安い労働力を求めて富を蓄積したグローバル企業や資本家はさらなる利益を求めてロビー活動で自国の政策決定に関与する。1ドル1票のように見える(ジョセフ・スティグリッツ)民主主義社会の誕生である。
その結果ごく少数のエリートがアメリカの富を独占し著しくバランスを欠いた社会となった。それでも今なおアメリカは唯一の超大国である。
長期的にはともかく覇権国アメリカから目を離せない。ケインズがいったように ”長期的にはわれわれはみんな死んでいる″ のだ 。
アメリカが今後とるべき道についてサミュエル・ハンチントンは世界主義、帝国主義、ナショナリズムの三つがあると言う。
世界主義は
「アメリカは世界を受け入れ、その思想、モノ、そして何よりも、人びとを受け入れる。
理想とされるのは開かれた国境のある開かれた社会であり、サブナショナルな民族、人種、文化のアイデンティティ、二重国籍、ディアスポラを奨励し、アメリカのものよりも、世界的な機関や規範や規則にますます共感を覚える指導者に率いられた社会である。
アメリカは多民族、多人種、多文化の国になる。多様性は最も価値が高くはないにしろ、最優先されるべきものだ。」(サミュエル・ハンチントン著鈴木主税訳集英社『分断されるアメリカ』)
帝国主義は
「アメリカの力は他のどんな国もしくは国の集合体よりも勝っており、だからこそアメリカは世界各地で秩序を保たせ、悪と戦う責任があるのだと言われた。
普遍主義者の考えによれば、他の社会の人びとも基本的にはアメリカ人と同じ価値観をもっており、そうでない場合は同じ価値観をもちたいと願っており、そう願っていなければ、自分たちの社会にとって何がよいのか誤解しているのであり、したがって彼らを説得または誘導して、アメリカが信奉する普遍的な価値観を彼らに抱かせる責任がアメリカ人にはある、という。
そのような世界では、アメリカは国家としてのアイデンティティを失い、国家を超えた帝国の支配的な要素と化すことになる。」(前掲書)
ナショナリズムは
「世界主義と帝国主義は、アメリカと他国のあいだの社会、政治、文化における差異を削除または排除しようとする。
一方、ナショナリスティックなアプローチは、アメリカをそうした社会から区別するのを認め、受け入れるものだ。
アメリカが世界になり、それでもまだアメリカのままでいることはできない。他国の人びとがアメリカ人になり、まだ自分たちのままでいることもできない。
アメリカは異なった国であり、その違いは主に信心深さとアングロープロテスタントの文化によって定義されている。 世界主義と帝国主義の代案となるのは、建国以来アメリカを定義してきたこれらの特質を守り、高めようと努力するナショナリズムなのだ。」(前掲書)
ハンチントンによれば、アメリカのエリートの多くはアメリカが世界主義的な社会になることを望み、エリートの一部はアメリカが帝国主義的な役割を演ずることを期待しているという。
だが圧倒的多数のアメリカ国民は何世紀にもわたって存在してきたアメリカのアイデンティティを守るナショナリスティックな道を目指そうとしているという。
ハンチントン自身はナショナリズムを支持している。その根拠として世界主義も帝国主義も21世紀初頭の世界の現状を正確に反映していないからである、という。
アメリカは唯一の超大国であることに違いはないが大国はそれ以外にも存在する。イギリス、ドイツ、フランス、ロシア、中国、日本が存在し、それぞれの地域内ではブラジル、インド、ナイジェリア、イラン、南アフリカ、インドネシアがある。
アメリカはこれらの国の少なくとも一部の協力がなければ、世界的には何ら重要な目的を達成しえない、ともいう。 そしてアメリカ人が何を選択するかが、国としての将来と、世界の将来を決めるだろう、と結んでいる。
現状はハンチントンの意向に沿うかのようにアメリカはナショナリズムに舵をきっている。
だがその舵取り役はアメリカが今まで決して容認してこなかった独裁的傾向をもった指導者である。
自由や民主主義や法による支配が独裁的傾向のある人物によって脅かされている。それはアメリカが建国以来大切に守り続けてきた信条であるアングロープロテスタント文化が脅かされていることを意味する。
アメリカ国民は建国以来旗印にしてきた信条を無視してナショナリズムに突き進む指導者をこのまま許すのだろうか。
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