2014年8月11日月曜日

衰退するアメリカ 1

 1897年6月22日は大英帝国ビクトリア女王の在位60周年記念日であった。

 「八歳のアーノルド・J・トインビーが叔父に肩車された状態で、パレードを食い入るように見つめていた。
 のちに有名な歴史家となったトインビーは、当日の壮大な式典を思い返し、こう感想を記している。
 『まるで太陽が天界の真ん中で静止したかのようだった。ヨシュアの命令で静止したときと同様に・・・。
 わたしは当時の雰囲気をおぼえている。
 ”おお、われわれが今いるのは世界のてっぺんだ。永遠にここにとどまり続けるべく、われわれは頂点まで登りつめてきた。
 もちろん、歴史というものの存在は知っている。しかし、あの歴史という不愉快なものは、ほかの連中の身に降りかかってくるものだ。われわれは愉快にも歴史の枠外にいる”』」
(ファリード・ザカリア著楡井浩一訳徳間書店『アメリカ後の世界』)

 八歳時のトインビーに限らず、天界の光輝く太陽は、その場にいる人にとってはいつまでも没することがない錯覚にとらわれるにちがいない。
 この記念日からわずか2年後大英帝国はボーア戦争にてこずり帝国の威信に翳りが見え始めた。

 アメリカのブッシュ政権が仕掛けたイラク戦争は国際社会から批判を浴び、アメリカの威信を傷つけたが大英帝国のボーア戦争と重ね合わせに見える。
 覇権国はいづれ衰亡の時を迎える。

 「研究者と評論家の多くは、新興諸国の躍進を目のあたりにして、アメリカの全盛期は過ぎたという結論を下してきた。
 インテル創業者のアンディ・グローブは次のように断じている。  『アメリカはヨーロッパ衰退の二の舞を演じつつある。最悪なのは、誰もそれに気づこうとしないことだ。タイタニック号が全速力で氷山に向かっているというのに、誰もが現実から目を背け、仲間うちの自画自賛に明け暮れている』」(前掲書)

 先見の明あるからこそ成功したであろうインテル創業者の指摘にはそれなりに重みがあると思うが、アンディ・グローブの指摘などには目もくれず、アメリカはいつまでも天界の太陽であるかのごとくふるまっている。
 国際社会も、世界中のどこかで紛争があればアメリカが解決してくれるのではないかと密かに期待している。
 途上国のみならず先進国も、アメリカに注目している。
 リーマンショックは全世界に多大な影響を及ぼし爾来アメリカの一挙手一投足から目が離せないでいる。
 世界はアメリカの覇権が揺るがないことを暗々裏に期待しているかのようだ。
 米ドルは世界中どこでもハードカレンシーだし、米国軍事予算は一国で世界の約50%を占める。
 覇権国アメリカとともに同時代を生きるわれわれは、トインビーならずとも、アメリカの覇権は永遠に続くという錯覚に陥りかねない。 ましてアメリカの衰亡などと言われてもにわかに信じられない。
 長きにわたりアメリカの威信を眼前で見せつけられてきたのだから。

 が、現実の世界では、アメリカが介入する紛争で綻びが見えはじめ、アメリカの威信にも翳りが見え始めている。
 アメリカの最盛期は過ぎ、密かに衰亡への途を辿っていると見る識者は多い。
 いずれやってくるであろう覇権国アメリカの脱落は何時なのか、またどのような方法でやってくるのか。これに対し日本の対処は。 識者の著作を手がかりに考えてみたい。

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