トランプ大統領の言動は型破りである。ナンシー・ペロシ米下院議長はトランプ大統領を「倫理的にも知性的にもふさわしくない。彼は大統領職に不適格だ(ワシントンポスト紙)」と批判した。
セックスや金銭にまつわるスキャンダル疑惑が絶えないトランプ大統領の言動に眉をひそめる人は多い。労働者など「米国の忘れられた人々」へ想いを寄せると言いながら実業界出身らしく企業減税に熱心である。
それにもかかわらずアメリカ国民の過半はトランプ大統領を支持している。隠れ支持者が多いことから支持する理由は人柄ではなく政策にあるのだろう。
トランプ大統領は就任前から一貫して「アメリカ・ファースト」を掲げている。アメリカ・ファーストは当然のことながら反グローバリゼーションである。
グローバル企業家はグローバル資本主義は歴史の必然と主張する。ワシントンの政治のプロはグローバル企業家の影響下にありアメリカ・ファーストではない。
トランプ氏はワシントンの政治のプロから政治を取り戻すといってホワイトハウスに乗り込んだ。
トランプ人気を支えているのは反グローバリズムである。アメリカ人はグローバリズムがもたらした弊害に不満を抱いている。具体的にその弊害を整理してみよう。
まず、経済がグローバル化すれば格差が拡大する。グローバル経済が進むにつれて格差が拡大ししかもそれが固定する。
・資本家と労働者の格差
資本家は利益のために国境を越えて安い労働力を求める、したがって労働者の賃金に競争原理が働き賃金はますます安くなる。
・大企業と中小企業の格差
弱肉強食の原理で大企業だけが儲かり中小企業は置き去りにされる。
・大国と小国の格差
アメリカが一人勝ちで唯一の超大国になったのはグローバリズムによる。グローバリズムの実験場ともいえるEU内ではドイツの一人勝ちでその他は経済が停滞している。
次に、国境の壁が取り払われればグローバル企業は利益を求め自由に投資できるがその反面危機が発生すればたちどころに世界に拡散する。
グローバルに展開するアメリカのヘッジファンドが仕掛け、1997年から始まったアジア通貨危機はロシア、ブラジルへと波及し国際社会は混乱した。
2008年の全世界を巻き込んだリーマンショックはアメリカのたった一企業の破綻が原因であった。
社会が不安定になるのは金融だけではない。実体経済においても起こる。
グローバル企業はその体力と腕力で利益のために必要以上に生産する。その結果、需要不足供給過多のデフレとなる。 デフレ下ではいくら金融緩和しようが政府が賃上げを呼びかけようが効果なし。労働者の賃金は安きに放置されたまま上がる見込みなどない。
このようにグローバリズムは格差と社会不安を招くがこれが極端にすすむと万事おカネがものをいう世界になる。
そうなると一人一票の民主主義など成立しなくなる。刑務所が民営化されると利益のために囚人の数が増える。 戦争は軍需産業にとって干天の慈雨、売り上げを伸ばす好機となる。
すべては目先の利益のためであって、「後は野となれ山となれ」だ。長期的な合理性を欠いた社会は脆弱である。
グローバル社会の行き着くところはカネがすべてである。カネですべてを解決しようとしそれ以外の価値を認めない。
その例としてブッシュ大統領のイラク戦争がある。大量破壊兵器保有の証拠がなく国連決議も経ないでイラクを攻撃した。兵器産業を代弁したネオコンの後押しがあったことは広く知られている。そこには自らの意思を他国に押し付ける傲慢さがある。
だが今や世界におけるアメリカの相対的力は当時ほどはない。世界の警察官の役割を放棄した。
アメリカ国民はやっとこのことに気づきはじめた。トランプ大統領の内向き姿勢はこのようなアメリカの現状に沿っている。
このようなアメリカに今後日本はどう向き合っていけばいいのか。いままでどうり抱き着き外交でいいかどうかが問われている。
2019年6月17日月曜日
揺らぐアメリカ 8
アメリカ初代大統領ジョージ・ワシントンは非同盟がアメリカの国益であるといった。
この政策は長く守られてきたが第一次世界大戦を境にアメリカは他国に干渉するようになった。
第二次世界大戦後アメリカは超大国となって世界の警察官的役割を担うようになった。
時を同じくして歴史の必然であるかのようにアメリカでグローバリズムが勢いを増しその傾向はクリントン大統領の時代に頂点に達した。
