2019年6月24日月曜日

揺らぐアメリカ 9

 トランプ大統領の言動は型破りである。ナンシー・ペロシ米下院議長はトランプ大統領を「倫理的にも知性的にもふさわしくない。彼は大統領職に不適格だ(ワシントンポスト紙)」と批判した。
 セックスや金銭にまつわるスキャンダル疑惑が絶えないトランプ大統領の言動に眉をひそめる人は多い。労働者など「米国の忘れられた人々」へ想いを寄せると言いながら実業界出身らしく企業減税に熱心である。
 それにもかかわらずアメリカ国民の過半はトランプ大統領を支持している。隠れ支持者が多いことから支持する理由は人柄ではなく政策にあるのだろう。
 トランプ大統領は就任前から一貫して「アメリカ・ファースト」を掲げている。アメリカ・ファーストは当然のことながら反グローバリゼーションである。
 グローバル企業家はグローバル資本主義は歴史の必然と主張する。ワシントンの政治のプロはグローバル企業家の影響下にありアメリカ・ファーストではない。
 トランプ氏はワシントンの政治のプロから政治を取り戻すといってホワイトハウスに乗り込んだ。
 トランプ人気を支えているのは反グローバリズムである。アメリカ人はグローバリズムがもたらした弊害に不満を抱いている。具体的にその弊害を整理してみよう。

 まず、経済がグローバル化すれば格差が拡大する。グローバル経済が進むにつれて格差が拡大ししかもそれが固定する。
 ・資本家と労働者の格差
資本家は利益のために国境を越えて安い労働力を求める、したがって労働者の賃金に競争原理が働き賃金はますます安くなる。
 ・大企業と中小企業の格差
弱肉強食の原理で大企業だけが儲かり中小企業は置き去りにされる。
 ・大国と小国の格差
アメリカが一人勝ちで唯一の超大国になったのはグローバリズムによる。グローバリズムの実験場ともいえるEU内ではドイツの一人勝ちでその他は経済が停滞している。

 次に、国境の壁が取り払われればグローバル企業は利益を求め自由に投資できるがその反面危機が発生すればたちどころに世界に拡散する。
 グローバルに展開するアメリカのヘッジファンドが仕掛け、1997年から始まったアジア通貨危機はロシア、ブラジルへと波及し国際社会は混乱した。
 2008年の全世界を巻き込んだリーマンショックはアメリカのたった一企業の破綻が原因であった。

 社会が不安定になるのは金融だけではない。実体経済においても起こる。
 グローバル企業はその体力と腕力で利益のために必要以上に生産する。その結果、需要不足供給過多のデフレとなる。 デフレ下ではいくら金融緩和しようが政府が賃上げを呼びかけようが効果なし。労働者の賃金は安きに放置されたまま上がる見込みなどない。

 このようにグローバリズムは格差と社会不安を招くがこれが極端にすすむと万事おカネがものをいう世界になる。
 そうなると一人一票の民主主義など成立しなくなる。刑務所が民営化されると利益のために囚人の数が増える。 戦争は軍需産業にとって干天の慈雨、売り上げを伸ばす好機となる。
 すべては目先の利益のためであって、「後は野となれ山となれ」だ。長期的な合理性を欠いた社会は脆弱である。
 グローバル社会の行き着くところはカネがすべてである。カネですべてを解決しようとしそれ以外の価値を認めない。
 その例としてブッシュ大統領のイラク戦争がある。大量破壊兵器保有の証拠がなく国連決議も経ないでイラクを攻撃した。兵器産業を代弁したネオコンの後押しがあったことは広く知られている。そこには自らの意思を他国に押し付ける傲慢さがある。
 だが今や世界におけるアメリカの相対的力は当時ほどはない。世界の警察官の役割を放棄した。
 アメリカ国民はやっとこのことに気づきはじめた。トランプ大統領の内向き姿勢はこのようなアメリカの現状に沿っている。
 このようなアメリカに今後日本はどう向き合っていけばいいのか。いままでどうり抱き着き外交でいいかどうかが問われている。

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