抽象的な発言はやめて、具体的に話してほしい、できれば数字で! 具体的に、それも数字とかグラフで説明されるとなんだか安心する。我々はとかく目に見えるものに弱い。
ところがこの数字とかグラフが曲者だ。特に社会調査となると、専門家によればゴミの山であふれ返っているという。
「『社会調査』という名のゴミが氾濫している。そのゴミは新たなゴミを生み出し、大きなうねりとなって腐臭を発し、社会を、民衆を、惑わし続けている。
社会調査を研究してきた者として言わせてもらえば、社会調査の過半数は『ゴミ』である。
それらのゴミは、様々な理由から生み出される。
自分の立場を補強したり弁護するため、政治的な立場を強めるため、センセーショナルな発見をしたように見せかけるため、単に何もしなかったことを隠すため、次期の研究費や予算を獲得するため等々の理由である。
そして、それを無知蒙昧なマスメディアが世の中に広めてゆく。
社会調査方法論(research methods)の世界には『GIGO』という言葉がある。
これは(Garbage In,Garbage Out)という用語の頭文字を並べたものであるが、要するに『集めたデータがゴミならば、それをどんなに立派に分析したところで、出てくる結論はゴミでしかありえない』といことである。」
(文春新書 谷岡一郎著『社会調査のウソ』)
たしかに、新聞やテレビの調査発表には漠然とした違和感を感ずる時がある。
同じ社会調査でも革新系のメディアは政権批判を誘導するような質問をするし、保守系メディアは政権寄りに誘導するような質問をする。
結果についてのコメントもそれぞれの主張に沿うようなものとなる。
谷岡氏は例題として1991年11月6日付け朝日新聞の記事を紹介している。
「 『一番人気はカーター氏/歴代大統領/米紙が調査』
<ロサンゼルス4日=共同>四人の前、元米大統領のうち一番人気があるのはカーター氏で、在職中に高人気を維持し続けたレーガン前大統領は”並”に転落---。
米紙ロサンゼルス・タイムズが四日発表した世論調査でこんな結果が出た。/九月下旬、全米で千六百人を対象に行ったこの調査では、健在の前、元大統領のうちだれを支持するか、という質問に対し、
35%がカーター氏、22%がレーガン氏、20%がニクソン氏、
10%がフォード氏と答えた。
/この結果について『カーター氏は人道的な政策が評価できる』『レーガン氏は貧しい人のためには何もせず、多くのホームレス(浮浪者)を生む原因となった』といった回答者の見方を紹介している。
どこがおかしいか、わかりますか。
ヒント。これは1991年(ブッシュ大統領時代)の時点で生存していた過去四人の大統領(ニクソン、フォード、カーター、レーガン)の人気投票を行った結果です。
解答。四人の前・元大統領のうち、カーターだけが民主党で、残りの三人は共和党である。
仮に大衆の四割が共和党、四割が民主党、二割が無党派(その他)であったとすると、共和党支持者の票は割れるが、民主党支持者にはカーターしか選択肢が存在しない。
カーターがこの調査で一位になることは、最初から明らかだった。
このような特定の選択肢が上位にくるような恣意的な質問の作り方を、専門用語でforced choice(強制的選択)と呼んでいる。
こうした『ゴミ』は一回だけで終われば、さして問題はない。ところが迷惑なことに、ゴミは次々と引用されることで、他のゴミを生み出すことがある。」(前掲書)
現に、この記事は雑誌『文藝春秋』で『日本が選ぶ歴代米大統領ベスト5』と題された座談会で識者が引用し得々と論じている。 座談会に呼ばれるほどの専門家が、このような欠陥調査に気付かないとすれば情けないし、知ったうえでの発言であれば相当タチが悪いと谷岡氏は断じている。
我々は、街角調査、聞き取り調査などの身近な調査結果にはそれなりに判別・評価できるが、学者・専門家など権威ある人の調査結果は素直に受け止めがちで批判の耐性が十分とはいえない。
いわば日本人の権威にたいする本能的といってもいい信頼がここにもある。
が、こと社会調査については、彼らはゴミを撒き散らしている。 撒き散らす理由は、ゴミを受け入れる需要があり、そのことにより得るものがあるからである。
しかも権威があればあるほどその度合いは増す。日常の何気ない調査にゴミがいっぱい入っているとすれば、我々は知らず知らずのうちに、それを吸い込んでいることになる。
ここに社会調査のゴミから身を守り、判断を誤まらないための、リサーチ・リテラシーの必要性がある。
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