アメリカはグローバリズムの発信源でありトランプ大統領誕生で少し後退したとはいえいまなお世界の最前線である。 なぜそうなったか、グローバリズムの原因が分かればアメリカをよりよく知ることができるであろう。
アメリカは建国以来アングロープロテスタント文化が中心の国家でありWASP(White Anglo-Saxon Protestant) が国民の大半を占めていた。
ところが第一次世界大戦以降WASP以外の移民が増加した結果WASPの割合が減少しアメリカは多人種多文化国家となった。人種の数が多くなれば人種間のトラブルも避けられない。こと人種については根強い偏見がつきまとう。
アドルフ・ヒットラーはユダヤ人について「この世界にユダヤ人だけがいるのなら、かれらは泥や汚物に息がつまりながらも、憎しみに満ち満ちた闘争の中で相互にペテンにかけよう、根こそぎにしようと努めるに違いない」(わが闘争)といってユダヤ人を寄生虫呼ばわりした。
日本については「日本の文化はヨーロッパの技術をつけ加えたのではなく、ヨーロッパの科学と技術が日本の特性によって装飾されたのだ」(わが闘争)とけなし仮にヨーロッパやアメリカのアーリア人がこの世からいなくなれば日本の科学技術は枯渇し昔の日本に戻るだろうといった。
アメリカ大統領フランクリン・ルーズベルトは「日本人の頭蓋骨はわれわれのより約2000年発達が遅れている」といったいう、真偽のほどは定かでないが彼が日本人蔑視の人種差別者であったことは間違いないようだ。
ことほどさように人種的偏見は根強く人びとの奥底に潜んでいる。
ところが人種的にWASPの割合が減って名実ともに多人種国家となったアメリカではマイノリティに対する攻撃とか偏見はアメリカの信条である自由と平等に反し社会正義にも悖るとされた。公民権運動はその一環である。
20世紀初頭からインディアン、黒人、ヒスパニック、アジア、ユダヤ系などマイノリティの権利が守られ増大するにつれ相対的にWASPの権利が低下した。
注目すべきはこの混沌とした多人種の中で人口わずか約2%に過ぎないユダヤ人が急速にその存在感を増したことである。
第二次世界大戦の最中、ヨーロッパのホロコーストから逃れたユダヤ人をアメリカは温かく迎えた。アメリカはユダヤ人にとって安息の地であった。そのアメリカでユダヤ人は思う存分才能を開花させた。
政治、経済、メディア、司法など主要な要職をユダヤ人が占めるようになった。従来はこれらの殆どをWASPが独占していた。アメリカの人種的メジャーがWASPからユダヤ人に移った。
アメリカは覇権国である。したがってヒットラーの言を逆手にとれば「寄生虫のユダヤ人が世界を支配した」ことになる。
カーター大統領の特別補佐官であったポーランド系ユダヤ人のズビグニュー・ブレジンスキーはアメリカにおけるユダヤ人の台頭を解説している。
「このように独特な文化的、政治的アイデンティティが役割を果たすようになったのは、かっては排他的だったWASPのエリート集団が崩壊し、またかっては同一化に努めていたアメリカで、多様性を受け入れていこうという動きが表面化した時期と一致する。
WASPの支配が衰えたのに代わって、社会的立場と政治的影響力を増大させたのがユダヤ系のコミュニティである。
その向上の歴史は驚くべきもので、ほとんど一世代のあいだに、かならずしもあからさまでないにしても広く偏見の対象にされていた彼らが、アメリカ社会で影響力の大きいさまざまな分野の要職を押さえるようになった。
それは、学界、マスメディア、娯楽産業であり、政治資金集めに関しても同様である。
ユダヤ人五、六百万はまた、平均的アメリカ人よりもはるかに高い学歴と高い収入を得ている。
より重要なのは、新しい多様性の時代にふさわしく、ユダヤ系の人々がユダヤ人としてのアイデンティティを目立たないようにすることがもはやなくなったことでありープレッシャー自体は五十年前同様、今でも多くの人が感じているがーまた、彼らはイスラエル繁栄のために当然の肩入れをすることを遠慮しなくなった。
アメリカの中東政策の形成にユダヤ系コミュニティが果たす役割は、過去数十年のあいだに、当初のおおむね消極的なもんから、徐々に積極的になり、ときには決定的な影響を与えるまでになった。」
