出典:松尾 豊著KADOKAWA『人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの』
過去のブームの衰退を簡単にいえば、第1次ブームは特定の問題は解けても複雑な現実の問題は解けないこと、第2次ブームはコンピュータに大量の知識をいれ管理するには限界があり費用と時間がかかりすぎかつ汎用性に乏しいことであった。
現在は AI 技術のブレークスルー(飛躍的進歩)といわれるディープラーニングで3度目のブームにさしかかっている。
囲碁の対戦でAI が現役最強棋士といわれる韓国の李世九段に勝利したのはこの技術によるものであった。
今回はこれにシンギュラリティ(技術的特異点)の問題が加わり AI が人間の知能を越え人類の脅威となるなどとブームに拍車がかかっている。
東京大学の松尾准教授は AI を飛躍的に進化させたディープラーニングについてこう述べている。
「人間は特徴量をつかむことに長けている。何か同じ対象を見ていると、自然にそこに内在する特徴に気づき、より簡単に理解することができる。
ある道の先人が、驚くほどシンプルにものごとを語るのを聞いたことがあるかもしれない。特徴をつかみさえすれば、複雑に見える事象も整理され、簡単に理解することができる。
同じことを人間は視覚情報でもやっている。
たとえば、ある動物がゾウかキリンかシマウマかネコかをみわけるのは人間にはとても簡単だが、画像情報からこれらの動物を判定するのに必要な特徴を見つけ出すのは、コンピュータにはきわめて難しかった。
機械学習させようにも、この特徴を適切に出すことができなければ、うまく学習できないのである。(中略)
ディープラーニングは、データをもとに、コンピュータが自ら特徴量をつくり出す。
人間が特徴量を設計するのではなく、コンピュータが自ら高次の特徴量を獲得し、それをもとに画像を分類できるようになる。(注:もちろん、画像特有の知識ー事前知識 をいくつか用いているので、完全に自動的につくり出せるわけではない。)
ディープラーニングによって、これまで人間が介在しなければならなかった領域に、ついに人工知能が一歩踏み込んだのだ。
私はディープラーニングを 『人工知能研究における50年来のブレークスルー』 と言っている。」
(松尾 豊著KADOKAWA『人工知能は人間を超えるか ディープラーニングの先にあるもの』)
AI の歴史はわずか60年であるから、ディープラーニングが50年来のブレークスルーとすればこれがいかに画期的な技術であるかが想像できよう。
ディープラーニングの凄さについて小林雅一氏は分かり易く解説している。
「ディープラーニングは人間という教師の手助けがなくても、自分で勝手に大量のデータから何かを学び、ある問題を解く上で、何か本質的に重要なポイント(変数)であるかを、システム自身が探し出してくるのです。
そして、ここにも再び謎が登場します。つまりディープラーニングがなぜ、それらの変数(特徴量)を選び出してきたのか?
そこに至るシステムの思考経路を、それを開発した技術者(つまり人間)は理解できないのです。
しかしディープラーニングは、難問を解決する上で、必ずといっていいほど正しい変数を選んできます。
だから音声・画像認識など、これまで停滞していたパターン認識の分野で大幅な性能向上が見られたのです。
多くのAI 専門家は口を揃えて、この点を絶賛しています。
彼らの見方によれば、問題を解決するために必要な 『何かに気付く』 という能力こそ、これまでのAI に欠如していたものです。
この限界を突破したことで、ディープラーニングは AI における永遠の難問とされてきた 『フレーム問題』 さえ解決する、との見方も出てきました。
第1章でも紹介したように、フレーム問題とは、
『所詮は限られた情報処理能力しかないロボットや AI には、現実世界で起こり得る問題の全てには対処できない』 ということでした。
それは特に、ケース・バイ・ケースの判断ルールをコンピュータなどに移植していく 『ルール・ベースの AI 』 にとって致命的な問題でした。
しかしディープラーニングのように、人間がロボットやコンピュータに何らかのルールや変数などを教えなくても、彼ら自身が問題を解く上で本質的に重要なことに気付いてくれるなら、フレーム問題は解決できる可能性があります。
そして、ここでも興味深いことは、ディープラーニングが人間の脳の仕組みを参考にしていることです。
つまりディープラーニングがフレーム問題を解決できるとすれば、それは私たち人間が普段何らかの形でフレーム問題を処理している、あるいは少なくとも何とか切り抜けている証になるということです。(もちろん、ときにはジタバタしたり失敗することもありますが。)
いづれにせよディープラーニングは単なる機械学習の手段という枠組みを越え、人間のような汎用的知性を持つ最初の AI になる可能性があるとの期待が高まってきました。
その進化のスピードは今後、一層加速すると見られています。 それは脳科学(神経科学)と AI 研究が連携することで相乗効果が期待されるからです。」
(小林雅一著講談社現代新書 『 AI の衝撃』 )
此度のAI ブームは過去2回と異なりすぐに衰退しそうにない、それどころか AI の開発は指数関数的に増加する可能性さえある。
このような革新的な技術について各国はどう取り組んでいるか先行している日米を中心に見てみよう。
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