
③ 格差の固定化と社会的損失
格差が拡大すると固定化しやすくなる。格差が固定化すると一部の子どもたちが教育を受ける機会が奪われるという人権上の問題がある。
さらに教育を受ける機会が奪われる子どもたちがいるということは、適切な教育さえ受ければ花開いたはずの多くの才能が、貧困のために埋もれていくということである。
これは、莫大な人的資源の損失である。」
(橋本健二著講談社現代新書『新・日本の階級社会』から)
弊害をもたらす格差は是正しなければならない。だがこれには大きな障害がありその最たるものは自己責任論である。 これには二つの問題があるという。
「第一に、人が自己責任を問われるのは、自分に選択する余地があり、またその選択と結果の間に明確な因果関係がある場合に限られるべきだということである。」(前掲書)
たとえば死別した多くの女性が非正規雇用の働き口しかなくアンダークラスに陥ったり、会社が倒産したため失業したなどはその典型で本人にとっては不可抗力で自己責任とはいい難い。
自己責任論は格差社会の克服を妨げる強力なイデオロギーであり、社会的強者だけでなく貧困に陥った社会的弱者までもがこれに縛られ声を発しにくい状況になっていることが上の調査データから読み取れる。
「第二に、こうした自己責任論は、貧困を生みやすい社会のしくみと、こうような社会のしくみを作り出し、また放置してきた人々を免罪しようとするものである。
貧困を自己責任に帰すことによって、非正規雇用を拡大させ、低賃金の労働者を増加させてきた企業の責任、低賃金労働者の増大を防ぎ、貧困の増大を食い止めるための対策を怠ってきた政府の責任は不問に付されることになる。
自己責任論は、本来は責任をとるべき人々を責任から解放し、これを責任のない人々に押しつけるものである。」(前掲書)
”格差を解消するには正規社員をなくしすべて非正規社員にすればいい” などという暴論の背景にはこのような責任のすり替えがある。
問題の本筋は責任を転嫁することではなく主にアンダークラスと貧困層対策により格差をいかにして縮小するかである。日本型格差の特徴が貧困層の突出にあるからである。
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