(ズビグニュー・ブレジンスキー著堀内一郎訳朝日新聞社『孤独な帝国アメリカ』)
ユダヤ人がアメリカで台頭した原因は彼らが民族として優秀であったからかもしれない。
だがそれに劣らず重要なことは彼らがグローバリズムを最大限利用したことである。
このグローバリズムによって彼らは途方もない利益を得たのだ。ズビグニュー・ブレジンスキーはグローバリゼーションが経済理論から国家的信条へと変貌したという。
「分析であり、教義であるグローバリゼーションの概念をもっとも情熱的にもてはやしたのが、一流の国際企業や金融機関だったというのは示唆的である。
彼らはつい最近までは自分たちに、『多国籍』というレッテルを貼るのを好んでいた。
彼らにとってグローバリゼーションという流行語は大変な価値を象徴している。国家の時代である近代に本来備わっていた、世界的な経済活動に対する伝統的な規制を超越するものである。
グローバリゼーションの教義の熱狂的支持者には、それは経済的利益をもたらすだけでなく、必然的に政治的利益さえももたらすと熱弁をふるう者もいた。」(前掲書)
グローバリゼーションのメインプレイヤーは一流の国際企業や金融機関である。そしてその中心にユダヤ人がいる。これがアメリカの現実である。
グローバリゼーションの理論的支柱は歴史必然論である。国境の壁を取り払えば地球規模で最も効率よく成長できる、と。
ところが世界各地でグローバリゼーションに対する反対運動が起きている。本家本元のアメリカでは大統領が主導し世界中にその余波が及んでいる。
この政策は長く守られてきたが第一次世界大戦を境にアメリカは他国に干渉するようになった。
第二次世界大戦後アメリカは超大国となって世界の警察官的役割を担うようになった。
時を同じくして歴史の必然であるかのようにアメリカでグローバリズムが勢いを増しその傾向はクリントン大統領の時代に頂点に達した。
アメリカはグローバリズムの発信源でありトランプ大統領誕生で少し後退したとはいえいまなお世界の最前線である。 なぜそうなったか、グローバリズムの原因が分かればアメリカをよりよく知ることができるであろう。
アメリカは建国以来アングロープロテスタント文化が中心の国家でありWASP(White Anglo-Saxon Protestant) が国民の大半を占めていた。
ところが第一次世界大戦以降WASP以外の移民が増加した結果WASPの割合が減少しアメリカは多人種多文化国家となった。人種の数が多くなれば人種間のトラブルも避けられない。こと人種については根強い偏見がつきまとう。
アドルフ・ヒットラーはユダヤ人について「この世界にユダヤ人だけがいるのなら、かれらは泥や汚物に息がつまりながらも、憎しみに満ち満ちた闘争の中で相互にペテンにかけよう、根こそぎにしようと努めるに違いない」(わが闘争)といってユダヤ人を寄生虫呼ばわりした。
日本については「日本の文化はヨーロッパの技術をつけ加えたのではなく、ヨーロッパの科学と技術が日本の特性によって装飾されたのだ」(わが闘争)とけなし仮にヨーロッパやアメリカのアーリア人がこの世からいなくなれば日本の科学技術は枯渇し昔の日本に戻るだろうといった。
アメリカ大統領フランクリン・ルーズベルトは「日本人の頭蓋骨はわれわれのより約2000年発達が遅れている」といったいう、真偽のほどは定かでないが彼が日本人蔑視の人種差別者であったことは間違いないようだ。
ことほどさように人種的偏見は根強く人びとの奥底に潜んでいる。
ところが人種的にWASPの割合が減って名実ともに多人種国家となったアメリカではマイノリティに対する攻撃とか偏見はアメリカの信条である自由と平等に反し社会正義にも悖るとされた。公民権運動はその一環である。
20世紀初頭からインディアン、黒人、ヒスパニック、アジア、ユダヤ系などマイノリティの権利が守られ増大するにつれ相対的にWASPの権利が低下した。
注目すべきはこの混沌とした多人種の中で人口わずか約2%に過ぎないユダヤ人が急速にその存在感を増したことである。
第二次世界大戦の最中、ヨーロッパのホロコーストから逃れたユダヤ人をアメリカは温かく迎えた。アメリカはユダヤ人にとって安息の地であった。そのアメリカでユダヤ人は思う存分才能を開花させた。
