2019年9月2日月曜日

日本国憲法考 3

 昨年末日本海において韓国海軍の駆逐艦が海上自衛隊のP-1哨戒機に対して火器管制レーダーを照射した問題が発生した。レーダー照射の明白な証拠があるにもかかわらず韓国はそれを認めなかった。
 儒教の国韓国ならではの対応であり到底われわれには理解できない。
 儒教の教えでは上にたつものは過ちがあってはならない。過ちを認めることは罪であり一過性ではすまない。
 「無謬性の原則」は面子を重んずる儒教の国では当然のこととして受けとめられている。レーダー照射事件に対する韓国国民の反応がそのことを示している。
 過去の過ちを「水に流す」日本的発想など通用するはずがない。
 だがこの儒教の教えがわが国にも生きているところがある。官僚社会における「無謬性の原則」である。
 戦後74年経ったいまもわが国が実質的な主権を回復できていない原因の一つはこの原則によるところが大きい。
 この原則によって国家の主権は回復せず今後もその見通しさえたっていない。
 残念ながらこのことを知っているのはごく一部の人に限られる。殆どの人はこのことによって直接的な被害を受けていないことまた会合が秘密裡におこなわれるためそれを知らない。

 先進国と後進国あるいは戦争の勝者と敗者との間の条約は当初は殆どが強者に有利な不平等条約であるが徐々に正常な条約へと改定されていくのが一般的傾向である。
 江戸幕府による日米和親条約、日米修好通商条約は不平等条約であったが明治政府になって長い道のりではあったが日米通商航海条約で不平等を是正した。
 だが第二次大戦後の日米間の条約に限っていえば上のことはあてはまらない。
 不平等はむしろ拡大している。アメリカによる政治家の買収工作と官僚の「無謬性の原則」がセットになって当初の不平等条約がその後一段と拡大する異常な事態になっている。

 A級戦犯であった岸信介は巣鴨の刑務所から出所してわずか8年で新生日本の総理大臣にまで駆け上った。その裏にはアメリカの影があった。

 「岸がCIAから巨額の『秘密資金』と『選挙についてのアドバイス』を受けていたことは、2006年にアメリカ国務省自身が認めており、すでに歴史的事実として確定しているのです」
(矢部宏治著講談社現代新書『知ってはいけない2』)

 アメリカが意図してこの有能と見立てた官僚出身の政治家を狙い撃ちし巨額なカネの支援で総理大臣に仕立てたといったほうがより正確であろう。
 買収された岸総理がアメリカの意向に逆らえなかったであろうことは容易に察することができる。
 彼は期待に違わずアメリカの意向を着実に実行に移した。日米安全保障条約の改定をアメリカの意向に沿う形で改定し、アメリカに有利でかつ国民の目にふれてはまずいことは密約とした。さらに悪いことにこの密約を公式な記録として残さず後任に引き継がなかった。
 日韓の徴用工問題で明らかになったように国と国との約束は守らなければならない。密約であっても国と国との約束に変わりはない。
 密約を正式な記録として残しているアメリカとこれを残していない日本。このことがその後の交渉で大きく影響した。アメリカが攻め日本が防戦一方となりそれがいまも続いている。
 なぜこういうことになったか。密約を公にせず正式に引き継がなかったためその弱点を交渉相手のアメリカから容赦なく攻められたからである。
 前任者と違ったことをしてはいけない、謝ってはいけないのが官僚の掟。この伝統主義と無謬性の原則は官僚にとってその他一切に優先する上位規範である、たとえそれが国家の主権にかかわるものであっても。

 日米安保条約の不平等を詳細に分析して世に知らしめた矢部宏治氏は言う。戦後日本におけるアメリカへの異様なまでの従属体制が70年たったいまもなぜまだつづいているのか、その鍵は安保改定のとき結ばれた事前協議または核密約、基地権密約、および朝鮮戦争・自由出撃密約以上3つの密約に隠されている。
 これに関連して矢部氏は死期を悟った遺言書ともいえる村田良平元外務次官の回想録(2008年)を紹介している。

 「核兵器を搭載する米国艦船や米軍機の日本への立ち寄り(略)には、事前協議は必要ないとの密約が日米間にあった」
 「(その密約の趣旨を説明した)紙は次官室のファイルに入れ、次官を辞める際、後任に引き継いだ」
 「90年代末、密約の存在を裏付ける公文書のことが米国で開示されたが、日本政府は否定した。
 『政府の国会対応の異常さも一因だと思う。いっぺんやった答弁を変えることは許されないという変な不文律がある。謝ればいいんですよ、国民に。微妙な問題で国民感情もあるからこういう答弁をしてきたと。そんなことはないなんて言うもんだから、矛盾が重なる一方になってしまった』」
(矢部宏治著講談社現代新書『知ってはいけない2』)

 残念ながらこの回想録はその後の日米交渉に影響することはなかった。

 新安保は旧安保とほとんど変らず同一である。ただ一か所だけ重要なフレーズが追加されている。
 新安保条約第6条の前段で米軍は日本の施設及び区域を使用することを規定し後段で

 「前記の施設及び区域の使用並びに日本国における合衆国軍隊の地位は、千九百五十二年二月二十八日に東京で署名された日本国とアメリカ合衆国との間の安全保障条約第三条に基く行政協定(改正を含む)に代わる別個の協定及び合意される他の取極により規律される。」

 とあるがとくに最後の『及び合意される他の取極』という言葉が新安保条約で追加されている。

 この意味するところは米軍と日本の官僚が秘密裡に行う非公開の委員会である「日米合同委員会」や「日米安保協議委員会」の取極も含まれることである。
 矢部氏によると実務者協議である日米合同委員会はすでに1600回以上やっているという。
 国民の知らない非公開の席で基地の使用権や軍の指揮権が決められている。
 取極めをみる限り米軍の意向が優先されやりたい放題となっている。しかもこれに歯止めをかけるものがなにもない。 この状態は主権の放棄というより支配国と従属国との関係と言ったほうがより正確であろう。
 このようなことが米軍と日本の官僚だけで行われそこには日米両国の正式な外交ルートを経ていない。日本国憲法の出番はなく神棚のお飾りとなっている。

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