2017年11月20日月曜日

デフレの怖さ 2

 デフレはインフレの対語である。インフレが強者の敵とすればデフレは弱者の敵である。
 どちらも敵には違いないがハイパーインフレを除けばデフレはインフレより怖い。
 インフレは富裕層に損をさせるがデフレは物価が下がる以上に所得が下がり経済的弱者に損をさせるのでデフレのほうがより一層経済に与えるダメージが大きい。
 かかる見方が一般的であるが反対もある。

 経済政策によって円安とインフレを起こすことは百害あって一利なし。円高・デフレの成熟した社会こそ理想である。こう主張するのは経済学者の小幡績氏である。
 小幡氏は、日本経済が停滞している原因についてこう言う。

 「多くの人が陥っている誤りを正すと次のようになる。
 第一に日本経済は需要不足ではなく、供給力不足である。
 第二に、供給力不足と言っても、単純に移民や女性投入(女性活用という言葉を、輝ける女性に代えたところで、彼らの狙いは労働力の頭数を増やすことに変わりはない)などで労働力増やすことや単に設備投資をすることによっては解決できず、質の高い労働力とニーズに合った実物資本。そして、将来にわたってニーズをつかみ続けるような柔軟な研究開発能力が必要だ。
 第三に、消費を無理に増やすことは、百害あって一利なしである。需要が足りているなかでは、単なる無駄なインフレが起きるだけであり、景気の過熱はロスとなる。
 さらに、消費を増やすということは貯蓄を減らすことであり、貯蓄が減るということは、貯蓄が元になる、つまり貯蓄の裏返しである投資が減るということであり、投資が減るということは、日本経済の将来への生産力、供給力が落ちることである。
 そして、これこそ、日本経済が陥っている成長力不足をさらに深刻化させた原因である。」

 この誤りを正すにはどうしたらいいか。

 「まず、景気対策を止める。公共事業はもちろん止める。歳出削減をさらに進める。社会保障も削減する。
 その代わり、現状の社会保障を維持するなら30%以上とも言われている消費税率の引き上げを15%までに抑える。歳出を削減し、歳入もそれに見合ったものにする。
 小さな政府というよりは、『効率的な政府』を目指す。これが、最大の成長戦略であり、日本の成長力は上がる。
 なぜ成長力が上がるのか? 国債市場を縮小することになるからである。これが成長には重要だ。つまり、過去15年の政府債務の急増によって、民間にあふれる資金が政府部門という成長を生み出さないところに吸収されてしまい、いわばブラックホールに吸い込まれたように、資金が成長にまったく貢献しなくなっていたことが、成長率が低下していた根本原因だからである。
 政府は成長戦略ができない。これは現政権だけでなく、今まで誰もできなかった。政府にはできないのである。だから、資金を民間セクターに取り戻す。これが最大の成長戦略だ」(小幡績著ディスカヴァー携書『円高・デフレが日本を救う』)

 小幡氏はまた、円安は日本経済にマイナスの影響をもたらすという。
 「大企業が輸出で儲け、富裕層が株で儲け、低所得者がガソリン、食料の必需品の値上がりで苦しみ、中小企業の大半が内需企業で、原材料費や光熱費などにおいて円安による輸入品コスト上昇で苦しくなった。しかし、この格差が問題なのではなく、経済全体トータルで損をしていることが問題なのである。」
 そして円高の利点については
 「円の価値を維持し、高める。これにより、世界の資産、財を安く手に入れる。円高を背景に、世界中の企業を賢く買収し、世界に生産拠点、開発拠点、さらには研究拠点のポートフォリオを確立し、それを有機的に統合する。
 すでに大企業ではこれを行っているが、中堅企業を含めて、この大きなグローバルポートフォリオに参加する。」(前掲書)

 デフレを礼賛し、円高を歓迎する。
 日本経済の低迷は、需要不足ではなく供給不足である。かりに需要不足に陥れば市場を世界に求めればいい。そのためには価格競争力がなくてはならない。
 円安はそれにもとる。円安は経済格差が問題ではなく競争力を阻害するから問題なのである。
 小幡氏のこのような主張はグローバル市場経済で生き残りを図る多国籍企業やヘッジファンドのそれと重なる。
 政府の干渉を極力少なくするという新自由主義者のそれに限りなく近い。
 彼の目指す成熟社会はもちろん日本国を意味しているのだろう。だがその成熟社会なるものは意図に反して一部のグローバル企業家を利する社会となろう。
 彼は政府に歳出削減と増税をすすめ成長戦略は民間に任せるという。
 3%から5%、5%から8%へと消費税増税のたびに消費が極端に落ち込んだがこれをさらに15%に増税すればどういうことになるか。
 また国民が消費をひかえ貯蓄すればそれが将来投資として生きその投資が成長を促進する。経済は、個人の総和であるから国民一人ひとりの節約が将来の投資になり経済成長へとつながるという。
 マクロ経済学が教える「合成の誤謬」を地でいくような言葉である。支離滅裂としか言いようがない。
 彼の主張を実行すれば大多数の日本国民は貧困化し塗炭の苦しみを味わうこと請け合いである。

0 件のコメント:

コメントを投稿