政治、経済、メディア、司法など主要な要職をユダヤ人が占めるようになった。従来はこれらの殆どをWASPが独占していた。アメリカの人種的メジャーがWASPからユダヤ人に移った。
アメリカは覇権国である。したがってヒットラーの言を逆手にとれば「寄生虫のユダヤ人が世界を支配した」ことになる。
カーター大統領の特別補佐官であったポーランド系ユダヤ人のズビグニュー・ブレジンスキーはアメリカにおけるユダヤ人の台頭を解説している。
「このように独特な文化的、政治的アイデンティティが役割を果たすようになったのは、かっては排他的だったWASPのエリート集団が崩壊し、またかっては同一化に努めていたアメリカで、多様性を受け入れていこうという動きが表面化した時期と一致する。
WASPの支配が衰えたのに代わって、社会的立場と政治的影響力を増大させたのがユダヤ系のコミュニティである。
その向上の歴史は驚くべきもので、ほとんど一世代のあいだに、かならずしもあからさまでないにしても広く偏見の対象にされていた彼らが、アメリカ社会で影響力の大きいさまざまな分野の要職を押さえるようになった。
それは、学界、マスメディア、娯楽産業であり、政治資金集めに関しても同様である。
ユダヤ人五、六百万はまた、平均的アメリカ人よりもはるかに高い学歴と高い収入を得ている。
より重要なのは、新しい多様性の時代にふさわしく、ユダヤ系の人々がユダヤ人としてのアイデンティティを目立たないようにすることがもはやなくなったことでありープレッシャー自体は五十年前同様、今でも多くの人が感じているがーまた、彼らはイスラエル繁栄のために当然の肩入れをすることを遠慮しなくなった。
アメリカの中東政策の形成にユダヤ系コミュニティが果たす役割は、過去数十年のあいだに、当初のおおむね消極的なもんから、徐々に積極的になり、ときには決定的な影響を与えるまでになった。」
(ズビグニュー・ブレジンスキー著堀内一郎訳朝日新聞社『孤独な帝国アメリカ』)
ユダヤ人がアメリカで台頭した原因は彼らが民族として優秀であったからかもしれない。
だがそれに劣らず重要なことは彼らがグローバリズムを最大限利用したことである。
このグローバリズムによって彼らは途方もない利益を得たのだ。ズビグニュー・ブレジンスキーはグローバリゼーションが経済理論から国家的信条へと変貌したという。
「分析であり、教義であるグローバリゼーションの概念をもっとも情熱的にもてはやしたのが、一流の国際企業や金融機関だったというのは示唆的である。
彼らはつい最近までは自分たちに、『多国籍』というレッテルを貼るのを好んでいた。
彼らにとってグローバリゼーションという流行語は大変な価値を象徴している。国家の時代である近代に本来備わっていた、世界的な経済活動に対する伝統的な規制を超越するものである。
グローバリゼーションの教義の熱狂的支持者には、それは経済的利益をもたらすだけでなく、必然的に政治的利益さえももたらすと熱弁をふるう者もいた。」(前掲書)
グローバリゼーションのメインプレイヤーは一流の国際企業や金融機関である。そしてその中心にユダヤ人がいる。これがアメリカの現実である。
グローバリゼーションの理論的支柱は歴史必然論である。国境の壁を取り払えば地球規模で最も効率よく成長できる、と。
ところが世界各地でグローバリゼーションに対する反対運動が起きている。本家本元のアメリカでは大統領が主導し世界中にその余波が及んでいる。
2019年6月10日月曜日
揺らぐアメリカ 7
民主主義から独裁主義への移行は必ずしもクーデターによるとは限らない。
多くの場合民主主義的プロセスを踏んでそれとは見えない手法によって独裁主義へ移行している。後者の場合独裁主義に移行する前には兆候があるという。
19世紀から現在までヨーロッパや南米で民主主義が崩壊し独裁主義となった国々を20年以上にわたって研究してきたハーバード大学のスティーブン・レベッキーとダニュエル・ジブラットは「民主主義の死に方」でその兆候を4つを挙げている。
1. ゲームの民主主義的ルールを拒否(あるいは軽視)する
2. 政治的な対立相手の正当性を否定する
3. 暴力を許容・促進する
4. 対立相手(メディアを含む)の自由を率先して奪おうとする
