2019年5月5日日曜日

揺らぐアメリカ 2

 アメリカ人がいかに信心深い国民であるか、米シンクタンク PEW RESEARCH CENTERの宗教心に関する調査でそのことが分かる。
 下図は同シンクタンクが各国の一人当たりGDPと日々の生活で宗教が占める役割の比率を図表化した国際比較である。

(縦軸:2011~2013年宗教が日々の生活に占める役割比率 横軸:2013年一人当たりGDPーIMFdataから)



 裕福になるほど信仰心が薄く貧しくなるほど信仰心が
篤くなる傾向にある。
 日本を筆頭に先進諸国が比較的宗教に関心がない中でアメリカ人の宗教心の高さが際立っている。
 なぜアメリカ人はこうも信仰に篤いのか。アメリカの歴史が短いからという見方もある。プロテスタントの比率が高いからという見方もある。そのいずれも的が外れている。
 同じく歴史が短いオーストラリア、カナダはアメリカほど宗教に熱心でないしプロテスタントの比率が高いイギリス、ドイツでも同じことが言えるからである。
 アメリカ人がなぜかくまでも信心深いか、その答えはアメリカという国家の誕生に由来している。
 ここでもジークムント・フロイドの幼児体験がその後の行動を律するという法則が生きている。
 自ら17世紀入植者の子孫であるアメリカの政治学者サミュエル・ハンチントンは言う。

 「17世紀の入植者がアメリカに共同体を築いたのは、これまで見てきたように、主に宗教的な理由からだった。
 18世紀のアメリカ人とその指導者たちは、アメリカ独立革命について聖書にもとづく宗教的な見地から見ていた。
 アメリカでは『聖書が文化を形成するうえで、ヨーロッパには例をみない役割を果たした・・・アメリカのプロテスタントはソラ・スクリプトゥラ(聖書のみ)の原則のもとに団結していた』。
 独立革命は『神との契約』を反映していたのであり、それは『神の選民』とイギリスの『キリスト反対者』との戦いだった。
 ジェファーソンやトマス・ペインをはじめとする理神論者や無信仰の人びとは、革命を正当化するには宗教の助けを借りる必要があると考えた。」
(サミュエル・ハンチントン著鈴木主税訳集英社『分断されるアメリカ』)

 アメリカ人には伝統的に自らを古代イスラエルになぞらえる選民意識がある。
 つぎの比喩はアメリカ人にとっても見当はずれではないだろう。

 ワシントン将軍は旧約聖書の中の「預言者モーゼ」である。モーゼは人びとをエジプトから約束の地カナンに導いた。ワシントン将軍はイギリス軍を破り独立を勝ち取って約束の地アメリカに建国した。
 使途パウロにあたるのが独立宣言と合衆国憲法を起草したジェファーソンである。
 イエス・キリストは人びとの罪のために十字架で贖いの死を遂げた。エイバラハム・リンカーンは南北戦争という血によって国家の罪を贖い、自らは凶弾に倒れ犠牲の血でアメリカ再生への途を開いた。

 アメリカは宗教の助けを借りて誕生した国である。宗教を否定することは国を否定するに等しい。

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