2015年10月19日月曜日

日本国債考 2

 日本国債に早くから懸念を表明し、日本国債の空売りをも進めてきた人がいる。
 経済評論家で参議院議員でもある藤巻健史氏である。彼はその道では ”伝説のディーラ” の異名を持つプロである。
 彼は10年近く前から日本財政の危うさを指摘し、今に国債も円も暴落しハイパーインフレになると著作や講演活動を通じて発信している。
 不釣合いな円高と財政悪化こそ彼の主張の根拠であり、それはマーケット現場に30年近く身をおいた肌感覚であるといっている。
 藤巻氏は信念からハイパーインフレーションを懸念しているようだ。 
 が、信念からではなく、プロパガンダの役目からハイパーインフレーションを主張している人がいる。
 財政金融関係の審議会等政府が主催する会議や懇談会のメンバーに名を連ねている学者、評論家等であり人数的にはこちらのほうが多いように見受けられる、少なくともメディアに登場する人物はこちらの方が多い。
 彼らの多くは政府というより財務省のプロパガンダの役目を担っている。
 その主張の根拠は、財務省のそれと同じである。
 曰く、このまま ”国の借金” が拡大していけば財政が破綻し、その結果国債が暴落しハイパーインフレーションになる、と。
 彼等はまた消費税10%を延期すれば国債は暴落し金利が跳ね上がると主張した人々と重なる。
 債務危機から財政破綻とかハイパーインフレーションを主張してきた人たちは現時点ではその予想はことごとく外れている。
 長期金利は低下し続け今や国際的にもスイスに次ぐ低さの 0.5% 以下で安定している。
 ここ10年以上日本の債務危機はすぐにでもやってくると言う人がいたが危機はいっこうにこない。
 ポール・クルーグマン教授は、日本の金利上昇に賭けた投資家は損ばかり重ね日本国債の空売りは ”死の取引” とまで言われるようになったと自著で紹介している。
 先月もアメリカ格付け会社3社は主に財政上の理由から日本国債を格下げしたが、長期金利は微動だにしなかった。
 近い将来、国債暴落、金利暴騰の懸念はないとは断言できないが、その可能性は限りなく低い。
 ほかならぬ財務省もその根拠を外国向けに発信している。
2002年アメリカ格付け会社3社が日本国債を格下げした(ムーディーがAa3、S$PがAA-、フィッチがAA)。
 これに対し財務省は、黒田東彦財務官(現日銀総裁)名で2002年4月30日付けで格付け会社に反論している。


       外国格付け会社宛意見書要旨抜粋 

(1)  日・米など先進国の自国通貨建て国債のデフォルトは考えられない。デフォルトとして如何なる事態を想定しているのか。
 
(2)  格付けは財政状態のみならず、広い経済全体の文脈、特に経済のファンダメンタルズを考慮し、総合的に判断されるべきである。
 例えば、以下の要素をどのように評価しているのか。

 ・ マクロ的に見れば、日本は世界最大の貯蓄超過国

 ・ その結果、国債はほとんど国内で極めて低金利で安定的に消化されている

 ・ 日本は世界最大の経常黒字国、債権国であり、外貨準備も世界最高
 
(3)  各国間の格付けの整合性に疑問。次のような例はどのように説明されるのか。

 ・ 一人当たりのGDPが日本の1/3でかつ大きな経常赤字国でも、日本より格付けが高い国がある。

 ・ 1976年のポンド危機とIMF借入れの僅か2年後(1978年)に発行された英国の外債や双子の赤字の持続性が疑問視された1980年代半ばの米国債はAAA格を維持した。

 ・ 日本国債がシングルAに格下げされれば、日本より経済のファンダメンタルズではるかに格差のある新興市場国と同格付けとなる。                 (財務省ホームページから)

 
 自国通貨建てで発行され、大半を(当時で95%)国内で消化されている日本国債はデフォルトは考えられないと反論している。
 この事情は現在において多少変化し国内消化が95%から90.8%になったが(H26年度末日銀資金循環統計)決定的とはいえない。

 財務省が広報で発信していることと、同じ財務省が外国格付け会社へ発信していることは同じではない。むしろ間逆である。
 どちらが正しくてどちらが間違っているのか。ことはわが国の財政政策決定にかかわる重大事である。
 政治家のみならず国民に対しても国債や財政についてのリテラシーが問われている。

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