第45代アメリカ大統領ドナルド・トランプはこのすべてを備えているように見える。
民主主義的手法を軽視する彼の性向はいつでも独裁化へと暴走する危険を孕んでいる。
ただアメリカには過去、世界の混乱に悪乗りしたフランクリン・ルーズベルト大統領、赤狩り旋風を巻き起こしたジョセフ・マーカーシー上院議員、ウオータゲート事件のリチャード・ニクソン大統領など独裁的傾向ある人物がいたがいずれも独裁主義とはならず民主主義は守られた。
トランプ大統領も彼らに劣らずそのような性向をもっているかもしれないがその度合いが大きく外れているとも思えない。
将来はともかくアメリカが差し迫って独裁主義に突き進むことはなさそうだ。
問題とすべきは、唯一の超大国であるアメリカで国民の多くがなぜこのような独裁的傾向のある大統領を支持するのか、なぜ自由と民主主義と法による支配を旗印にしながらこれを脅かすような大統領を支持するのか、である。
自由と民主主義と法による支配はアメリカ人の信条である、また社会的不公正を許さない平等も彼らの信条である。
大多数のアメリカ人はグローバル化がもたらした経済的格差に不満を抱いている。社会的正義が損なわれたと感じている。
グローバル化社会では一部のエリートに富が集中する。その結果、個人の能力と富の所在が比例せず極端にアンバランスとなり経済格差は拡大する。
これに不満を抱いた大衆がグローバル化に反対しナショナリズムに走っている。
独裁的傾向があるにもかかわらずトランプ大統領が多くの国民から支持されている主な理由はこの国民の不満であろう。
覇権国アメリカを発信源としたグローバリズムは今や全世界を覆っている。一方これに不満を抱く人びとがアメリカだけでなくヨーロッパでも反対運動を展開している。
グローバリズムを正しく知ること、これなくして現代アメリカを知ることはできない。
多くの場合民主主義的プロセスを踏んでそれとは見えない手法によって独裁主義へ移行している。後者の場合独裁主義に移行する前には兆候があるという。
19世紀から現在までヨーロッパや南米で民主主義が崩壊し独裁主義となった国々を20年以上にわたって研究してきたハーバード大学のスティーブン・レベッキーとダニュエル・ジブラットは「民主主義の死に方」でその兆候を4つを挙げている。
1. ゲームの民主主義的ルールを拒否(あるいは軽視)する
2. 政治的な対立相手の正当性を否定する
3. 暴力を許容・促進する
4. 対立相手(メディアを含む)の自由を率先して奪おうとする
第45代アメリカ大統領ドナルド・トランプはこのすべてを備えているように見える。
民主主義的手法を軽視する彼の性向はいつでも独裁化へと暴走する危険を孕んでいる。
ただアメリカには過去、世界の混乱に悪乗りしたフランクリン・ルーズベルト大統領、赤狩り旋風を巻き起こしたジョセフ・マーカーシー上院議員、ウオータゲート事件のリチャード・ニクソン大統領など独裁的傾向ある人物がいたがいずれも独裁主義とはならず民主主義は守られた。
トランプ大統領も彼らに劣らずそのような性向をもっているかもしれないがその度合いが大きく外れているとも思えない。
将来はともかくアメリカが差し迫って独裁主義に突き進むことはなさそうだ。
問題とすべきは、唯一の超大国であるアメリカで国民の多くがなぜこのような独裁的傾向のある大統領を支持するのか、なぜ自由と民主主義と法による支配を旗印にしながらこれを脅かすような大統領を支持するのか、である。
自由と民主主義と法による支配はアメリカ人の信条である、また社会的不公正を許さない平等も彼らの信条である。
大多数のアメリカ人はグローバル化がもたらした経済的格差に不満を抱いている。社会的正義が損なわれたと感じている。
グローバル化社会では一部のエリートに富が集中する。その結果、個人の能力と富の所在が比例せず極端にアンバランスとなり経済格差は拡大する。
これに不満を抱いた大衆がグローバル化に反対しナショナリズムに走っている。
独裁的傾向があるにもかかわらずトランプ大統領が多くの国民から支持されている主な理由はこの国民の不満であろう。
覇権国アメリカを発信源としたグローバリズムは今や全世界を覆っている。一方これに不満を抱く人びとがアメリカだけでなくヨーロッパでも反対運動を展開している。
グローバリズムを正しく知ること、これなくして現代アメリカを知ることはできない。
2019年6月3日月曜日
揺らぐアメリカ 6
安い労働力を求めて富を蓄積したグローバル企業や資本家はさらなる利益を求めてロビー活動で自国の政策決定に関与する。1ドル1票のように見える(ジョセフ・スティグリッツ)民主主義社会の誕生である。
その結果ごく少数のエリートがアメリカの富を独占し著しくバランスを欠いた社会となった。それでも今なおアメリカは唯一の超大国である。
長期的にはともかく覇権国アメリカから目を離せない。ケインズがいったように ”長期的にはわれわれはみんな死んでいる″ のだ 。
アメリカが今後とるべき道についてサミュエル・ハンチントンは世界主義、帝国主義、ナショナリズムの三つがあると言う。
世界主義は
「アメリカは世界を受け入れ、その思想、モノ、そして何よりも、人びとを受け入れる。
理想とされるのは開かれた国境のある開かれた社会であり、サブナショナルな民族、人種、文化のアイデンティティ、二重国籍、ディアスポラを奨励し、アメリカのものよりも、世界的な機関や規範や規則にますます共感を覚える指導者に率いられた社会である。
アメリカは多民族、多人種、多文化の国になる。多様性は最も価値が高くはないにしろ、最優先されるべきものだ。」(サミュエル・ハンチントン著鈴木主税訳集英社『分断されるアメリカ』)
帝国主義は
「アメリカの力は他のどんな国もしくは国の集合体よりも勝っており、だからこそアメリカは世界各地で秩序を保たせ、悪と戦う責任があるのだと言われた。
普遍主義者の考えによれば、他の社会の人びとも基本的にはアメリカ人と同じ価値観をもっており、そうでない場合は同じ価値観をもちたいと願っており、そう願っていなければ、自分たちの社会にとって何がよいのか誤解しているのであり、したがって彼らを説得または誘導して、アメリカが信奉する普遍的な価値観を彼らに抱かせる責任がアメリカ人にはある、という。
そのような世界では、アメリカは国家としてのアイデンティティを失い、国家を超えた帝国の支配的な要素と化すことになる。」(前掲書)
ナショナリズムは
「世界主義と帝国主義は、アメリカと他国のあいだの社会、政治、文化における差異を削除または排除しようとする。
一方、ナショナリスティックなアプローチは、アメリカをそうした社会から区別するのを認め、受け入れるものだ。
アメリカが世界になり、それでもまだアメリカのままでいることはできない。他国の人びとがアメリカ人になり、まだ自分たちのままでいることもできない。
アメリカは異なった国であり、その違いは主に信心深さとアングロープロテスタントの文化によって定義されている。 世界主義と帝国主義の代案となるのは、建国以来アメリカを定義してきたこれらの特質を守り、高めようと努力するナショナリズムなのだ。」(前掲書)
ハンチントンによれば、アメリカのエリートの多くはアメリカが世界主義的な社会になることを望み、エリートの一部はアメリカが帝国主義的な役割を演ずることを期待しているという。
だが圧倒的多数のアメリカ国民は何世紀にもわたって存在してきたアメリカのアイデンティティを守るナショナリスティックな道を目指そうとしているという。
ハンチントン自身はナショナリズムを支持している。その根拠として世界主義も帝国主義も21世紀初頭の世界の現状を正確に反映していないからである、という。
アメリカは唯一の超大国であることに違いはないが大国はそれ以外にも存在する。イギリス、ドイツ、フランス、ロシア、中国、日本が存在し、それぞれの地域内ではブラジル、インド、ナイジェリア、イラン、南アフリカ、インドネシアがある。
アメリカはこれらの国の少なくとも一部の協力がなければ、世界的には何ら重要な目的を達成しえない、ともいう。 そしてアメリカ人が何を選択するかが、国としての将来と、世界の将来を決めるだろう、と結んでいる。
現状はハンチントンの意向に沿うかのようにアメリカはナショナリズムに舵をきっている。
だがその舵取り役はアメリカが今まで決して容認してこなかった独裁的傾向をもった指導者である。
自由や民主主義や法による支配が独裁的傾向のある人物によって脅かされている。それはアメリカが建国以来大切に守り続けてきた信条であるアングロープロテスタント文化が脅かされていることを意味する。
アメリカ国民は建国以来旗印にしてきた信条を無視してナショナリズムに突き進む指導者をこのまま許すのだろうか。
その結果ごく少数のエリートがアメリカの富を独占し著しくバランスを欠いた社会となった。それでも今なおアメリカは唯一の超大国である。
長期的にはともかく覇権国アメリカから目を離せない。ケインズがいったように ”長期的にはわれわれはみんな死んでいる″ のだ 。
アメリカが今後とるべき道についてサミュエル・ハンチントンは世界主義、帝国主義、ナショナリズムの三つがあると言う。
世界主義は
「アメリカは世界を受け入れ、その思想、モノ、そして何よりも、人びとを受け入れる。
理想とされるのは開かれた国境のある開かれた社会であり、サブナショナルな民族、人種、文化のアイデンティティ、二重国籍、ディアスポラを奨励し、アメリカのものよりも、世界的な機関や規範や規則にますます共感を覚える指導者に率いられた社会である。
アメリカは多民族、多人種、多文化の国になる。多様性は最も価値が高くはないにしろ、最優先されるべきものだ。」(サミュエル・ハンチントン著鈴木主税訳集英社『分断されるアメリカ』)
帝国主義は
「アメリカの力は他のどんな国もしくは国の集合体よりも勝っており、だからこそアメリカは世界各地で秩序を保たせ、悪と戦う責任があるのだと言われた。
普遍主義者の考えによれば、他の社会の人びとも基本的にはアメリカ人と同じ価値観をもっており、そうでない場合は同じ価値観をもちたいと願っており、そう願っていなければ、自分たちの社会にとって何がよいのか誤解しているのであり、したがって彼らを説得または誘導して、アメリカが信奉する普遍的な価値観を彼らに抱かせる責任がアメリカ人にはある、という。
そのような世界では、アメリカは国家としてのアイデンティティを失い、国家を超えた帝国の支配的な要素と化すことになる。」(前掲書)
ナショナリズムは
「世界主義と帝国主義は、アメリカと他国のあいだの社会、政治、文化における差異を削除または排除しようとする。
一方、ナショナリスティックなアプローチは、アメリカをそうした社会から区別するのを認め、受け入れるものだ。
アメリカが世界になり、それでもまだアメリカのままでいることはできない。他国の人びとがアメリカ人になり、まだ自分たちのままでいることもできない。
アメリカは異なった国であり、その違いは主に信心深さとアングロープロテスタントの文化によって定義されている。 世界主義と帝国主義の代案となるのは、建国以来アメリカを定義してきたこれらの特質を守り、高めようと努力するナショナリズムなのだ。」(前掲書)
ハンチントンによれば、アメリカのエリートの多くはアメリカが世界主義的な社会になることを望み、エリートの一部はアメリカが帝国主義的な役割を演ずることを期待しているという。
だが圧倒的多数のアメリカ国民は何世紀にもわたって存在してきたアメリカのアイデンティティを守るナショナリスティックな道を目指そうとしているという。
ハンチントン自身はナショナリズムを支持している。その根拠として世界主義も帝国主義も21世紀初頭の世界の現状を正確に反映していないからである、という。
アメリカは唯一の超大国であることに違いはないが大国はそれ以外にも存在する。イギリス、ドイツ、フランス、ロシア、中国、日本が存在し、それぞれの地域内ではブラジル、インド、ナイジェリア、イラン、南アフリカ、インドネシアがある。
アメリカはこれらの国の少なくとも一部の協力がなければ、世界的には何ら重要な目的を達成しえない、ともいう。 そしてアメリカ人が何を選択するかが、国としての将来と、世界の将来を決めるだろう、と結んでいる。
現状はハンチントンの意向に沿うかのようにアメリカはナショナリズムに舵をきっている。
だがその舵取り役はアメリカが今まで決して容認してこなかった独裁的傾向をもった指導者である。
自由や民主主義や法による支配が独裁的傾向のある人物によって脅かされている。それはアメリカが建国以来大切に守り続けてきた信条であるアングロープロテスタント文化が脅かされていることを意味する。
アメリカ国民は建国以来旗印にしてきた信条を無視してナショナリズムに突き進む指導者をこのまま許すのだろうか。